「ブレードランナー 2049」鑑賞


ご存知のように前作は狂信的なほどのカルト人気を誇る作品でして、自分のようなごく普通のファンが迂闊な感想を述べるとブレラン警察に吊るし上げをくらうような気もしますが、チケット代も払ってるんだし感想をざっと述べる。以後ネタバレ注意:

・結論から言うととても丁寧に作られたSF作品であってよく出来ているし、前作のファンも十分に楽しめる作品じゃないでしょうか。アクションも多い一方で意味の深い要素も残し、監督の前作「メッセージ」同様にいろいろ考えさせられる内容になっている。

・その反面、難しいといえば難しい内容になっているわけで、アメリカや中国で興行的に苦戦したのは無理もないかなと。大衆が観に行くブロックバスター的作品というわけではないからね。次から次へと謎が出てきては明かされていく展開は飽きさせなく、3時間弱の長尺がまったく気にならないほどであったものの、それでも途中の擬似記憶の説明あたりがちょっと分かりにくかったのは俺だけ?主人公に説明されたことについて、俺は逆の理解をしておりました。

・最近の干ばつのニュースを見てるとね、未来のカリフォルニアって大雨とか雪が降らずにむしろ日照りの世界になるんじゃね?とも思いますが、臨場感は良かったな。撮影のロジャー・ディーキンスって自然な屋外を撮るのが上手い人、という印象があったので今回のような人工的な環境の撮影はどうだろうと思ってたけど、ウォレス社のなかの光加減は美しかったし、「スカイフォール」同様に曇った空での雰囲気を醸し出すのが見事でしたね。

・ストーリーもね、当然ながら深く考えるといろいろ突っ込みたくなるところはあるのだけど、前作の展開をうまく引きつぎ、前作のキャラをうまく活かすことができたんじゃないかと。複数のバージョンがあった前作について1つの答えを出したうえで、肝心な質問についてはまだ考証の余地を残していたのも良かったな。

・でもね、最後の展開がさ、前日に観た別のSF映画と全く同じで、またこれかい!と流石に思いましたよ。手当しろよ!

・ライアン・ゴズリングは「オンリー・ゴッド」以来の殴られメイクで奮闘。ハリソン・フォードは相変わらずのハリソン・フォードなので、もはやあれが唯一の演技だと思ってみるしかないかと。ジャレッド・レトの相変わらず中二病っぽい演技はあまり好きではない。そしてアナ・デ・アルマスとマッケンジー・デイビスだったら、俺は後者をとるね!(何がだ)

・2049年にはパンナムとアタリが復活している。そして樹木が希少価値を持っているなら、酸素はどうやって作られているのだろう。

・このように緻密に作られた良作ではあるものの、やはりルトガー・ハウアーのロイのような強烈なキャラクターが欠けていることもあり、前作を超える出来にはなっていないと思う。とはいえ「メッセージ」につづいてこうして良作のSF映画を作ったヴィルヌーヴ監督、今度の「デューン」にも期待できそうではありませんか。今作の興行的な不振が影響しないといいのだけど。

機内で観た映画2017(後半)

またヨーロッパへ出張に行っていたので、飛行機のなかで観た映画の感想をざっと。尺が短い・機内鑑賞用の編集(墜落シーンとか)がされてない・集中して観なくても話がわかりやすい、といった理由で飛行機ではアニメーションをよく観るようにしてます:

・「ボス・ベイビー」:モザイクのかかった性器が出てくるのは、ドリームワークスやピクサーの作品のなかでは初ではないだろうか。兄と弟のケンカで最後まで話を持っていけばよかったんだろうけどね、ネタが尽きたのか途中でふたりが協力し合う展開になるのが残念。7歳の兄は現代っ子なのに、カセットテープの使い方が非常に手慣れているのは何故なんだ。アレック・ボールドウィンが「摩天楼を夢見て」の「Put That Coffee Down」のセルフパロディをやるところだけは良かった。

・「カーズ/クロスロード」:トレーナーが出てきたところで展開が簡単に読めてしまって、全体的に予定調和のお話でございました。何がやりたいんだか分からなかった前作に比べればマシな内容にはなっているものの、ポール・ニューマンへの追悼だけで話を引っ張りすぎだろう。ピクサーの作品のなかでは「カーズ」って凡庸な部類のシリーズだと思ってるのだが、なぜそれで3本も作品を作るのか。

・「怪盗グルーのミニオン大脱走」:これもシリーズがグデグデになった好例。主人公を怪盗にしたいのか正義のエージェントにしたいのかよく分からず。新キャラを出す場合も「主人公より優れてる奴」にして主人公の葛藤を描くのが定石だと思うのだけどね。グルーのあとを着いてくるだけなら新キャラの意味ないじゃん。

・「THE GUARDIANS」:ごく一部で話題のロシアのスーパーヒーロー映画。人体実験によって特殊能力を身につけた4人の男女(能力はテレキネシス、高速移動、獣人への変身、透明化)が、自分たちを作り上げた悪の科学者(コミック版のベインにやたら似ている)と戦う物語。4人が意外と弱いのと、話の展開が雑なので期待していたほどの出来ではなかった。特殊効果のシーンはいい線いってるので、もうちょっと話を練れば面白くなれたんだろうけどなあ。あとタイトルが2回出てこなかったか?

