「Welcome to Chechnya」鑑賞

HBOで放送されて高い評価を得ていたドキュメンタリーをBBC経由で鑑賞。ロシア連邦の一部であるチェチェン共和国における、同性愛者への迫害を扱ったドキュメンタリー。

チェチェンでは2017年ころから同性愛者の迫害が始まり、彼らを不純なものと見なすラムザン・カディロフ首長のもと、同性愛者の暴行・誘拐・拷問・法的な手続きのない処刑などが行われている。実際に彼らがボコボコにされる映像が何度か登場するし、有名な歌手も誘拐されて行方不明になっているそうな。そんな迫害を受けている彼らを助けようとする、デビッド・イスティーフをはじめとする活動家たちを追った内容になっていて、まずはチェチェンから連れ出してモスクワにある極秘のシェルターにかくまい、海外の団体の協力を得て国外に脱出させるというネットワークが出来上がっているらしい。

いちおうモスクワでの同性愛者の扱いはチェチェンに比べれば緩いようなのだが、プーチンがカディロフを好き勝手やらせているため、チェチェン警察からは脱出した同性愛者およびその家族に脅しの連絡が届き、モスクワにおいても彼ら(さらにはその家族)の身は安全ではない。よって必要であればほんの数時間のうちに、危険に晒された人をチェチェンから脱出させたり、国外に逃げさせなければならない。ここらへんの緊迫した光景もそのまま撮影されてて、「CITIZENFOUR」のサスペンス感に通じるところもありました。

そんな当局から身を隠している人たちを撮影して大丈夫か?というのは誰もが思うところでして、監督のデビッド・フランス(HIVを扱ったドキュメンタリーでアカデミー賞ノミネート)が取った案は、彼らの顔をデジタル処理して、他の役者の顔と差し替えるというもの。上のポスターの男性もフェイクの顔だよ。あまりにも処理後の表情がナチュラルなので、本当に差し替えたのかよ?と思ってたけど、最後にこの男性の素顔が明かされて、確かに顔が変わっていることに驚きました。この技術が普及すれば、従来の「顔にモザイク」というドキュメンタリーのスタイルが変わっていくのかな。

チェチェンの姿勢にならった他の共和国も同性愛者の迫害を始め、やがてその波がモスクワに届くのではとイスティーフたちが危惧する一方で、彼らの活動資金は減り、活動家自身も国外逃亡を余儀なくされたりして、彼らの前途は決して明るくない。迫害されたゲイの男性が勇気を出して記者会見を開き(ここで彼の素顔が明かされる)、モスクワの法廷にチェチェンの迫害を訴えたりするものの、にべもなく棄却されていた。

2年ほどのあいだに活動家たちは150人ほどの人を国外に脱出させ、そのうちカナダは50人弱ほどを受け入れた一方で、トランプ政権のアメリカは0人だとか。映画の公式サイトに彼らの活動が細かく紹介されてるので、興味のある方はチェックしてみてください。