アレキサンダー・ペイン監督の前々作「ハイスクール白書」はその過激な内容が結構好きだったが、世間一般では高い評価を受けた前作「アバウト・シュミット」がちょっと個人的なツボにはまらなかったので(悪い作品じゃないけど)、「サイドウェイ」を観るのはちょっと敬遠していた。しかしあまりに世間が絶賛してアカデミー賞まで穫ってしまったものだから、どんな映画なんだろうかと興味本位で観に行ってきた次第である。いかにも「アカデミー好み」といったら語弊があるかもしれないけど、全体的に非常に手堅い出来の優れた作品だった。
ストーリーは売れない作家でワイン通の主人公が、友人で1週間後に結婚を控えた落ち目の俳優とともにカリフォルニアのワイン産地へ旅行に行き、そこで2人はそれぞれ女性と恋に落ちる、という簡素なもの。いわゆるロード・トリップものの形式をとっていて、主人公が気落ちしているところなんかは「アバウト・シュミット」に通じるものがあるかもしれない。
必ずしもメリハリのきいた展開はないものの、役者たちの演技や台詞がとても自然体なので冗長に感じることなく素直に楽しめる内容になっている。こういったペースをもった作品は劇場で観ないとダメですね。テレビで観たら気が散ってえらく退屈に感じられるんじゃないだろうか。男女間の会話(特に主人公とその相手役)なんかも非常に飾り気のない、共感の持てるものになっていた。登場人物の心情が巧妙に描写されているので、ありきたりの会話をしているシーンでも人間関係が深まっていくさまがよく分かるのが見事。特にレストランでのモンタージュが良かった。たぶん制作側は中年を目前にした人々(登場人物の大半がバツイチ)の滑稽かつ切ない姿を描きたかったのだろうけど、若い人が観ても十分楽しめる内容になっていると思う。
あと話にアクセントを加えてるのがワインに関するウンチク話で、主人公がワイナリーなどでワインの特徴をクドクドと説明していく場面が随所で出てくる。個人的にはワインがあまり好きではない(そしてワイン通ぶってる連中は大嫌い)ものの、あれは観ていてなかなか楽しかった。あまりにもワインについて説明されるので、まるで社会科の教育用ビデオ(静岡のお茶の特徴について延々と説明するようなやつ)を見せられてるような気分にもなったけど。実際この映画でピノ・ノワールが褒められたおかげで、あのワインの消費量がずいぶん上がったとか。
観れば人生が変わるような作品では決してないが、洗練された自然なストーリーが優れた小品。「ハイスクール白書」の頃とは作品のスタイルが随分変わったよなあ。欠点を挙げるとすれば、ラストがあまりにも「シュミット」に似ていることか。悪い終わり方じゃないけど。あと俺の好きなバンド「ルナ」の曲がうまく使われてるのが嬉しかった。
ちなみに俳優の恋人役のサンドラ・オー(カナダ人)って、監督の奥さんだったんですね。まるで知らなかった。