ドクター・フー「The Star Beast」鑑賞

というわけでショーランナーにラッセル・T・デイビスが復帰しての新シリーズ。デビッド・テナントも14代目ドクターとして復帰し、コンパニオンにもキャサリン・テイト演じるドナ・ノーブルが戻ってきて15年前くらい前の名コンビが復活している訳だが、4話後くらいのクリスマス特番ではチュティ・ガトゥ(正しい発音はシューティ・ガトワか?)演じる15代目ドクターへの交代が確定しているわけで、デイビスが復帰するにあたってのテストラン的な数エピソードになるのかね。

この「Star Beast」は意外にも、パット・ミルズとデイブ・ギボンズが1980年に出したドクター・フーのコミックをベースにしていて、コミックを脚色したTVエピソードってこれが初かな?夜のロンドンに巨大な宇宙船が着地し、それを調査していたドクターはミープという謎の生物、そしてドナに出会う。ミープがウラースという宇宙人たちに追われていることを知ったドクターたちはミープの安全を確保しようとするのだが…というあらすじ。

年末の夜空に災厄が降ってきて、ロンドンが危険な目に遭う展開はいかにもデイビスだなあという感じ。毎年やってて流石に飽きてたパターンも、10年ぶりくらいに見ると新鮮に感じられます。そのあともデイビスらしい冒険活劇が続き、話がすぐさまグルーヴにはまっていた。前のショーランナーのクリス・チブナルは妙に小難しい話を書いていたので、よいカウンターになってるんじゃないですか。

メインのプロットに加えて、以前にドクターの記憶を失ったことで、ドクターに再会したら死ぬと言われていたドナがどのように彼のことを思い出すのかという問題が解決される。そして一方では、なぜ今回のドクターは10代目と同じ顔を持っているのか?というのが大きな謎として提示されていた。その謎が明かされたとき15代目に代わるんだろうなあ。そしていまのドナは結婚してティーンの娘もいると言う設定で、奇しくもローズという名のその子が、第2のコンパニオンのような立場になるのかな。

ディズニープラスと世界配信契約を結んだことで(だからこれ日本でも観れるはず)、ネズミマネーが流入したのか新しいターディスのセットは駆け回れるほどデカいし、ミープの宇宙船のセットも大きくて製作予算が潤沢になっていることが窺える。あとは肝心のストーリーだけど久々のラッセル・T・デイビス作品としては及第点以上の出来だったので、このクオリティが続くことを願います。

「THE CURSE」鑑賞

日本だと知名度がゼロだけど、カナダ出身のネイサン・フィールダーというコメディアンがいまして、コメディ・セントラルの「NATHAN FOR YOU」という番組で頭角を表した人なのです。いろいろ苦労している小さな商売をフィールダーが奇抜なアイデアで助けようとするこの番組は、そのネタの1つ「Dumb Starbucks」が日本でもちょっとニュースに取り上げられたりしたけど、どんなアホみたいなアイデアでも面白おかしく取り上げたりせず、フィールダーが全く笑わずに真面目に取り組んでいくその姿勢は、リアリティー番組とシュールなコメディが入り混じった実に不思議な番組を作り上げていたっけ。番組で知り合った自称ビル・ゲイツのそっくりさん(あまり似てない)の男性の望みを聞いて、彼の初恋の人を探しにいくシリーズ最終回「Finding Frances」はどこまでがリアリティ番組でどこまでがやらせなのか分からないまま、現実と虚構、笑いと哀しみが錯綜する傑作回としてアメリカでは大絶賛されたのです。その延長線上にあるHBO MAXのシリーズ「THE REHEARSAL」は日本でも視聴できるのかな。

そんなネイサン・フィールダーが、エマ・ストーンおよび「アンカット・ダイヤモンド」のサフディ兄弟のひとりベニー・サフディと組んで作ったのがこの「THE CURSE」で、製作はA24。

話の舞台となるのはニューメキシコ州のエスパニョーラ。ホイットニーとアシャーの夫婦は、そこのヒスパニック系の住民たちにお手頃な家やエコな家を紹介するというリアリティ番組を製作していた。彼ら自身も出演するこの番組の撮影は思うようにはいかず、アシャーはプロデューサーに要請されて、自分を良く見させるため物売りの少女にお金を恵むシーンを撮影するが、その後すぐに少女からお金を取り戻してしまう。怒った少女は彼に「呪いをかけてやる」と言うのだが…というあらすじ。

