英題「The Flowers Of War」。南京事件を扱ったチャン・イーモウ監督の作品で、主役はハリウッドスターのクリスチャン・ベール。題材が題材だけに日本では当分公開されないだろうからネタバレ気味に書いていく。
舞台は1937年の南京。上海を占領した日本軍は南京にも侵攻し、街の陥落は目前であった。その争乱のなかで逃げまどう少女のシュウはジョンというアメリカ人に出会い、彼女の暮らす修道院へと一緒に逃げ帰る。実はジョンは葬儀屋であり、最近他界した司祭の葬儀を行う依頼を受けて修道院を目指していたのだという。しかし戦乱が激しくなるなかでジョンや修道院の少女たちは建物のなかに篭城せざるをえなくなり、さらには売春宿から避難してきた娼婦たちも修道院にやってきて地下室に棲みつくことに。そしてついに日本軍の兵士たちも修道院にやってきて…というようなストーリー。ちなみに争乱の犠牲者は20万人という説明が冒頭でされてます。
中国映画史上において空前の製作費がつぎ込まれたという大作だが、要するにプロパガンダ映画なので日本人兵士の描写はけっこうエグいですよ。銃撃もろくに当たらず小隊が1狙撃兵に手玉にとられるほか、女性を見つけると目をギラつかせて追いかけ回す次第。こういう描写は予想していたものの、娼婦の1人が捕まって輪姦されるシーンとかはかなりしんどかったよ。日本語を話す役にはきちんと日本人俳優を起用している点は素直に評価しますが。
そんななかで彼らの隊長は英語を話し、少女たちの境遇を憐れんでくれるいい人として描かれてるのだが、オルガンを見るなり「ちょっといいかな?」と言って「故郷」を弾きだす演出のクサさ。主人公に外タレを起用してるので仕方ないんだが、「英語が出来る人=教養のある人」という図式になってるのはちょっと単純かと。アメリカを含む世界各国へのアピールを狙って外タレを主役にした意図は理解できるものの、おかげでジョンは「西洋人なので日本軍もうかつに手を出せない人」になってしまい、身の危険を感じて怯えている中国人たちとはちょっと異なる存在になったのが残念なところか。普通に中国人を主役にしたほうが緊迫感があって良かったのでは。
またジョンは最初は飲んだくれで葬儀代だけを気にするヘタレだったのが、良心の呵責を感じて少女たちの保護に身を尽くすようになるものの、そこらへんの心境の変化の描き方がどうも希薄であった。それ以外にも「無垢の象徴の少女たち」とか「黄金の心を持った娼婦」「身を挺して人民を守る兵士」などと登場人物がみな紋切り型であったのも興醒め。戦争という極限状態だからこそ、もっと複雑な人間性が露呈されるはずだと思うんだけどね。
そして話の後半では少女のうち13名が選ばれて日本軍のパーティーで歌を披露するように命じられるのだが(生きて帰って来れない場所、と強く示唆されている)、それを見かねた娼婦たちが「あたいらが身代わりになってあげるよ!」とコスプレをしたりするのですが、20代の女性が13歳の少女たちを演じるのはさすがに無理があるかと。相手が白人ならまだしも、日本人はアジア人の顔と年齢の見分けがつくだろうに。「髪をボブカットにしたら10歳若返った!」というようなセリフには思わず苦笑。しかも変装が済んだあとに実は娼婦たちが12人しかいないことが判明するのだが、そんなこと計画を練る前に気付けよ!それに対して出された解決策も「ええっ?」という感じのものだったし、彼女たちが日本軍に一矢報いるわけでもなくただ死地(?)へと赴く展開はどうも後味の悪いものだったな。歴史的史実がどうこうという以前に、脚本がザルなのが気になったよ。
とはいえチャン・イーモウ作品ということで映像美やシネマトグラフィーは大変素晴らしく、冒頭の市街戦のシーンなどは迫力もあり「お、これ結構面白いかも」と思ったんだが、中盤になって役者が出そろったあとはメロドラマ的な展開が続くのが興醒め。アメリカなどでも評判は芳しくなく大して話題にはならなかったものの、中国市場では歴代6位くらいの大ヒットになったということで、日本の映画業界も大枚はたいてブラッド・ピットあたりを呼んで震災復興のプロパガンダ映画とか作ったらいいカンフル剤になるんじゃないでしょうか。
とりあえずこの映画を観てて思ったのは、第二次世界大戦が舞台のアメリカ映画を観るドイツ人の気持ちがよく分かったということでして、こうなったらいっそ行きつくところまで行って、女刑務所長ものとか和製ジョイ・ディヴィジョンものとかのサブジャンルを旧日本軍でも確立させようよ!