・「否定と肯定」:日本では12月公開の、実話を基にした法廷ドラマ。ホロコースト否定論者から彼を誹謗したと訴訟を起こされた、ホロコースト研究家の教授の物語で、イギリスでは誹謗で訴訟されると、訴訟された側が自らの正しさを証明しないといけないのか。法廷シーンのセリフは実際のやりとりそのままらしい。否定論者との駆け引きよりも、弁護チーム内での作戦論議に時間が割かれていたりして、サスペンスのバランスがいまいち悪い印象も受けるが、過去の出来事を否定する者に対して、論理的に事実を指摘して戦っていくさまは面白い。日本でも関東大震災の朝鮮人虐殺の否定論者とかがいるので、他人事としては観てられないですね。主演は教授役のレイチャル・ワイズだけど、彼女に代わって答弁するトム・ウィルキンソンがいちばん目立つ役になっている。否定論者を演じるティモシー・スポールの演技もいいし、マーク・ゲイティスやアンドリュー・スコットなども出ているぞ。

しかし訴訟を起こした否定論者のデビッド・アーヴィングって、ホロコーストよりもドレスデン爆撃による死傷者数のほうがずっと大きかったと論じた人で、カート・ヴォネガットも「スローターハウス5」でその死傷者数をそのまま言及してたりするのか…。

「THE BIG SICK」鑑賞


「フランクリン&バッシュ」や「シリコン・バレー」などで日本でもお馴染み(?)のコメディアン、クメイル・ナンジアーニの伝記的映画。奥さんのエミリーとの出会いを描いたもので、脚本も二人が執筆したものになっている。

シカゴに住むパキスタン系のクメイルはウーバーの運転手をしながらコメディクラブに出演しているコメディアンで、ある晩にエミリーと知り合って二人はすぐに恋に落ちる。しかし彼の両親は伝統的なムスリム教徒で、パキスタンの伝統にのっとってパキスタン系の女性とクメイルを結婚させようと躍起であり、さまざまな女性をクメイルに紹介していた。このためクメイルは白人のエミリーのことを両親に紹介できず、それがたたって二人の仲は険悪なものになってしまう。そんなときにエミリーが謎の疾患によって昏睡状態になってしまい、クメイルは彼女の看病にやってきたエミリーの両親に出会うことになる…というあらすじ。

監督は「ザ・ステイト」出身のコメディアンのマイケル・ショワルターだが、プロデューサーをジャド・アパトウが務めていて、全体的な雰囲気もアパトウ作品っぽいかな。ドラマとコメディの比率が8:2くらいなとことか、微妙に必要以上に尺が長いところとか。

クメイルとエミリーは出会ったその晩にヤッてしまうくらいの相性なのですが、クメイルはエミリーを自室に連れ込むなり「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」を見せたり、3回目のデートでは「怪人ドクター・ファイブス」を見せつけるという筋金入りのオタク。そんな趣味についてこれる女性がいるかよ!とは思うがまあ実際にあったことなんだろうなあ。その一方でそれなりに事実に脚色がされていて、クメイルの両親は実際もっと話がわかる人たちだったみたい。

話の前半でエミリーが昏睡状態になって、そのあとの話はエミリーの両親とクメイルが互いに打ち解けていく過程が中心になっていく。コメディアンとしてのキャリアを築こうとするクメイルの奮闘も並行して描かれるが、感情的になってステージ上で全然笑えないセットを披露してしまうくだりはね、他の映画でもたくさん見てきた展開なのでクリーシェすぎたです。

クメイルを演じるのはクメイル自身だが、エミリーはゾーイ・カザンが演じている。エミリーの両親をレイ・ロマーノとホリー・ハンターというベテラン勢が演じていて、最初はクメイルのことを敵視しているハンターの演技がすごく良かったな。クメイル・ナンジアーニのコメディって、どことなく無感情というか突き放した感じがあって個人的にはそんなに好きではなかったけど、この作品では激昂して暴れるシーンとかもあって結構面白かったです。

なんとなく先が読める予定調和の話ではあるし、スタンダップコメディの世界とかパキスタン系アメリカ人の結婚事情なんてのは日本人にはとっつきにくい題材かもしれないが、ほんわりとしたロマンティック・コメディであって結構楽しめる作品でしたよ。「ベイビードライバー」と並んでこの夏に高評価を受けた作品であるというのも納得。

「ダンケルク」鑑賞


・クリストファー・ノーラン監督作品で、それなりの予算がかかってるので大作映画であることは間違いないわけだが、登場人物の大半に名前がなかったり、無名に等しい役者を起用しているあたりはバットマン三部作や「インターステラー」に比べてもかなり実験色の強い作りだな、という印象は受けた。当初はインプロビゼーションを多用した撮影になるという話もあったようで、そう考えると隙の多い脚本もまあそういうものかなと思われてくる。

