INVASION IOWA

「スタートレック」のカーク船長役で有名なウィリアム・シャトナー主演(?)のリアリティー番組「INVASION IOWA」を観る。リアリティー番組というかドキュメンタリーというか…。この番組のコンセプトはシャトナー率いる撮影隊が、カーク船長の出身地とされるアイオワ州のリバーサイドという田舎町にやってきて、低予算のSFアクション映画を撮影するために町の住民の力を借りるというもの。しかしこの話にはウラがあって、実は映画撮影というのはまったくのウソで撮影スタッフは全員が役者であり、彼らのとる奇妙な騒動につきあわされる住民たちの滑稽な姿を紹介する…というのが真のコンセプトだったりする。つまり野呂圭介がいつまでも出てこない「どっきりカメラ」のような番組なのだ。

コンセプトからしてこんなだから、番組の内容自体もかなりマヌケというか、正直なところ見てて疲れるようなものになっている。ひたすら暴走しようとするシャトナーやセリフをろくに覚えられないヒロイン役のおねーちゃんに町の住人は圧倒されるばかりなのだけど、その非常に反応がゆったりしているというか、何か気の抜けた感じなのでテンションが緩みっぱなしで、観てる側の力もどんどん抜けてきてしまう。まあビールでも飲みながらダラダラ観るにはいい番組なんじゃないでしょうか。プロレスやアクション番組の再放送ばっかりやってるスパイクTVが放送局だし。

近年は「自分自身のパロディを自分で演じる」という技巧を会得したおかげで、CDがヒットしたりゴールデン・グローブ賞を獲得したりしてるシャトナーだが、70歳を超えても跳ね回ってるそのバイタリティには恐れ入る。もはやカーク船長の面影がどこにも残ってないのが悲しいが。

BSG DVDコメンタリー

「BATTLESTAR GALACTICA」のパイロット版ミニ・シリーズのDVDをコメンタリー付きでダラダラ観る。製作総指揮が「スター・トレック」のライターであったロナルド・D・ムーアが務めていることは以前にも書いたが、「STは好きなんだけれども…」と断っておきながら、STで出来なかったこと(役者のアドリブとか)を意図的にこの作品に取り入れた、と語っているのが面白い。
作中で最強の兵器が光子魚雷などのハイテクなものではなく「核ミサイル」であるのもそのためらしい。ある意味でBSGはSTの対局に存在するシリーズであったわけか。

主演のエドワード・ジェームス・オルモスが、終盤間際にあるソバを食うシーンを真っ先にやりたがったというコメントには笑った。

アメリカ版「THE OFFICE」

イギリスで大ヒットし、アメリカでもカルト的な人気を得てゴールデン・グローブまで獲得してしまった大傑作コメディ「THE OFFICE」のアメリカ版リメイクが放送されたので鑑賞する。

オリジナルの「THE OFFICE」の何がスゴかったかというと、オフィスという小世界の平凡な日常を描きながらも些細なネタで爆笑させるという、現実とコメディの非常にデリケートな境界を渡ることに成功したことだろう。主人公が笑えないジョークを出した後の「気まずさ」を笑うというアクロバット的な笑いの新境地を開いただけでなく、俺のような日本のサラリーマンにも仕事場での「イタさ」を追体験させてくれるほどの鋭い現実描写がとにかく見事だったわけだ。主人公のデビッド・ブレントみたいに「政治的に正しくない」発言を連発する上司なんて、かつての職場に腐るほどいましたって。
そして笑いに加えて、サラリーマンなら皆が経験するであろう解雇に対する不安感やオフィスでの恋愛なども描き、あの大感動の最終回(本当に泣きましたよ)をもって締めくくることができた、とにかく奇跡のようなシリーズだったわけである。

そんな傑作をリメイクして、オリジナルに勝るとも劣らない作品を作るのは決して容易なことではないだろう。そして今回の第1エピソードを観る限り、残念ながらリメイクには成功してないようだ。話の内容はオリジナルの第1話とほぼ同じで、いくつかのジョーク(特にイギリス人じゃないと分からないようなやつ)が変更されている程度だったが、逆に話の流れやセリフがほとんど同じであるために「見覚えがあるんだけど何かが違う世界」を観ているような違和感を感じてしまう。前に「シンプソンズ」でバートを騙すためにシンプソン一家を役者が演じるというネタがあったけど、まさしく本作でもデビッドやティム、ドーンに相応するキャラクターを演じる役者たちが「ニセモノ」に見えてしまうのだ。オリジナルを観てない人には関係ない話だろうが。

主人公を演じるのはスティーブ・キャレル。前に「デイリーショー」に出てた人らしいが、ちょっと奇声を上げすぎというか、何かオリジナルのリッキー・ジャーヴェイスに比べて役を作ってるような感じがするのがいただけない。ティムやドーン役の役者たちもオリジナルには適わないかな。ガース役の人がイヤミなオタクといった雰囲気になってたのだけは良かったと思う。オリジナルはちょっとハンサムすぎる感があったので。

そしてストーリーで気になったことを2つ。ティムが彼女に気があることを承知しているとドーンが語るシーンがあるのだが、オリジナルだと何も知らないドーンの気を引こうとするティムの一途な行動が面白かったわけで、彼の好意を知りながらも婚約者といちゃつくドーンというのは単なるイヤな女ではないかと。あとラストはティムがデビッドにイタズラをしかけるシーンで終わるのだが、オリジナルでは彼とデビッドの間には奇妙な師弟関係があったし、とんでもない上司であってもデビッドを露骨にバカにするような部下はいなかったはずである。迷惑な上司に反抗せず、ひたすら耐える部下の描写が魅力だったわけで。どちらも些細なことだろうけど、オリジナルの完璧さに比べるとどうしても気になってしまう。

