「アメリカを斬る」鑑賞

ニュー・アメリカン・シネマの隠れた傑作「アメリカを斬る」こと「MEDIUM COOL」を鑑賞。「警察の暴動」があったことで悪名高い1968年のシカゴ民主党大会をリアルに描いた作品である。

ロバート・フォースター(このころから渋い!)が演じる主人公はテレビ局の報道カメラマン。彼は事件性のある物語を追うためならゲットーに乗り込むことも厭わない男だったが、ふとしたことからベトナムで夫を失った子持ちの女性と知り合い、恋仲になっていく。そんなある日、彼はテレビ局が勝手に取材用の映像を警察やFBIに見せていたことを知り、激怒して上司に挑もうとするものの逆に局を解雇されてしまう。それでも彼は民主党大会を取材するために会場へ向うが、その周辺では反戦を訴えるデモ隊と警官隊が一発触発の状態になっていた…。というのが主なストーリー。

冒頭から報道関係者のモラリティが議論されたり、黒人の主張が途中で述べられたりするなど、全体的に少し説教めいた感じがしなくもないが、撮影も兼ねている監督のハスケル・ウエクスラーの映像作りが上手なので観ていて気にならない。シーンのセグエの仕方とか、小道具(ポスター)の使い方、画面の構成などはまるで映画の教科書を見てるかのよう。ロバート・ケネディの暗殺の描写も実に見事。また暴動の映像などはすべて本物を使っており、現場の緊迫した雰囲気が十分に伝わってくる。暴動が起きることを予期して、本物のデモ隊の間に役者を歩かせて撮影したというその手腕には脱帽するしかない。

なお原題の「MEDIUM COOL」というのはマーシャル・マクルーハンのメディア論からとったもので、ラジオが「ホット」な媒体なのに対しテレビは「クール」な媒体(与える情報量が少なく、より積極的に視聴することが求められる)だというわけだが、同時にテレビが「冷酷な」メディアであることを示唆しているのは間違いない。テレビ批判、という意味では後年の「ネットワーク」と通じるものがあるかな。それにしてもあのラストは…。こないだの「ミーン・ストリート」もそうだったけど、あの当時の観客はバッドエンドが観たくて映画館に足を運んでたんだろうか?

ちなみに劇中で「最近のニュースはみんな事前に筋書きが決められてしまってる」なんてセリフが吐かれるんだが、これっていまのニュースも同じだよな。よく分かんない理由で戦争が行われてて、兵士がどんどん死んでってるところも同じ。時代は繰り返すというか何というか。もし60年代と現在とで違う点があるとすれば、暴動を起こすような若者がいなくなってしまったことか。

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