「A PRAYER BEFORE DAWN」鑑賞


日本では「暁に祈れ」の邦題で12月に公開される作品。

タイの刑務所に3年ほど服役したイギリス人ボクサー、ビリー・ムーアの自伝を映画化したもの。タイに流れ着いて麻薬中毒になっていたムーアは現地の警察に逮捕され、劣悪な環境の刑務所に送られる。そこでは殺人やレイプや汚職が平然と行われ、言葉も通じずに自暴自棄となったムーアは数々のトラブルに巻き込まれるが、やがて刑務所のムエタイのクラブに入ったことで再び格闘技に打ち込むようになり、外国人として初めて刑務所間のトーナメントに出場することになる…というあらすじ。

話の設定だけ聞くともろに刑務所エクスプロイテーション映画のようで、主人公が拳ひとつで刑務所をのし上がっていくような内容を期待してしまうけど、A24スタジオの作品ということもあり完全にアート寄りの映画になっていた。

アート寄りの内容であっても、例えば「ザ・レイド GOKUDO」なんて似たような設定の傑作もあったし、それなりに暴力シーンも出てくるのだが、いかんせん主人公の心境とかバックグラウンドが全く説明されず、出来事が淡々と描写されていくという作りになっているため、ものすごく突き放されたような感想を抱いてしまう。「ドライヴ」みたいに主人公が謎めいていてストイックであってもいいよ、でもこの話は刑務所において主人公がいかに変わっていったかを描く作品なのだから、そこらへんを説明しないのはいかんのではないか。

原作の自伝はベストセラーになったらしく、そこでは主人公にまつわる状況がいろいろ語られてるのかもしれないけど、映画においてはまるで説明がされず、ただ次々とトラブルに見舞われているだけ。ムーアは麻薬で逮捕され、刑務所においても麻薬を入手して吸引しているようなダメ男なわけで、それに対してもっと感情移入させるような試みは必要だっただろう。なお例によって、映像化にあたってはいろいろフィクションも混じっているようです。

それでこの説明不足な内容に拍車をかけているのが、周囲のタイ人服役囚(実際の元服役囚をキャスティングしたらしい)のセリフが訳されていないこと。英語版で視聴したけど、ストーリーを理解するために必要なごく一部のセリフを除いては字幕がついておらず、タイ人たちはイレズミだらけで何を言ってるか分からない、不気味な存在として描かれている。「猿の惑星」の猿たちのほうがもっと文化的に描かれていたような。刑務所で唯一の外国人であるムーアも最後までタイ語を話さないし、なんか自分がバカやって刑務所に入れられてるのに、タイ人がやたら野蛮な人種であるかのように扱われているのが気になったよ。「クライジー・リッチ!」同様にアジア人だらけの映画ではあるものの、扱いはこうも違うものか。

監督はジャン=ステファーヌ・ソベールで主演はジョー・コール、ってどちらもよく知らんなあ…。題材をもっとうまく料理すればずっと面白い作品になれたと思うし、なんか観たあとにモヤモヤするものが残る映画でありました。