前から興味のあった、イギリスのミュージシャンであるイアン・デューリーの2010年の伝記映画。
少年時代にプールでポリオにかかって左半身が麻痺したデューリーは障害児向けの学校で寮生活を送るものの同級生や先生に虐待され、当然のごとくひねくれた大人に成長。結婚して子供ができても家族のことなどそっちのけでバンド活動に専念し、若い愛人ができて別居したはずが妻と子供を招いて4人で暮らす奇妙な生活を送り、そんな環境で育った息子のバクスター(彼自身もミュージシャンなんですね)も当然のごとくひねくれた少年に成長。そんな息子と父との交流を軸にデューリーの人生が描かれていく。
ステージ上での語りと回想として話が始まり、過去の回想と現在がクロスカッティングされてストーリーが進んで行くために時系列がこんがらがっていて、褪せた色調やコラージュが使用された画面づくりは往年のイギリスのアートシネマといった感じ。ニコラス・ローグの作品に似ているのかな?監督のマット・ホワイトクロスって知らない人だったけど、ストーン・ローゼスにデモテープを渡そうとする若者たちの映画「SPIKE ISLAND」なんてのも撮ってるのですね。そっちも面白そう。
主演はアンディ・サーキス。最近は顔を出さないモーションキャプチャーの人、という印象が強いですが、デューリーそっくりな格好に扮して大変な熱演をしています。歌も自分で歌ってるよね?そんな彼の薄幸な妻を演じるのが、薄幸な妻ばかり演じてる感じがするオリビア・ウィリアムスで、愛人役がナオミ・ハリス。バックバンドのブロックヘッズのメンバーとしてはトム・ヒューズ演じるチャズ・ジャンケルに焦点が当てられている。他にもルーク・エヴァンズやアーサー・ダーヴィルやマッケンジー・クルック、ノエル・クラーク、トビー・ジョーンズなど今にしてみれば滅茶苦茶豪華な役者陣が揃ってるのですが、あまり目立ってないので後になって「え、そんな人たちが出演してたの?」と驚いた次第。
奇しくも日テレで24時間テレビをやってる日に見たわけですが、国連が1981年を「障害者の年」と発表したことに嫌気がさし、障害者としてチャリティ向けの曲を書いてくれと依頼され、悪態をつきまくる「Spasticus Autisticus」を発表したらBBCに放送禁止にされたくだりは面白かったですね。特に心に残るような伝記映画ではないが、イアン・デューリーを好きな人なら観る価値はあるかと。