「Y: The Last Man」のブライアン・K・ヴォーンがカナダの女性アーティストのフィオナ・ステープルズと組んで出した、イメージ・コミックスの新作シリーズのペーパーバック第1巻。おれちょっと前まではイメージの作品なんて殆ど興味なかったんだけど、先週の「The Manhattan Projects」といい最近は野心的な作品がいろいろ出てきてますね。DCコミックスのヴァーティゴ・レーベルが縮小気味なのにあわせ、ヴォーンやグラント・モリソンといった作家がイメージに移行しているような。
話は宇宙をまたにかけたスペースオペラで、翼をもち科学技術に頼るランドフォール人と、角があって魔法を操るリース人とのあいだにおける戦争は何世代にも渡って続き、他の惑星にも飛び火したことで銀河を2分する泥沼のような争いになっていた。そんなときランドフォール人のアラーナとリース人のマーコは戦場で出会い、敵同士でありながらも恋に落ちてヘイゼルという女子をもうける。しかし2人の結婚は両種族にとって大きなタブーであり、事態を重く見たランドフォールとリースの首脳部はそれぞれ2人のもとに刺客を遣わし、ここに親子3人の長く厳しい逃避行が始まることになる…というようなプロット。
原案はヴォーンが「スター・ウォーズ」に触発されてできたものらしいが、ハードSFのスペオペというよりも、魔法やモンスターのごとき種族がいろいろ出てくる事もあり「指輪物語」みたいなファンタジーの要素も強いかな。アラーナとマーコの逃避行に加え、彼らを追跡するランドフォールの王子(王族はまた別の種族で、頭部がテレビになったヒューマノイドの姿をしている)や、リースに雇われたザ・ウィルという二枚目半の賞金稼ぎの葛藤などが描かれている。銃と魔法によるアクションも多分にある一方で、戦時下の禁じられた愛や追われる者の悲しみといったペーソスが根底にあるのもストーリーに深みを与えているな。物語のナレーションをヘイゼルが過去形で語るという仕組みも、今後の展開に含みを持たせてくれて秀逸。
そしてストーリーに加えて、ステープルズのアートが大変素晴らしいのですよ。スタイル的には誰に近いんだろう?一時期のショーン・フィリップス?従来のアメコミではあまり見かけない間色系のカラーリングに加え、さまざまな種族を描いたセンス・オブ・ワンダーっぷりが大変素晴らしい。こんなアーティストがいたとは全く知らなかったよ。日本でも受けそうな画風だと思うが、ヘイゼルのナレーションがアート上にじかに書かれているのが翻訳の際のネックになるかな。
開始時から各方面より絶賛を受けているこの作品、第1巻は実質7話ぶんのボリュームながらアマゾンで1000円以下というお得さ。昼メシ抜いてでも買うことをお勧めします。
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