「NOT FADE AWAY」鑑賞


「ソプラノズ」のクリエーターであるデビッド・チェイスの長編初監督作品。彼の自伝的な要素が詰まったものらしい。

舞台となるのは60年代のニュージャージー。ダグラスはブルースやブリティッシュ・ロックが好きな高校生で、やがて友人たちとバンドを組んでパーティーなどで演奏を行うようになる。そしてガールフレンドもでき、バンドもカバー曲だけでなくオリジナル曲を演奏するようになり、レコード会社のオーディションも受けるのだが、やがてバンドのなかで軋轢が生じてきて…というストーリー。

2時間弱くらいあってそこそこ長い作品なんだけど、これくらいのあらすじしか思いつかんなあ。JFK暗殺とか公民権運動とかベトナム戦争とか、当時の出来事についていろいろ言及されたりはするものの、全体的になんか頭でっかちというか、それらの出来事が主人公の家族にどう影響したのかが深く描かれていないんだよね。60年代を舞台にしたバンドものとかボーイ・ミーツ・ガールものなんて今まで映画で山ほど扱われてきた題材であるわけで、すべてがクリーシェの域を出ていないのが残念。

一番の問題がジョン・マガロ演じる主人公のダグラスで、最初はドラムを担当してたのが「俺のほうが歌うまいから」と主張してボーカルになるものの、声質がペラペラで全然うまく聞こえないのでやんの。親が必至に働いて貯めた金で大学に行っておきながら「バンドに専念したいから」といって大学を中退し、せっかくレコード会社の人間に面会しても「音楽ってアートだから。ビジネスなんかじゃないし」とバンド活動に幻滅しはじめ、しまいには「俺やっぱ映画を学ぶわ」といってロサンゼルスに移ってしまうという筋金入りのボンクラ。いやデビッド・チェイス自身はやがてハリウッドで大成したかもしれないが、こういう主人公に感情移入できる人はそんな多くないんじゃないのか。

むしろ故ジェームズ・ガンドルフィーニ演じる彼の父親のほうがずっとキャラクターが立っていて、青春時代は不況のもとで過ごし、戦争を経験し、必死に働いて家族を養ってるのにガンだと宣告され、徐々に息子にも打ち解けていく親父の話のほうがずっと面白いはずなのだが、親父と息子のシーンが後半になるほど少なくなっていくのが勿体ない。

なお劇中の音楽の監修は「ソプラノズ」つながりでスティーヴ・ヴァン・ザントが行っていて、それなりの予算を使ってビートルズやストーンズ、キンクスにボー・ディドリーなどといった当時のヒット曲が劇中で流れるようになっている。でも物語の最後でセックス・ピストルズ(しかもカバー曲の「ロードランナー」)を起用したのはどういう意図があるんだろう。そしてこうした名曲と比べると、やはり主人公のバンドのショボさが目立ってしまうのよねん。

少なくとも監督のロック愛というかノスタルジアはひしひしと伝わってくる内容であり、愛情をこめて作った作品であることはよく分かるものの、なんかもっと冷静な視点から映画を作るべきではなかったかと思わずにはいられない作品。

「LOW WINTER SUN」鑑賞


「ブレイキング・バッド」に代わるドラマが早急に必用なAMCの新シリーズ。秋に早くも日本で放送するとか?

フランクはデトロイト市警の刑事だったが、同僚のブレンダンの悪徳ぶりと汚職に耐えられなくなくなり、別の同僚のジョーと結託してブレンダンを殺害し、自殺に見せかけて車ごと海に投げ込む。完全犯罪を達成したつもりのフランクだったが、実はブレンダンは内部調査の部門に目をつけられており、次の日に彼らが調査にやってきたことからジョーは調査のことを知っていたのではと訝しむフランク。一方ではブレンダンから麻薬の横流しを受けていた街のゴロツキたちが、ブレンダンがいなくなったことでマズい状況におかれていた。さらに海中から引き揚げられたブレンダンの車のトランクから切断された死体が発見されたことで、物事は予期せぬ展開を迎えることに…というのが第1話のプロット。

主演は最近いろんな映画で悪役を演じてる感のあるマーク・ストロング。彼の同僚のジョーを演じるのは同じくイギリス人のレニー・ジェームズ…ってこのままだとアメリカ人のテレビ俳優はデトロイトの労働者よりも先にみんな失業してしまうんじゃないだろうか。「ブレイキング・バッド」のデヴィッド・コスタビルも出てるけどね。そもそもストロングがイギリスで出演した同名のミニシリーズをベースにしたものらしい。ミニシリーズならまだしも、この設定で話をどこまで引っ張ることができるんだろう?

