ジョン・ランディス初のドキュメンタリー作品「SLASHER」をDVDで観る。劇場用ではなくテレビ用のものらしい。かつては「アニマル・ハウス」や「ブルース・ブラザース」などの傑作を作っていたランディスも最近は失敗作続きで、しまいにはドクター・オクトパスに惨殺されてたりするわけだが、なんかこの作品も監督の意欲と実際の出来がズレたものになってしまっていた。
タイトルの「スラッシャー」とは別に猟奇犯とかのことではなく、車のセールで客との値段交渉を行う販売員のこと。最初にワザと高い値段を設定しておき、そこから値段を切り下げる(=スラッシュ)ことで客に割安感を与えて車を買わせるのが彼の仕事である。この作品ではカリフォルニアに住むフリーのスラッシャーであるマイケル・ベネットがメンフィスで3日間のセールを委託され、いろいろ手を尽くして車を売りさばいていくさまが紹介されていく。(値段について)ウソをつくことが商売である彼の生き様と、アメリカの歴代大統領がついてきた数々のウソを重ね合わせるのがランディスの当初の目的だったらしいが、大統領の映像クリップの使用料がバカ高いことから断念したとか。一応ちょっとだけ冒頭にニクソンとかの映像が使われてるのだけど、それが実に余計というか、作品の内容とまったく関係ない程度に使われてるものだから困ってしまう。あと舞台となるメンフィスの貧しさ(フェデックス以外にまっとうな産業がない)にもランディスは驚嘆したらしいが、そんなことを表すような映像はまるで挿入されない。とりあえず田舎の人たちが中古車を買いに来て、十分に値下げがされてないとボヤく光景が淡々と紹介されるだけである。BGMにデルタ・ブルースがガンガン流れてるのは「ブルース・ブラザース」を彷彿とさせたが。
とにかく話に起伏がないというか、ひたすらセールの光景が映し出されるのが退屈でしょうがない。主人公のベネットはひたすら喋るハゲオヤジで、川崎あたりの安酒場でクダをまいてそうな奴だが2児のよきパパだし、言ってることはそれなりに真面目で自分の仕事に誇りをもったセールスマンである。客の要求に臨機応変に対応しながら巧みに車を売りつけるのだけど、その行為は至ってまっとうなものだ。思うにこのドキュメンタリーには、観る人の興味を引きつけるような「裏社会の真実」とか「商売の裏事情」といった要素がかなり欠けてるんじゃないだろうか。値段交渉でゴネまくる客もいるものの決して不条理な要求はないし、ベネットを雇った販売店の人たちも気の良さそうな人たちばかりである。88ドルまで値段が下がる車(もちろん廃車寸前)が1つだけあると宣伝して客を呼んだり、値段交渉のテクニックなどの小ネタが紹介されるものの、全体としては小さな販売店が貧しい人々を相手にセコセコと商売をしてるような、非常にこじんまりとした印象しか残らない。こんなんだったら数年前に日本で観た、パチンコ屋の開店にまつわるドキュメンタリーのほうが面白かったぞ。セールの最終日には客がほとんど集まらずベネットが焦るなか、販売店が「それなりに車はさばけたし、よしとしようか」といった感じでセールが普通に終了するラストが、この作品の凡庸さを物語っている。
もうこうなったら、ランディスの人気回復には「ビバリーヒルズ・コップ4」しかあるまい。