「What We Left Behind」鑑賞

正式名称は「What We Left Behind: Looking Back at Star Trek: Deep Space Nine」で、その名の通り「スタートレック:ディープ・スペース・ナイン」(以下「DS9」)についてのドキュメンタリー。2年前に製作のためのクラウドファウンディングが通知され、あっという間に資金が集まったはずだが、監督が交代したりアーカイブ映像をHD化しているのに時間がかかり、やっと完成されたもの。

「DS9」って、特に日本の「スター・トレック」ファンのあいだでは内容が暗いといった理由で敬遠されているきらいがあるが、個人的にはスター・トレックのシリーズの中ではダントツで好きな作品であるだけでなく、SFドラマ、さらにはすべてのTVシリーズのなかでもトップ5に入るくらいに好きな作品でして、このブログの最終目的も「DS9」がいかに素晴らしい作品であるかを書くことなのですが(いやホントに)、文章力が拙いために未だそれが実現できていないのです。以下はDS9の専門用語がバシバシ出てきますがお付き合いのほどを。

この2時間ほどのドキュメンタリーではショウランナーだったアイラ・スティーブン・ベアー(上の画像の紫ヒゲね)が狂言回しみたいになって、製作の裏話やキャストの回想、さらに後述するシーズン8の案などが語られていく。「DS9」とは何ぞや?といった基本的な説明は殆どなくて、作品を熟知している人向けに話がどんどん進んでいきます。まあファン向けの作品だからそういう作りなのでしょう。上述したように劇中のアーカイブ映像はすべてHD化されていて、特に宇宙船の戦闘シーンなどの映像は見違えるばかりに美しくなっている。個人的にはアスペクト比を変えたアプコンってあまり好きじゃないけど、これくらい綺麗になるのならHDアプコンも悪くはないかも。

製作の裏話としては、未知の惑星や領域を冒険していくという「トレック」の基本的スタイルに沿わずに固定された宇宙ステーションを舞台にしたことでファンからの反発を買ったことや、そのスタイルを踏襲した「TNG」と「ヴォイジャー」という2作品に挟まれた異端の真ん中の子、という扱いを受けていたことなどが語られる。でも舞台を固定することによってストーリーがじっくり語られ、プロットに厚みが増し、キャラクターに多様な性格が与えられる結果になったわけだ。

実際、いわゆる「1話完結」型だった「トレック」のスタイルに背いて、シーズン2の冒頭から3話構成のストーリーを打ち出したことなどにはパラマウント側からも懸念があったらしいが、その複数話にわたるストーリー展開が、いかに後述のTVシリーズに影響を与えたかなどが語られる。まあシリーズ終盤のドミニオン戦争のような長期のストーリーがなければ、のちのロン・D・ムーアによる「ギャラクティカ」もなかったろうな。

他にも「DS9」がいかに人種やジェンダー、社会的コメンタリーの分野で画期的であったかが語られていく。一般に「DS9」ってシーズン3でドミニオンが登場してから面白くなったと思われがちだが、シーズン1&2のベイジョー(元被支配者)とカーデシア(元支配者)の関係なども現実のテロ問題などと照らし合わせて見ると結構面白いんだよな。

ジェンダーの点では、まだタブー視されていた女性同士のキスシーンをあるエピソードで描写したことが有名だが、ベアー曰く「(カーデシア人スパイの)ガラックがゲイであることは明白で、そこをもっと深掘りするべきだった」そうな。彼ってそんなキャラクターだったっけ?ガル・デュカットの娘とのロマンスがなかったっけか?

キャストの回想ではレギュラー陣(最終シーズンで加わったニコール・デ・ボアも含む)にそれぞれスポットライトが当てられて「DS9」の思い出が語られる。あまり表舞台に登場しないことで知られるエイブリー・ブルックス(主役のシスコ役)は過去のインタビュー映像を使ってるのかな?ナナ・ビジターやレネ・オーバージョノワーなど他のキャストは新録インタビューになってます。準レギュラーとしてはアンドリュー・ロビンソン(ガラック)やジェフリー・コムズ(ウェイユン)、アーロン・アイゼンバーグ(ノグ)などといった懐かしい面々が登場。