話は地味というか暗くて、荒廃したデトロイトを舞台に登場人物たちがウジウジ悩む描写が続く内容になっている。その地味っぷりはAMCの「ルビコン」に通じるものがあるかな。「ブレイキング・バッド」には吹っ切れた主人公によるカタルシスがあったわけだが、この番組にそのようなものは期待できず。「バッド」の後釜になるのは厳しいかな。ちゃんとデトロイトで撮影をして地元の経済復興に貢献してるようなので(自治体から補助金もらってるらしいけど)、頑張ってほしいシリーズではあるのですが…。

「ワールド・ウォーZ」鑑賞


最後の展開がイマイチということで大幅な撮り直しが発生し、大コケするのではないかとの前評判を覆してブラピ映画として最大の興行成績を挙げた作品だが、それでもコストが回収できてないのでは?と噂されているあたりがハリウッド大作の悪しきビジネスモデルだよな。

ストーリーの流れもその撮り直しによって生じたのであろうツギハギ感が否めず、ゾンビの感染源をたどって世界をめぐる冒険…になるはずが後半になってその流れが途切れ、かなり行き当たりばったりな展開になっていたような?特にウェールズに到着してからは今までのグローバルなアクションとはうって代わり、かなり小ぢんまりとしたバイオハザード(ゲームのほうね)みたいな内容になるのは違和感があったんだけど、やはりあそこが撮り直しで加えられた部分になるみたい。本来はゾンビの感染源が中国だと示唆されるはずだったのが、「あそこハリウッドのお得意様だから…」という理由でボツになったという裏話を聞くと、ゾンビも中国資本には勝てんのだなあと思う。

なお「ワールド・ウォー」といいつつも、主役不在(らしい)原作に対して映画版の主役はあくまでもアメリカ人のブラピであり、彼が訪れるところも韓国の米軍基地やイスラエルにウェールズといった、アメリカ人にとってあまりエキゾチックではない場所に限定したのが「パシフィック・リム」に比べてアメリカでヒットした原因ですかね?

そして皆が言っているように劇中のブラピはゾンビ以上の生命力を持っていて、さすがに最後のアレはやりすぎだろうと思うが、1人で映画を抱えて頑張っていたよな。ただし主人公は別にブラピじゃなくても良かったんじゃない?という気もするけど。ミレイユ・イーノスはブラピの妻を演じるにはブスすぎるだろ、というのがキャスティングを聞いたときの率直な感想でしたが、夫の帰りを待つ薄幸な感じはよく出ていた。あとはマシュー・フォックスがもっと大きな役を持っていたらしいが、撮り直しにより登場シーンがブチ切られたそうで。

あとは原作と異なりゾンビが走れるようにしたのはビジュアル的に大正解だったとは思うものの、やはりCGを多用しているためアクションに質量感が無いのが気になった。冒頭のトラックが突っ込んでくるところとか、普通は絶対に気づくよな。決して悪い作品ではないものの、あれだけ金をかけたのならもっと良くなる可能性があったのになんか勿体ない。続編の話も出てきているようだけど、関係者はもうこれは放っておいて次なる作品に進むべきでしょう。

「ONLY GOD FORGIVES」鑑賞


ニコラス・ウィンディング・レフンが「ドライヴ」に続いてライアン・ゴズリングと組んで作った新作。とってもバイオレントな内容なので、「ドライヴ」みたいにクールな内容を期待してデートで観たりすると後悔すると思う。

