「ハクソー・リッジ」鑑賞


良心的兵役拒否者でありながらも第二次世界大戦に参戦し、沖縄の激戦で多くの人命を救った衛生兵デスモンド・ドスの活躍を描いた、メル・ギブソンの久々の監督作品。以下ネタバレ注意。

内容はおおまかに3つのパートに分かれていて、前半は敬虔なセブンスデー・アドベンチスト教会の信者として育ったデスモンドが、信仰上の理由から人を殺めることを拒否し、家庭内での暴力を目撃した経験から銃を持つことまで拒みつつも、戦場で戦う人々のために貢献したいという思いから陸軍へ入隊志願する姿が描かれる。

銃を扱わないばかりかベジタリアンで肉を食べず、安息日は訓練をしないデスモンドは当然ながら上官や同僚に疎まれるわけで、トイレ掃除を命じられ、同僚たちにはリンチをくらう次第。でもね、これが旧日本軍だったら上官に体罰をくらって恐らく廃人になってますよ。というわけで日本人から見ると彼が受けてる仕打ちは意外と生ぬるかったりする。ついに彼の態度が問題視されて軍法会議にかけられるのだが、デスモンドの父親の尽力もあって彼は除隊を命じられず、銃を持たぬまま戦場へ赴くことを許される。こういうのがアメリカ軍の余裕ですかね。なおデスモンドの父親は第一次大戦でPTSDになって飲んだくれで息子たちに暴力を振るってたらしいのだが、その一方でこうして息子を助けたりしてて、あまり怖いという印象は受けず。つうか前半の演出はTVムービー並みのクオリティで主人公の葛藤もあまり表されておらず、凡庸な出来であったよ。

それが後半になって沖縄の戦場に場面が移ってからは俄然と話が面白くなる。日本軍が死守する前田高知の絶壁ことハクソー・リッジを陥落させるためにアメリカ軍が崖をよじ登り、上にいる日本兵と肉弾戦を繰り広げていく。戦場の描写は凄惨で、撃たれた兵士が単に倒れるようなものではなく、当たった銃弾はすべて体を貫通して血を撒き散らし、掃射を受けた兵士の肉と骨が避け、死体の臓物が飛びちってグロ描写が満載。ここらへんは反戦のメッセージというよりも監督の趣味なんだろうなあ。なお肝心のデスモンドは銃が撃てないのであんまり活躍せず、負傷した兵士を介抱している程度。

そして最後のパートでは戦闘が一段落したあとで、戦場に残された負傷兵をデスモンドが単身救出していくさまが描かれる。日本兵の目をかいくぐって一人また一人と兵を運び、崖の下へと降ろしていく。ここが一番の見所で、主人公の献身がよく分かるようになっているわけですね。最終的には75人以上の兵士をデスモンドは救出したという。

なお戦後のデスモンドは戦時中に罹患した結核のために片肺と肋骨5本を失い、抗生物質の過剰投与で聴覚を失い、働けない彼にかわって看護婦の妻が家計を支え、それで2006年まで生きていたという波乱の人生を送ったらしいが、そこらへんは映画では描かれてません。

また気になる日本軍の扱いだが、日本兵同士が会話するようなシーンは全くなし。ゾンビのごとく死を恐れずにわらわらと襲いかかってくる、強大で不気味な存在になっている。まあ切腹とか特攻のようなシーンもあるのだが、あまり気になる描写はなかったかな。こういうのを見て反日と騒ぐ人は、何にでも騒ぐのでしょう。

デスモンドを演じるのはアンドリュー・ガーフィールド。相変わらずフニャフニャした話し方だが純朴な主人公の役には合っている。「沈黙」では同じく日本で神が何も答えてくれないことに苦悶していた彼だが、こちらでは神に一方的に語りかけてひたすら行動!「あと一人だけ助けさせてください」とか言いつつ何十人も人を助けてます。

彼をしごく上官にヴィンス・ヴォーン。銃が大好きなコテコテの右翼らしいので、鬼軍人の役は板についてます。もう一人の上官を演じるのがサム・ウォーシントン。相変わらず特徴がないというか、無味乾燥な役者で…。あとは主人公の父親をヒューゴー・ウィービングが演じてたりします。アメリカ軍の映画なのに監督がオーストラリア人で、アメリカ人のキャストが少ないな。

反戦映画というには血湧き肉躍る戦闘描写が満載で、単にメルギブが戦争映画撮りたかっただけじゃないの?とも思うけれど、戦闘シーンの迫力は凄いし、こういう人が日本の相手国にいたんだよ、というのを知るのには良い映画かと。

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