「Cosmopolis」鑑賞


デヴィッド・クローネンバーグが、「危険なメソッド」の直後にしれっと作ってしまった、ドン・デリーロの小説「コズモポリス」の映画版。

舞台となるのはニューヨークのマンハッタン。大統領が来ているということで街には厳戒な警備が敷かれ、富裕層に対するデモも暴徒化し、交通網は麻痺状態に陥っていた。そんななかでも28歳にして資産運用会社の社長で億万長者であるエリック・パッカーは馴染みの店で散髪をしてもらうことを突然決意し、巨大なリムジンに乗って街を横断することとなる。遅々として進まないリムジンの中で彼はさまざまな人々に出会うのだが、やがて何者かが彼の命を狙っているという情報が入り…というプロット。

なんかリムジンの進行とストーリーの進み具合が見事にシンクロしてまして、要するに車も話もひたすらチンタラ進むなか、主人公が出会った人たちと無機質な会話を延々と繰り広げるという展開が続く。それでも話は車にあわせていちおう進んでいるわけで、リムジンを降りてからの残り30分の展開は話がどこにも行かなくなっててかなりしんどかったよ。

主人公が出会うのは彼と結婚したばかりの令嬢や、彼の愛人、ジョギング中のママ、医者、好きなラッパーの取り巻きなどなど。そしてみんな喋る喋る。良く言えば奥の深い、悪く言えば意味不明な会話が延々と繰り広げられるのだが、これ日本語で字幕にするのは大変だろうなあ。

主人公のパッカーは巨万の富を手にしながらも何事にも興味を抱けない人物で、むしろ破滅願望を抱いているタイプ。中国元に対して無謀な賭けをして財産を失うリスクを抱えながらも、車中では経済の崩壊に関する話を繰り広げ、社外では暴徒による混乱がエスカレートし、パッカー自身の身にも危険が忍び寄るなか、文字通り破滅に向かってゆっくり進んでいくリムジン、というメタファーはよく分かるんだけど、それ以上の意味もあるんでしょうか。

主人公のパッカーを演じるのは、「トワイライト」シリーズで今をときめくロバート・パティンソン。裸で前立腺検査を受けながら経済について語るという腐女子感涙の光景も見せつけてくれるぞ。ラース・フォン・トリアーの作品もそうだけど、若手俳優は自分の演技力をアピールしたくてこういうリスキーな役を選ぶのかな。他にもポール・ジアマッティやサマンサ・モートン、ジュリエット・ビノシュなど比較的豪華なキャストが出演しているけど、殆どの人の登場シーンは短いのであまり印象に残らないかも。

車が重要な要素を占める映画のゆえ、クローネンバーグの過去作では「クラッシュ」に通じるものがあるかな。テクノロジーもしくは経済の疲労と現代社会の衰退がリンクしているというか。あと劇中に出てくるニュース映像は「ビデオドローム」ぽかったです。この映画の脚本をクローネンバーグは6日で書き上げたらしいが、これだけセリフが多いものをそれだけの短期間で仕上げるのは見事なのか、あるいは脚本を十分に練ってないからセリフだらけの内容になってしまったのか。原作にはどこまで忠実なんだろう。「危険なメソッド」に続き、セリフに多くを頼った内容になってるのはあまり好ましくない傾向かも。え、そこで終わるの?というラストも含め、評価が二分される作品ではないでしょうか。

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