舞台となるのはタイのバンコク。そこでムエタイのジムを経営するアメリカ人のビリーとジュリアンの兄弟は裏で麻薬の密輸に手を染めていたが、ある晩にビリーが未成年の少女を強姦して殺してしまう。この事件は「復讐の天使」ことチャン警部によって法の外で裁かれ、少女の父によってビリーは殺害されてしまうのだが、物事の顛末を知ったジュリアンはさらなる報復を望まなかった。しかし2人の母であるクリスタルが事件を知ってタイを訪れ、ビリーの復讐を遂げるようジュリアンに命じる。これを渋るジュリアンだったが彼の手下たちが少女の父親を殺害、さらにチャン警部の殺害も計画するが返り討ちに遭ってしまう。そしてここに双方による血で血を洗う復讐劇の火ぶたが切って落とされるのだった…というストーリー。

トレーラーを観たときはマーシャルアーツ系の映画かな、と思っていたのだが完全なサスペンスというかスプラッターっぽい話でありました。タイの暗黒街を背景に、やられたらやり返すといった展開で人がバンバン死ぬ内容になっております。タイには売春婦と悪徳警官しかいないような描かれ方をしているのだが、いいのかこれ。あと「ドライヴ」同様に女性への暴力描写がちょっと気になりましたね。

ライアン・ゴズリングは「ドライヴ」以上に無口なキャラクターを演じていて、それなりのサイコ君であることが示唆されるものの、あくまでもビリーの不祥事を始末し、一家の主である母親(二の腕が立派なクリスティン・スコット・トーマス)のワガママに振り回される哀れな役回りを演じております。むしろ話の中心人物はウィタヤー・パーンシーガーム演じるチャン警部で、タイトルの「GOD」は彼のことを指しているらしいが、全くもって許したりはせず、ナベからナタを駆使して相手をフルボッコにし、しまいにはカラオケで一曲歌うという全能っぷり。こういうのは西洋人による東洋へのリスペクト感が表れているのかなあ。

「ドライヴ」で主人公がトンカチもって乗り込むナイトクラブのシーンが延々と続く内容というか、なんか極端な展開がずっと続くのでカタルシスなどは全く得られず、本国などではいろいろ酷評されたわけだが、かといって決して悪い作品というわけでもない。ガスパー・ノエに影響されたというタイの夜景やナイトクラブの映像はスタイリッシュで非常に美しいし、「ドライヴ」のシンセポップに代わってジョン・カーペンターばりの重厚なシンセミュージックが全編に渡って効果的に用いられ、とても印象的な出来に仕上がっている。ストーリーが「なんじゃあこりゃ?」なのが問題なわけで。

なんかこの作品で行きつくところまで行ってしまった感のあるニコラス・ウィンディング・レフンだが、次はどうするんだろうね?一説によるとイギリスのカルトコミック「Button Man」の映画化を企画しているらしいが…。

「From One Second to the Next」鑑賞


相変わらず知らぬ間にドキュメンタリーをしれっと作ってしまっているヴェルナー・ヘルツォーク御大の新作。

アメリカで増加している、運転中に携帯電話でテキストメッセージを送ること(テキスティング)による脇見運転から生じた交通事故について扱った30分ほどのドキュメンタリーで、携帯会社が出資したものらしい。youtubeで全編が視聴できるほか、学校とかにも無償で配布されるそうな。

登場するのはテキスティング中の事故によって不幸に見舞われた4組の被害者および加害者で、半身不随になった少年、アーミッシュの家族3人を死傷させたドライバー、事故で廃人のようになってしまった女性の兄弟、事故で父親を失った娘とその加害者、といった人たちが登場し、事故の状況やその結果などについて淡々と語っていく。

テキスティングの特徴としてドライバーの完全な前方不注意というものがあり、ドライバーが何が起こったのかを把握できていないことや、ブレーキをかけていないため事故が凄惨なものになるということが紹介され、事故の状況を説明している警官が途中で言葉を失うシーンが印象的であった。あと被害者なのにもかかわらず莫大な医療費を請求されるのはアメリカが国として改善すべき問題だよな。

今回はヘルツォークの例のナレーションがないので「ヘルツォークっぽさ」が薄く、免許更新のときに見せられる不幸なビデオの特別延長版という感じではあるが、映像などは美しいし出てくる人たちの言葉は心に刺さりますよ。携帯電話を主因とした脇見運転というのは日本でも増えていると思うので、みなさんこれを観て安全運転を心がけましょう。