「デイリーショー」ゲストホスト所感(その2)

前回に続いてゲスト陣が5週続いたので所感を。

6週目:ハッサン・ミンハジ

番組の出身者ですね。Netflixの彼の番組は未見。ちょっと自己主張が強い感じで、予定されてたゲストがドタキャンしたとかで自分の娘を出演させたのは「へ?」と思ったけど娘さんの顔はうまく隠してました。ロニー・チャンとのアジア人同士の掛け合い(上)は秀逸だったほか、ツイッター文化が嫌になったとかで自分のアカウントをカメラの前で削除したのは面白かった。日々の司会というよりもイベント向けのタイプ?

7週目:マーロン・ウェイアンズ

ウェイアンズ一家の彼。政治的に深いコメントとか殆どできなくて、話すことは自分の出演作についてとかで、ゲストも友人の役者ばかりだったような。ゲスト司会のなかでいちばん無味乾燥な人だった。「レクイエム・フォー・ドリーム」の演技とか好きだったのになぁ。

8週目:カル・ペン

オバマ政権で働くために役者業を一時期中断していたくらいの人なので、政治的なツッコミとかも的確に行えていた。自分のコネを生かしてかバイデン大統領にインタビューしたほか、パキスタンの外相へのロングインタビューもきっちりこなしてて偉い。考えてることの説明を聞くとバイデンってやはり頭良いよなと思う。「デイリーショー」でなくても、何か政治的な番組の司会やればうまくいくんじゃないの。

9週目:アル・フランケン

元SNLのライターだが上院議員も務めた大ベテランなので貫禄はある。共和党のリンゼー・グラハムを招き、腹を割って話させることができるのはこの人くらいだろう。その一方で70歳を超えた高齢なので体力的なキレがないかな。以前にどうでもいいスキャンダルで辞職したけど、また立候補して政治家やってください。

10週目:ジョン・レグイザモ

日本でも名の知られた俳優ですな。ノリもいいし政治的なコメントも無難にこなせる一方で、トランプ起訴や学校での銃撃事件といった大きなニュースには十分深く切り込めてなかったかも。あとは自分のルーツを押し出したヒスパニックのネタが多くてお腹いっぱい。

というわけでカル・ペンとフランケンが良くて次にミンハジとレグイザモ、ウェイアンズはダメダメといった印象。女性ホストが多かった前回より良かったかな…と思ってしまうのは自分の偏見でしょうか。

次回からはロイ・ウッドJr.たちレギュラー出演者が順に司会をやっていくそうで、最終的には筆頭候補のウッドJr.が4代目司会者に選ばれる流れになるのかなあ?でもこのゲスト司会の施策のおかげで視聴率がトレバー・ノアの頃のものを上回ったそうなので、このあともしばらくは司会者が決まらずにゲストで回していくことになるかもしれない。

「LUCKY HANK」鑑賞

こないだ「ベター・コール・ソウル」が終わったばかりのボブ・オデンカークが、早くもまたAMCと組んで世に送り出すTVシリーズ。

主人公のハンクは、ペンシルバニアの小さな街の大学で文学を教えている作家。講義でも生徒に作品を読ませているだけでろくに指導を行わない人物だったが、それを生徒に指摘されたことで逆ギレし、「こんな辺鄙な街の大学に通ってる時点で、生徒も教授も終わってんのよ!」とぶちまけてしまう。これが大学新聞で報じられ、ハンクは学生ばかりか同僚の教授たちからも顰蹙をかうことに。そして教員の代表という立場を解かれることになるのが…というあらすじ。

1997年に出た小説を原作としているらしい。プロデューサーと第1話の脚本がUS版「THE OFFICE」のポール・リーバースタインで第1話の監督がピーター・ファレリーという布陣だがコメディ色は薄くて、いわゆるミッドライフ・クライシスを迎えた中年男性の、地味といえば地味なドラマになっている。主人公が大学教授ということもあり難しい言葉がポンポン飛び交って、主人公のモノローグもかぶさってセリフは多い。

ハンクの妻も教員をやっており、そちらは現況に満足しておらずキャリアのためなら街を出ていくことも厭わない考えのようなので、今後はハンクと妻の軋轢が話の軸になっていくのかな?ストレスのたまったハンクがどこかで暴発することが考えられるものの、今後の展開がどうなるのかよく分からず。まさか生活のためにドラッグを売って犯罪王になるような展開はないだろうなあ。

ハンクの妻に「THE KILLING」のミレイユ・イーノス、大学の学長役に「THE OFFICE」のオスカー・ヌニュネス、あとはカイル・マクラクランも出てくるみたいでキャストはそこそこ豪華。オデンカークの演技を見るのは相変わらず楽しいし、批評家たちの評判も良いものの、やはり今後どういう方向に話が進んでいくのかよく分からないので様子を見ることにする。

