「THRILLA IN MANILA」鑑賞

DVD買ってから知ったんだけど、これNHKで放送したの?まあテレビ持ってないから別にいいけどさ。

かの素晴らしき「モハメド・アリ かけがえのない日々」の対極に位置するようなドキュメンタリー。モハメド・アリと3度の激闘を行ったジョー・フレージャーを中心に、彼とアリの長年にわたる確執を描いている。

60年代にベトナム戦争への徴兵を拒否したことでボクサーとしての資格を剥奪されたアリに対して、フレージャーはアリが再びリングに立てるよう大統領などに働きかけ、金銭的援助もアリに行っていた。しかしいざアリにリングへの復帰が認められ、フレージャーとの対戦が決まるとアリの態度は一変し、フレージャーに対して侮蔑的な言葉を投げつけるようになる。ネーション・オブ・イスラムに操られ白人を敵視するようになったアリは、フレージャーが貧しい家庭に育ち人種差別を日常的に受けていたにも関わらず、白人のパトロンが多かった彼を「アンクル・トム」やゴリラ呼ばわりして世間の笑い者にしていく。

そして「世紀の一戦」と呼ばれた彼らの第一戦はアリ優位という世間の予想を覆し、フレージャーが判定勝ちを収める。これを不服としたアリはさらにフレージャーを罵倒し、テレビ番組でケンカをするほどの仲になってしまう。そして彼らの第2戦が行われるのだが、アリに優位なジャッジが行われたことと、既にフレージャーがジョージ・フォアマンに負けてチャンプの座を失っていたことなどから、アリが勝利したこの一戦はあまり大きな意味を持たなかった。その後アリは「キンシャサの奇跡」においてフォアマンを倒してヘビー級王座を奪還し、フレージャーとの因縁の第3戦が組まれることになる。

「スリラ・イン・マニラ」と呼ばれたこの一戦はマルコス大統領の独裁政権下にあったフィリピンのマニラで行われ、アリは自分の勝利を楽観視していた。しかしうだるような暑さのなかでの対戦が始まると、アリの攻撃にもめげずフレージャーはダウンせず、徐々に試合のペースを自分のものにしていく。そして第4ラウンドあたりから形勢は逆転してフレージャーの鋭いパンチがアリを脅かすようになり、両者による激しい撃ち合いが続くことになる(フレージャーのマウスピースが客席まで飛ばされるパンチが圧巻)。この激戦の明暗を分けたのは、60年代の事故によってフレージャーが左目をほぼ失明していたという驚愕の事実だった。アリの連打により右目が腫れ上がり何も見えなくなったフレージャーはファイトの続行をすがるものの命の危険を感じたセコンドにより試合は終了させられてしまう。一方のアリも体力の消耗が激しく、負けを意識してグローブを外す寸前だったという話が興味深い。勝利を宣告されてもろくに立ち上がれず、リングに倒れてしまうアリの姿がこの一戦の凄まじさを物語っている。

この戦いのあともフレージャーとアリはボクシングを続け、やがて引退したわけだが、世界的なスーパースターとして富と名声を手にしたアリとは対照的に、フレージャーは地元のスラム街のさびれたジムで60歳を超えた今でもコーチを務めている。そんな彼の経歴がアリやフレージャーの関係者、およびフレージャー本人から語られていくわけだが、後にアリと和解したフォアマンなどと違い、今でもアリに遺恨を抱き、パーキンソン病に苦しむ彼の姿を見て「奴は過去の行いの報いを受けてるのさ」と冷たく言い放つフレージャーの姿が非常に印象的である。明らかにフレージャーの側に立ったドキュメンタリーだが、でもね、アリというのは我々凡人の善悪の概念を超えたところにいるような存在だと思うのですよ。いくら彼を悪者として描こうとしてもあの強烈な存在感がすべてを打ち消してしまうような。

ちなみに現役時代から「こいつはろくに話せねえ」とアリに嘲笑されてたフレージャーだけど、確かに言葉が不明瞭でなに言ってるのか分かりにくいのが悩ましいところ。DVDに字幕付けてほしかった。

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