正直なところ第1話は大きな話の進展がなくて、この少女の「呪い」が実際に効果を発揮するのかも分からず。ただホイットニーとアシャーの番組製作は前途多難だな、という雰囲気は伝わってくる。彼らが撮影しているのはリアリティ番組といいつつも「やらせ」が使用され、ホイットニーとアシャーの住宅紹介もエスパニョーラの住民への善行だと強調される一方で裏ではあやしいビジネスが絡んでいることが示唆されるなど、リアリティとフェイクが入り混じってるあたりがネイサン・フィールダーっぽいのかな。そしてアシャーとホイットニーの父親がお互いのチンコの小ささについて話したり、プロデューサーが過去に手がけた実に怪しげな番組が紹介されたりと、変なところで笑いを取りにいってる部分もあります。

こういうドラマでネイサン・フィールダーが演技しているのは初めて観るので、感情を露わにアシャー役を演じている姿はなんか変な感じ。彼は第1話の監督も務めているが奇妙なアングルからのショットが多いです。エマ・ストーンはヨルゴス・ランティモス作品もそうだが、こういうエキセントリックな作品に出るようになっていくのだろうか。そして番組のノリの軽いプロデューサーを演じるのがベニー・サフディで、普通に演技できるじゃんといった感じ。彼は「リコリス・ピザ」とかにも出演してたのか。あとはコービー・バーンセンなどが出演してます。

まあ正直なところこれからどういう展開になっていくのか全く分からないシリーズではありますが、ネイサン・フィールダーの番組なら観てて損はないと思う。

「MY ADVENTURES WITH SUPERMAN」鑑賞

米カートゥーン・ネットワークのアダルトスイム枠で始まったスーパーマンのアニメ。

ヤングアダルト向けにクラークとロイスのロマンスを中心にしたもので、従来のスーパーマンものだとベテラン記者のロイスに軽く扱われる新人のクラークという図式が多かったのに対し、今回のロイスはクラークよりちょっと先輩のインターンといった感じで、陰謀論好きのジミー・オルセンとあわせて特ダネを追うもののペリー・ホワイト編集長に怒られてばかりいる。

最近はコミックも実写版もクラークがスーパーマンであることをロイスが知っている(さらには結婚している)設定が多くて、それはそれで面白いのだけど、クラークとスーパーマンとロイスの奇妙な三角関係があった頃の話が今となっては逆に新鮮になったな。今回はロイスが最初からスーパーマンよりもクラークに気があるような描写があるのが面白いです。

クラークは自分のパワーを十分に把握しておらず、第1話では「僕は何者なのだろう」という言葉を連発している。「スーパーマン」という名前もロイスが勝手につけたものだし、クリプトン人としての自分の過去をこれから探索していくという意味で、「スーパーマンとの冒険」というタイトルはロイスだけでなくクラーク自身の冒険も指しているのだろう。なお今作のクリプトン人はどうも悪者だったっぽいことが示唆されていて、今後の大きなテーマになるのかな。

ヴィラン側はレックス・ルーサーは登場しておらず、第1話では電気を操るライブワイヤーがスーパーマンを苦しめていた。さらにはデスストローク(両眼あり)がハンサムな青年として登場するのでファンのあいだでは大きな論議になっているようだが、最後にアマンダ・ウォラーと並んで出てくるあたり、あれNew 52でも短命に終わったTEAM 7なのかなあ。あとは味方側だとベイカー街遊撃隊みたいなノリで現代版のニュースボーイ・リージョンが出てきます。

製作は「THE LEGEND OF KORRA」でお馴染みの韓国のスタジオミール。キャラクターの線がちょっと細い気もするがまあいいや。クラークの声優は実写版「ザ・ボーイズ」のジャック・クエイドで、最近はアニメとかコミック絡みの作品によく出てるな。

ロマンス要素を前面に出した海外アニメって珍しいし、劇場版ではダークな展開が続いていたスーパーマン作品に対してこのような明るい感じの作品が出てきたのは一服の清涼剤といったところで歓迎したいです。今後はスーパーガールを筆頭にいろんなキャラクターも登場するようで面白くなるかも。

「THE GALLOWS POLE」鑑賞

THIS IS ENGLAND」シリーズなどで知られるシェーン・メドウズ脚本&監督で、みんな大好きA24製作のミニシリーズ。

原作になった小説があるらしいが、1760年代にヨークシャー近くの村クラッグ・ベールで起きた贋金事件をテーマにしたもの。かつては紡績業で栄えていた村も産業革命の煽りを受けて没落し、住民は貧困に喘いでいた。そこにデビッド・ハートリーという男が数年ぶりに戻ってくる。彼はバーミンガムで贋金作りの技術を身につけており、その腕前を皆に見せて住民の協力を得る。そして村全体が一攫千金を夢見るのだったが…というあらすじ。