「Gotham Knights」鑑賞

バットマンの街ことゴッサム・シティを舞台にした、The CWの新シリーズ。同名のTVゲームとは関係ないみたい。プロデューサーにグレッグ・バーランティがいるが「アローバース」に属する作品ではなく、同じくバットマンをベースにした「GOTHAM」や「BATGIRL」とも別の世界の話、ということで良いのかな。

今までのバットマン系のTVシリーズって、アダム・ウエスト版以降はコスチュームを着たバットマン本人が登場したことがなく、「BATGIRL」ではバットマンが行方不明になったという設定にしてお茶を濁していたが、この作品ではバットマンのマスクをしたブルース・ウェインが登場する!冒頭に死体となって!

…というわけでこれはバットマン亡きあとの世界の物語。何者かに命じられてウェイン邸に侵入したハーパー・ロウとその弟のカレン、およびジョーカーの娘ことデュエラはブルースを殺したという濡れ衣を着せられて逮捕され、一方でブルースの養子であるテイラー・ヘイズはブルースがバットマンであることを全く知らなかったものの、彼の資産を不正に横領した罪を着せられて逮捕される。こうして逮捕された4人は、テイラーの友人ステファニー・マーチと、突然現れたロビンに助けられて脱走し、バットマンの死の真相を突き止めようとするのだった…というあらすじ。

ハーパー・ロウってコミックだとブルーバードという名のバットマンのサイドキックですね。ステファニー・マーチは同じくスポイラーというキャラクター。そして今回のロビンはキャリー・ケリーという、「ダークナイト・リターンズ」に出てきたロビンと同じ名前になっている。あとはゴッサムの検事として、ツーフェイスになる前のハーヴェイ・デントが登場するが、コミックの知名度の低いキャラクターをかき集めたようにしか感じられず…。

せめて主役に初代ロビンことナイトウィングあたりを起用すれば形になったんだろうが、このテイラー・ヘイズって番組の完全オリジナルキャラクターだそうで、バットマンも彼に自分の正体を明かしてなかったので、戦闘能力などは完全にゼロ。第1話ではろくに活躍もせず、こんなのが主人公で大丈夫なのかね?

そしてブルースの死には秘密結社コート・オブ・アウルズが関わっているらしきことが明らかになるのだが、それはテイラーたちを逮捕した悪徳刑事が、アウルズの刻印がされた腕時計をしていたことが発覚するという安直さ。極秘の秘密結社が、自分とこのシンボルを彫った時計なんか配るなよ!

出てる役者はみんな若手が多くてよく知りません。第1話の監督は「ジャッジ・ドレッド」のダニー・キャノン。「CSI」のプロデューサーで一山当てて、久しぶりにコミック作品に戻ってきたのかと思ったら「GOTHAM」や「PENNYWORTH」などでも監督やってたのね。

これ本国の評判もずいぶん悪いようで、1シーズンで切られるだろうな。長年続いた「ザ・フラッシュ」も終わってアローバースが終焉を迎え、新しくDC作品の長となったジェームズ・ガンはThe CWの一連の作品には興味がないようだし、そもそもThe CWが身売りされたいま、The CWにおけるDCコミックス作品の由緒ある歴史が、こんな出来の悪い作品で結末を迎えるのはなんか残念な気がしてしまうのです。

「デイリーショー」ゲストホスト所感(その1)

昨年末にトレバー・ノアが7年間務めた「デイリーショー」のホストを降板したのは知ってる人も多いと思う。やはり前代のジョン・スチュワートの域に達することはできなかったものの、長年お疲れ様でした。そのスチュワートよりも最近では「デイリーショー」門下生のジョン・オリバーのほうが人気があるのかな。

4代目(そう、スチュワートの前にクレイグ・キルボーンがいるのです)のホストはノアのもとで「特派員」と呼ばれるレギュラー出演者の一人だったロイ・ウッドJr.が有力視されているようだけど、コメディ・セントラルは後任を未だに発表せず、今年に入ってからは週ごとに異なるホストをゲストとして招いて司会を行わせている。政治ネタを扱った番組なのに司会者の観点が定まらないのはどうなのよ、とは思うもののゲストが有名なコメディアンばかりで、同じ司会者役でも芸風がいろいろ違うんだな、というのは勉強になったので最初の5人の所感をざっと書いておく:

1週目:レスリー・ジョーンズ

日本だと「ゴーストバスターズ」のリブート版で有名なコメディエンヌですね。こないだまで「サタデー・ナイト・ライブ」のレギュラーだったこともあり、SNLの同じく時事ネタを扱うセグメント「ウィークエンド・アップデート」に全体的なノリは近かったかな。自分から騒ぎ立てるタイプの芸風なので、社会の出来事をいったん受け止めてコメントする司会には向いてないかも。

