「Life Itself」鑑賞


昨年亡くなった映画評論家ロジャー・イバート(エバート)の伝記ドキュメンタリー。晩年に執筆した同名の自伝を基にしたもので、映画論などよりも人としてのイバートに焦点をあてた内容になっている。

若い頃からジャーナリズムに興味のあったイバートは、大学卒業後に地元イリノイの新聞社シカゴ・サン=タイムズに雇われ、そこで映画批評の記事を書いて若いうちから頭角を示していく。イバートのナレーションや知人たちへのインタビューによって当時のことが語られていくのだが、なぜ彼が突然ラス・メイヤーの映画に共感し、カルト映画「ワイルド・パーティー」の脚本を書くことになったのかについては、未だに知人たちが当惑しているのが興味深い(「おっぱいだよ!」という明確な説明もされるのだが)。

そして1975年には映画評論家として初めてピュリツァー賞を受賞し、それからライバル新聞社の評論家であるジーン・シスケルと組んで「Two Thumbs Up!」で有名な映画番組「At The Movies With Gene Siskel & Roger Ebert」を製作してお茶の間の人気者になっていく。シスケルとは長年のパートナーでありながら、性格的にも映画の好みも正反対で、番組の挨拶を撮影するのも口喧嘩して何度も撮り直ししてるのが印象的であった。番組は全国規模のものになりながらも、自分が気に入った作品は公開館が少ないものでもきちんと紹介し、若手作家たちの映画もイバートはきちんとチェックしていた。また無名時代のマーティン・スコセッシをきちんと評価し、彼が有名になったあとでも評価できない作品(「ハスラー2」)についてはしっかり酷評したとスコセッシ自身が語っている。

なお冒頭から晩年の彼の入院シーンで始まり、彼の健康状態が決して良いものでないことが明確にされているわけだが、ガンによって下あごの骨を摘出し、顔の下半分はただブラリと顔に垂れ下がり、苦痛で顔を真っ赤にして看護婦から気管の吸引を受けている姿などは実に痛々しい。すべてをさらけ出したいというイバートの意向によりリハビリの光景なども撮影されており、奥さんがとにかく献身的で偉いんですよ。しかしガンが転移していることを知り、「このドキュメンタリーの完成を目にすることはないだろう」と悟ったように語るシーンが物悲しかった。声を失ってからもtwitterなどでは精力的な書き込みをしており、大統領選挙などについても的確なコメントをしてたのだけど、その裏では苦しい闘病生活をしていたのだなあ。

観ることによって新しいことを発見できるようなドキュメンタリーではないものの、ロジャー・イバートという芯の通った映画評論家がいたんだよ、ということを後世に伝えるものとしては最良の作品でしょう。

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