「Dogtooth」こと「籠の中の乙女」で全世界の度肝を抜いたヨルゴス・ランティモス監督の新作。主演は「乙女」の長女を演じた人で、「Attenberg」の女の子も出てます。
新体操のジムに通う少女2人が、中年男性ふたりと組んで「アルプス」というグループを結成。彼らは愛する人たちを失った遺族に近づき、亡くなった人の身代わりをしばらく演じることで、別れの悲しみを和らげさせるという商売を始めるのだが…というようなプロット。
話のあらすじだけ聞くと、人との別離を感情的に描くとか、他人を演じてアイデンティティ・クライシスに陥るとか、職務を忘れて遺族を愛してしまうとか、なんかそんなメロドラマチックな展開を期待してしまうのですが、そんな描写は全然なくて、ただ与えられた仕事を無機質に淡々とこなしていく主人公たちの姿が描かれていく。
彼女たちの「サービス」を受ける遺族たちについても顔が殆ど映されず、感情も表にしないのがかなり不気味で、主人公たちに感謝するどころか彼女たちにコスプレをさせ、あれこれ指示してコキ使っている始末。恋人代行としてエッチする者もいるほか、亡くなった夫の浮気現場を再現させ、それを「発見」して主人公をペチペチ叩くオバさんとか、もうやりたい放題。
前作では家の中という非常に限られた空間におけるニセモノの世界という設定が斬新であったが、今回は本物の世界にニセモノの人物を持ってきたことで、どうも話の焦点が希薄になってしまった感じ。この監督のスタイルではあるんだろうが、あまりにも説明不足で突き放した印象を受けてしまい、どうしても話に感情移入できないのが残念。もうちょっと観る人へのサービス精神を発揮してくれたらもっと楽しめる作品になっていただろうに。この監督の次回作は英語の作品になるらしいが、もう少し大衆性を持ってくれることに期待。