
「オッペンハイマー」でアカデミー主演男優賞を獲って名実ともにハリウッドスターとなったキリアン・マーフィーだが、その次に主演したのはこんな小品。まあ彼らしいね。彼自身が原作小説のファンで「オッペンハイマー」撮影中にマット・デーモンに製作を持ちかけたとかで、デーモンとベン・アフレックがプロデューサーに名を連ねている。以下はネタバレ注意。
舞台は1985年、アイルランド南東部の町。ビルは石炭(泥炭)の運送・販売業を営む真面目な男性で、妻と5人の娘を支えながら細々と暮らしていた。そんな彼は、取引先である修道院のなかで若い修道女たちが悲惨な扱いを受けているのを目撃する。地域で強大な影響力をもつ修道院に対してビルは沈黙を貫こうとするが、やがて修道院から逃走した少女が彼の前に現れて…というあらすじ。
時代設定とか人物の背景について一切説明がないので、会話で言及される情報から主人公たちの置かれている環境を察しなければならないのでぶっちゃけ不親切といえば不親切。ウォーターフォードとウェックスフォードが近所なら住んでるのはあそこらへんだな、とか。まあ分からなくてもよいのだけど。ビルの家族とはまた別の一家が出てきて、特に接点が無いのは何故だろうと思っていたら後者はビルの回想における家族であった。その回想が現在に影響を与えているのかというとそうでもなく。
ビルが貧しいながらも肉体労働を真面目にこなし、子供たちを養っていく姿が丹念に描かれるあたり、いわゆるキッチンシンク・リアリズムっぽい感じもあるが(仕事から戻ったビルは文字通り洗面所で石炭で汚れた手を洗い流す)、着地点は「マグダレンの祈り」と同じところであったよ。
アイルランドとベルギーの合作だそうで、監督のティム・ミーランツはベルギー人。「ピーキー・ブラインダーズ」とか撮ってた人か。修道院の院長役をエミリー・ワトソンが演じてます。
キリアン・マーフィーの演技は手堅いし、個人的にはアイルランドを舞台にした映画は好きなのでそれなりに楽しめたものの、やはり話の説明不足からきている消化不良感は否めない。次なる「オッペンハイマー」を期待しないほうが良いでしょう。