オリジナルの原案者であるリッキー・ジャーヴェイスとスティーブン・マーチャントも製作にある程度関わってるようだし、これからの発展に期待したい気はするのだけど、残念ながら来週からは「HOUSE」の裏番組になってしまうので俺はもう観ないだろう。さらばアメリカ版「THE OFFICE」。

Doctor Who leak suspect is sacked

ちょっと前に「ネット上への流出は故意のものではないか?」と書いた「ドクター・フー」の件だが、BBCは犯人を突き止めて解雇したようだ。BBCの内部の者の仕業かと思ったら、なんとここカナダの下請け業者の人間だったらしい。BBCとCBC(カナダの放送局)のつながりが強いことを考えると必ずしも意外なことではないが、業界人としては最低の行為だよなあ。おかげで流出防止への締め付けがさらに厳しくなって、周囲の人間が仕事をしにくくなるだけだろうに。俺もダウンロードした身なので偉そうなことは言えないが。

でも客観的に見ると、この一連の騒動がBBCおよび「ドクター・フー」にとって莫大な宣伝になったことは明らかなので、今後はこれを真似して本当に宣伝に使う放送局が出てくるかもしれない。もしかしたらこの解雇も宣伝の一環か?

「BATTLESTAR GALACTICA」

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タイトルから分かるように、70年代のSFシリーズ「宇宙空母ギャラクティカ」のリメイク作品(製作側は「リイマジネーション作品」と呼んでいる)。2003年にミニ・シリーズとして復活を果たし、その奥の深いテーマや緊迫感に満ちたプロットがSFファンの間で大きな話題になった。第1シーズンの放送は出資の関係でイギリスの方が早かったため、ネット上では大量の映像ファイルが北米へ「輸出」されたほどの人気を誇る。一時期はブライアン・シンガーによるリメイクの話もあったらしいが、このシリーズで総指揮を務めるのは「スタートレック:ディープ・スペース・ナイン」などのライターであったロナルド・D・ムーア。勝ち目のない戦いをしている人々の描写は、後期の「DS9」にちょっと似ていなくもない。

ストーリーは12の惑星に植民地を設けて暮らしていた人類が、ある日突然に彼らの造り出したロボットである「サイロン」たちによる核攻撃を受け、絶滅寸前の状態に陥ってしまう。そしてわずか5万人となった人類の生き残りたちは宇宙空母ギャラクティカに導かれながら、サイロンの追跡を逃れて伝説の惑星「地球」にたどり着くため、長く苦しい旅に出発するのだった…というもの。おおまかなストーリーはオリジナル・シリーズとあまり変わっていないらしいが、人間そっくりのサイロンが登場したりするなど(自分がサイロンだと自覚していないものもいる)、細かい変更が加えられているようだ。特にメイン・キャラクター2人が男性から女性になったのはファンの間でかなりの議論になったとか。

製作側の話によると、このシリーズは9/11テロをモデルに「大惨事を経験した人々」の描写をテーマにしているらしいが、確かに話は非常に重く、暗いものになっている。人々はサイロンに追われ続ける日々を過ごし、周囲の人間が隠れサイロンではないかと疑心暗鬼になっているのだ。ここには「スタートレック」に出てくるような明るい未来の姿は微塵もない。どのエピソードにもスリル満点のアクション・シーンがあるものの(特に戦闘機のドッグファイトの特撮は見事)、あくまでも人間ドラマに重きをおき、希望が打ち砕かれる寸前にいる人々の姿をリアルに描いたことが絶大な人気につながったのだろう。また多神教を信仰する人類に対し、唯一神の概念を持ち、謎めいたプランにしたがって行動するサイロンたちがストーリーに奥行きをあたえている。

主人公のアダマ艦長を演じるのは「ブレードランナー」などで有名なエドワード・ジェームス・オルモス。トレードマークの口ひげを剃り落し、従来のどちらかといえば陽気なイメージをかなぐり捨て、厳格で孤独な艦長の役を見事に演じ切っている。そして人類の生き残りの代表である大統領を演じるのは「ドニー・ダーコ」のメアリー・マクドネル。末期ガンに冒されていることをひた隠しにしながら、人類を導こうとする薄幸の女性である(この人はこんな役ばっか)。バンクーバーで撮影されていることもあり、他の出演者はカナダ人がずいぶん多いようだ。

とにかく話が暗いとはいえ、一度見ればその緻密さとリアルさが病みつきになるシリーズだが、個人的にはサイロンが強すぎるのが少し気に入らないかもしれない。ギャラクティカに隠れサイロンが何名も潜伏しているうえ、超自然的といえるくらいの能力を持っているのだが、人類を「観察」するという目的のために絶滅させていない(らしい)というのは、ギャラクティカが孤軍奮闘している意味がないかと。あと現在どのドラマでも大流行の「グラグラビジョン」(カメラがとにかく揺れる)を使ってリアルさを出そうとしてるのは分かるのだが、あれはちょっと揺れ過ぎでしょう。でもシリーズの圧倒的な出来に比べれば些細な不満である。

ちなみに第1シーズンの北米での放送開始と「スタートレック:エンタープライズ」の放送打ち切り決定はほぼ同時期に行われたのだが、「スタートレック」が不人気になり、「宇宙空母ギャラクティカ」の人気が再燃するなんて数年前には誰も予想できなかっただろう。

なおイギリス版と北米版はオープニングの曲が違っている。女性ボーカルを使ったイギリス版の方がずっとカッコいい。