・でも陸・海・空で時系列がずれてるのは個人的には分かりづらいな、とは思いましたが。冒頭にちゃんと説明がされてるとはいえ、昼だった場面が急に夜になったりするのだもの。

・秒針が刻まれるサウンドトラックも効果的に用いられ、一刻をあらそう撤退作戦の緊迫感はとてもよく醸し出されていたと思う。とはいえやはり登場人物の設定が深堀りされないなかで先頭のシーンがずっと続くため、ノーラン作品としては短尺ながらも若干中だるみするところがあったかな。

・クレジットには大戦時に実際に救出作戦に用いられ、今回の撮影においても使用されたボートの名前が表記されてました。

・マイケル・ケインが冒頭に声だけの出演をしてるのに気付いたので、誰かほめてください。

・イギリス軍が変に美化されず、砂浜に取り残された若き兵士たちがズルをしてでも先に帰還船に乗り込もうとするところとか、フランス兵が全体的に差別されているところをちゃんと描いているのは良かった。軍事的には大失敗であった出来事だが、丸腰で撤退してきた兵士を当時の日本軍ならどう扱っただろうとか、今の日本ではどうだろう、といったことについて、どうしても考えざるを得ないのです。

「The Lost City of Z」鑑賞


タイトルだけ見ると「またゾンビものかい!」と勘違いしそうだが、そんなんでは全くなくて真面目な伝記映画。

アマゾンの秘境の探索に心血を注いだ冒険家パーシー・フォーセットの半生を描いたもので、話は20世紀初頭から始まる。イギリス陸軍に所属していたフォーセットは技量を見込まれ、南米のボリビアとブラジルの紛争調停のために両国の国境線の測量を依頼される。親が没落させた家系の出身であるフォーセットは、家の名誉の挽回を狙って依頼を受託し、うだるような暑さのジャングルの奥地へと向かう。そこでは原住民に襲われたりと苦難に見舞われながらも川をさかのぼり任務を達成した彼だったが、そこで陶器の破片や彫像を発見し、かつてアマゾンの奥地には高度に発達した文明が存在したという確信を抱くようになる。フォーセットはその文明の都市を「Z(ゼッド)」と名付け、帰国したのちに学会で発表するものの、他の学者たちには信用されずに嘲笑されてしまう。しかし彼の信念は揺るぎなく、ゼッドの存在を明かすために彼はふたたびアマゾンへと向かうのであった…というあらすじ。

フォーセットはインディ・ジョーンズやチャレンジャー教授のモデルにもなったという話もある冒険家だが、アマゾンでの発見や冒険よりも未知の都市を追い求めたフォーセットの人生のほうに話の重点が置かれている。ジャングルの川をさかのぼって驚異の経験をする話という点では「地獄の黙示録」、さらには「アギーレ 神の怒り」に近い内容だが、あれらの作品が西洋文化の概念がジャングルの奥地で崩壊していく話であったのに対し、こちらではむしろ野蛮なのは西洋文化(形式にこだわる学会員、仲間を裏切る冒険家、フォーセット自身も参戦した第一次世界大戦など)であり、ジャングルやそこで出会う未知の存在はフォーセットにむしろ安泰を与えてくれる存在として描かれている。

もちろんジャングルではいつも極限状態に置かれるのだけど、結構何度も無事に生還しているので、あまり緊迫感が続かないんだよな(劇中では3回の遠征が行われるが、実際は7回行われたらしい)。2時間20分の長尺だが、第一次世界大戦の描写にあんな時間を割く必要はあったのかしらん。

フォーセットの足取りを追った、「ザ・ニューヨーカー」誌の記者による同名のベストセラーをもとにした映画だが、上記の遠征回数のようにそれなりに脚色が加えられているみたい。また劇中ではアマゾンの原住民の文化に寛大な理解を示すフォーセットだが、実際は神智学の熱心な信者で、ゼッドこそは白人文明の発祥の地だと信じて探索を行っていたという話もあるようで…?

監督はジェームズ・グレイ。前作「エヴァの告白」も高い評価を得てましたが俺は未見。実際にアマゾンの過酷な環境に35ミリフィルムカメラを持ち込んで撮影した映像は美しいですよ。フォーセットを演じるのがチャーリー・ハナムで、彼の相棒の冒険家を演じるのが、最近演技がどんどん評価されているロバート・パティンソン。フォーセットの息子役にスパイダーマンことトム・ホランド。こうして書くとキャストが豪華だな。あとはフォーセットを家で待ち続ける妻役にシエナ・ミラー。なぜかフランコ・ネロもチョイ役で出てました。

興行的には失敗したものの批評家からは高い評価を得た作品だが、ジャングルとイギリスの話を交互に描いたせいか個人的にはテンポが悪いかなと感じました。ジャングルの奥地に向かうことに執念を燃やす男の映画なら、先に「アギーレ 神の怒り」を観ましょう。