贋金といってもお札が流通する前の話なので、ここで用いられるのは金貨の端っこを少しだけ削り、その金のかけらを集めて溶かして、偽の鋳型にはめ込んで新たな金貨を作るというもの。100枚の金貨から10枚が作れるとか言っていて、効率的なのかどうかはよく分からんけど、日本でも藩ぐるみで贋金作りを行っていたところもあるそうで、古今東西で皆が考えることは似るんでしょう。

史実では関係者がゲロったことで村の企みが知られるところとなり、デビッドたちは逮捕されて絞首刑に処されたそうだが、この番組ではそこまで描かれない。というか3話構成なのだけどペース配分がやけに特殊で、第1話は故郷に帰ってきたデビッドが弟たちと結束し、かつての恋人とツンデレなやりとりをするまで。2話目の途中になってやっと贋金作りの話が出てきて、3話で本格的なプランが組まれるものの、地元の有力者も仲間にしてやったぜ!とみんな喜んで終わるという、意外な話の展開であった。犯罪ものやケイパーものというよりも、バディものに近い感じ?第1話の冒頭、腹を刺されてひとり横たわっているデビッドが死神のような存在に出会うつかみとか、もっとハードボイルドな内容になるかと思いきやそうでもなかった。現代にも通じる、貧しいコミュニティの結束感を監督は描きたかったのかしらん。

出演者はよく知らない人たちばかりで、デビッドを演じるマイケル・ソチャという三白眼の役者は「THIS IS ENGLAND」にも出てたのか。というかあの映画の主役だった少年が立派な大人になってデビッドの弟を演じていて、自分が歳とったことを実感するなど。

シェーン・メドウズの作品としては期待してたものとは違ってたけど、イギリスの(たぶん)あまり知られてない歴史に焦点を当てた興味深い作品。

「MRS. DAVIS」鑑賞

こないだの「POKER FACE」など何気に侮れないTVシリーズを出している米PEACOCKの新シリーズで、クリエーターは「LOST」のデイモン・リンデロフと、「ビッグバン・セオリー」のタラ・ヘルナンデス。

舞台は現代、世界は万能のAI「ミセス・デイビス」の助けによって戦争や飢餓から解放され、人々はイアピースでミセス・デイビスの指示を受けることで幸せに暮らしていた。しかし尼僧として修道院で暮らすシモーヌはミセス・デイビスに接続することをひたすら拒んでいたが、ミセス・デイビスは逆にあらゆる手段を用いて彼女にコンタクトしてくる。それによって修道院は閉鎖され、謎のドイツ人集団にも追われることになったシモーヌはミセス・デイビスと対話することを決意。そして彼女はミセス・デイビスが自らを停止することの引き換えに、伝説の「聖杯」を見つけ出すよう命じられるのだった…というあらすじ。

たぶん意味が分からないと思うが、ほんとにこんな内容です。冒頭の15分で14世紀のテンプル騎士団が登場し、そこから2023年に10年ぶりに無人島から救出された科学者が出てきて、ラスベガスで看板に激突した娼婦の首が吹き飛ぶという怒涛の展開が繰り広げられるのだよ。こないだパラマウント+で始まったキーファー・サザーランド主演のサスペンス「RABBIT HOLE」も、主人公の背景説明などがろくにされないままひたすら急展開が続く内容で、観てる時は飽きないもののなんか疲れてくるのよな。

ただこのシリーズはもっとシュールな内容になっていて、AIに対するレジスタンスの物語、というよりもゲラゲラ笑える展開が実は多かったりする。巨大な虫眼鏡で加熱されてトラックの荷台で爆発するジャムの瓶とか、シモーヌを脅すためにダイナマイトを巻き付けられる愛馬とか。デイモン・リンデロフは前作「ウォッチメン」で原作をうまくアレンジしてシュールなギャグを織り込んでいたが、この作品はタラ・ヘルナンデスのインプットの方が大きいのかな?

「RABBIT HOLE」同様に話の設定の説明はろくにされなくて、第1話ではミセス・デイビスがAIだという説明どころか、その名前も言及されない有様。主人公のシモーヌもただの尼僧ではなく、過去に別の名前で何かしらの活動をしていたことや、今も謎のボスの指示を受け、詐欺を働く手品師たちを撲滅していることが示唆されているのだけど、ここらへんは話を追って詳細が明らかになるのでしょう。たぶん。

シモーヌを演じるのは「GLOW」のベティ・ギルピン。第1話では修道院長にマーゴ・マーティンデイルが出てたがこのあとも出てくるかは不明。後のエピソードではデビッド・アークエットなどが登場するみたい。

今後の展開は全知全能のAIに対するレジスタンスの物語になるのか、世界をまたにかけた聖杯探索の話になるのか、全く予想がつかないものの、何か傑作になりそうな予感がする作品。