「悪魔とダニエル・ジョンストン」を観た。 なんかすごく痛々しいドキュメンタリー。雰囲気的には、あの大傑作ドキュメンタリー「クラム」のミュージシャン版といった感じなんだが、あちらは主人公の兄弟が精神病スレスレだったのに対し、こちらは主人公が実際に精神病ということでさらに痛々しい。
アメリカの片田舎の、絵に描いたように平和そうで敬虔なキリスト教徒の家庭に育ったダニエルが、音楽やマンガに興味を持ち始めて芸術的才能を開花させていき、それで有名になっていくのと同時に現実世界との接点が少しずつズレていき、だんだん言動がヤバくなっていくさまはそこらのホラー映画なんかよりもずっと怖い。そしてミュージシャン仲間にもらったドラッグによって精神の崩壊は加速するわけだが、彼を助けようとする周囲の人々と、発作によって暴走を繰り返す彼の騒動の繰り返しは言っちゃ悪いがものすごくシュールなところまで到達してしまっている。
例えばソニック・ユースのスティーブ・シェリーと仲良くなってニューヨークに来たのはいいけど発作を起こしてケンカし、家を飛び出して行方不明になっていたのをサーストン・ムーアとリー・レナルドによってニュージャージーで発見され、実家に帰してもらったはずが2日後にはちゃっかりニューヨークに戻ってCBGBでファイヤーホースの前座をやってたなんてのは普通の人間にできることじゃないっすよ。それから彼はハーフ・ジャパニーズともコラボをやるわけだが、彼に比べるとジャド・フェアーがものすごくマトモな人に見えてしまうのには驚愕するしかない。
その後の彼は全国的に有名になると同時に精神の崩壊が進んでいくわけで、カート・コベインが彼のTシャツを着てたおかげでメジャーレーベルと契約を交わすもアルバムが5000枚くらいしか売れなかったとか、大観衆を前にライブをやった直後に父親が操縦する飛行機のキーを投げ捨てて墜落を引き起こしたなんて話が、彼の光と影を如実に表している。
そして彼は今でも両親に面倒を見てもらい、マウンテンデューをガブ飲みしながら親の運転する車に乗って買い物に行き、地下室で音楽を作っているわけだが、両親は確実に年をとってきているわけで、「私たちももう先が短いのです…」という父親の言葉で終わるラストはあまりにも哀しい。結局いちばん苦労するのは親なんだよね。
ちなみに前にヘンリー・ダーガーのドキュメンタリーを観たときにも思ったんだが、俺を含む多くの人々って、ダニエル・ジョンストンの音楽が純粋に好きだという気持ちよりも彼のフリークぶりに興味をもってこういったドキュメンタリーを観るわけで、なんかフリークショーを好奇の目で見てるような罪悪感を感じてしまうんだよね。それに関連して、ダニエルの友人が言っていた「僕はゴッホを天才として扱わなかった彼の友人たちを軽蔑してたけど、いざ自分が似たような立場に置かれたら、僕もやはりダニエルを精神病院に送ることしかできなかった」という彼の言葉がなんかとても印象に残っている。