俺が「DS9」を好きな理由の一つに、この準レギュラー陣の層の厚さがありまして、舞台を固定化したことで過去に登場した人物に再登場する機会が与えられ、キャラクター設定にどんどん厚みが増していったんだよな。当初はカーデシアの下士官として2〜3のセリフしかなかったダマーが、のちには反乱軍のリーダーにまで大出世することはドキュメンタリー中でも言及されるが、他にも惑星連邦の秘密組織セクション31のスローンとか、過激派マキのエディングトンとか、数話しか登場しないのに強烈な印象を残したキャラクターが多いのが「DS9」の特徴であった。エディングトンが連邦を非難するシーンなんて、「トレック」史上に残る名スピーチだと思うのです。セリフが一切ないモーンでさえも記憶に残るキャラクターだったしね。

そして当ドキュメンタリーの特別企画?としてベアーやムーア、ロバート・ヒューイット・ウルフといった当時のライターが集って、最終回から約20年後を舞台にしたシーズン8(の第1話目)を作るとしたらどんな話になるか、というブレインストーミングが行われる。1日のあいだでライターたちがポンポンとアイデアを出していくのを見ると、さすがプロだなと感心しますよ。そして出来た話がアニメーションというかイラストで語られるわけだが、その内容はというと(ネタバレ注意!):

  • ノグは宇宙艦隊で昇格を続けてキャプテンになり、デルタ宙域をディファイアントで航行していたが、突然何者かに襲撃され、かろうじてワームホールを抜けてDS9の近くにたどり着く。
  • 一方DS9ではキラがベイジョーの兵士ではなく宗教的指導者になっていた。そして彼女を含む元クルーたちの元に、DS9に集まれという謎のメッセージが届く。地球からはオブライエンとケイコ(娘のモリーは宇宙艦隊に入ってDS9に勤務していた)、そして小説家になったジェイク。エズリとベシアは結婚して宇宙船の指揮に当たっていたが、彼女たちもDS9に向かい、全員がクワークの店で再会する。
  • 彼らを集めたのは、ノグの仕業であったことが判明する。ノグは宇宙船の中からその理由を説明しようとするが、皆の目の前でノグの乗ったディファイアントが爆発してしまう。
  • ノグが亡くなったことを訝しむ元クルーたち。惑星連邦のクルーとしてエズリが調査にあたるが、その陰ではキラと彼女の副長官が何かを隠していた。キラはDS9のある宇宙連邦のクルーに、エズリの調査の内容を自分に教えるよう伝えるが、そのクルーこそシスコとキャシディの息子だった。
  • エズリが調査を続けるなか、ウォーフはベイジョーに降り立ち、ガラックに出会う。そこで彼に渡された情報は、キラがジェムハダーの集団を改宗させたというものだった。つまりベイジョーの傘下にジェムハダーがついたのだ。何者も信用するな、とウォーフに伝えるガラック。
  • その裏では惑星連邦のセクション31がベイジョーの宗教を厄介なものと見なしており、彼らから宗教を奪い、ベイジョーを惑星連邦の一員にするため、ベイジョーの預言者が住むというワームホールを爆破する計画を建てていた。そして現在のセクション31のリーダーこそ、ベシアその人だった。
  • DS9では惑星連邦とベイジョー人の緊迫が最高潮に達し、ステーション外では宇宙艦隊やクリンゴン、ベイジョーの船が集まってくる。ベイジョーと以前の仲間たちのあいだでキラの忠誠心が試されるなか、DS9のデッキは白い光に包まれる。そして光の中から出てきたのは、シスコだった…。

というあらすじ。これすんごく観たいんですけど。実写が無理ならアニメーションでいいから、ライターたちは続きのプロットを描いてくれないかなあ。CBSは「TNG」の続編を作るよりもこっちを製作したほうが良いのでは。

というわけで何でもありのドキュメンタリーだったが、かつてのキャストやスタッフが再会して、昔話に花を咲かせているのを見るだけでも楽しいし、一見の価値はあるかと。これ欧米では限定的に劇場公開もするようで、ぜひ日本でも多くの人の目に触れられるようにして、往年のファンたちを喜ばせてほしいところです。