2週目:ワンダ・サイクス

カミングアウトしてるベテランのコメディエンヌですね。短命に終わった自身のトークショーも持ってた人だけど、特にこれといった特徴もなく淡々とホストをやっていた感じ。あまり印象に残ってない。

3週目:D・L・ヒューグリー

Hughleyと書いてヒューグリーと読む。ヒューリーじゃないよ。今回唯一の男性ホスト。あまり政治ネタは扱わないコメディアンだったかな?と思ったけど、警察の暴行や銃乱射事件などといった深刻なテーマについても正面から取り組み、自分の意見をしっかり述べるなど、一番適任と思えるようなホストであった。

4週目:チェルシー・ハンドラー

彼女も以前に自分のトークショーを持ってた人。いかにもプロンプターに書かれたことを読んでるような司会っぷりだったし、レギュラーでない外部のコメディアンたちを呼んできて座談会をやったりと、それもう「デイリーショー」じゃなくない?という感じだったよ。しかし彼女の「子供がいないほうが人生を楽しめる」というネタにFOXニュースなどが噛み付いたため場外乱闘に発展し、皮肉にもメディアでは彼女のホストがいちばん話題になっていた。

5週目:サラ・シルバーマン

彼女もベテランになったよな。あまり政治ネタを扱わない人という印象があったけど、下ネタを交えながら緩急をつけたジョークをポンポンと出してきて、カーブと直球を巧みに使い分けるデリバリーはお見事でした。

というわけでヒューグリーが一番よくて次にシルバーマン、あとの3人は似たり寄ったりといった印象だった。まあコメディアンとしての力量はまた別なんだろうけどね。番組は来週休止で、そのあとはハッサン・ミンハジやアル・フランケン、カル・ペンといった人たちがゲストホストを務めることが公表されている。個人的には上院議員も務めたフランケンに期待していて、あの人すごく頭のいい人だからね。

というわけでアメリカのコメディアンの芸風を比較するという意味ではいろいろ勉強になったのだが、そろそろ恒久的なホストを決定しても良いと思うのです。おそらくゲストたちの中から選ばれることはなく、ロイ・ウッドJr.をはじめとするレギュラー陣から選ばれるのではないかな?

「POKER FACE」鑑賞

「ナイブズ・アウト」「グラス・オニオン」でミステリー映画の雄となった感のあるライアン・ジョンソンが、続いて送る米Peacockのミステリー・シリーズ。

事の発端はとある街のカジノで始まる。そこの上客の部屋を掃除していたメイドが、客のノートPCに非常にいかがわしい画像があるのを見つけ、そのことをカジノのオーナーに報告する。しかし上客が法的トラブルに巻き込まれるのを恐れたオーナーは、逆にカジノの警備長に命じて、メイドとその夫を殺害してしまう。警察も夫婦喧嘩による事件と見なしてろくに調査をしないなか、メイドの友人であったウェイトレスのチャーリー・ケイルは何かがおかしいことを見抜くのだった…というあらすじ。

「ナイブズ・アウト」が真犯人を見つけ出すフーダニット形式だったのに対し、こちらは「刑事コロンボ」に代表される、冒頭から犯人とその犯行が明かされ、そのアリバイをチャーリーが崩していく倒叙ミステリ(英語だと「ハウキャッチエム」と言うんだ?)のスタイルを取っているのが特徴。予告編を見れば分かるが映像の雰囲気とかテロップの色とかがレトロ風味で、「コロンボ」や「私立探偵マグナム」といった往年の刑事ドラマにオマージュが捧げられた内容になっている。主人公が町から町に旅して事件に遭遇するのは「超人ハルク」にも通じるところがあるな。

主人公のチャーリーは、人がウソをついているかどうかを完璧に見抜くことができるという超人的な能力の持ち主で、その能力を発揮して犯人のアリバイを崩していく。いちおう頭脳明晰なんだけど性格はズボラで、トレーラーハウスに住んで朝からビールをグビグビ飲んでいるような女性。言いたい言葉が出てこないシーンが何度もあるのには笑った。その能力を活かしてカジノで荒稼ぎしていたためにブラックリスト入りしてしまい、カジノでウェイトレスとして働くことになったらしい。第1話で事件を解決した代償として追われる身になってしまい、エピソードごとに異なる町に流れ着いて犯罪に遭遇することになるのだが、刑事でも探偵でもないので何の後ろ盾もないまま犯人と対決するのが大きなポイント。

ライアン・ジョンソンはいくつかのエピソードの監督と脚本を担当しており、主人公のチャーリーを演じるのは「ロシアン・ドール」のナターシャ・リオン。倒叙ミステリの売りとして、エピソードごとに豪華なゲストが登場し、ジョンソン作品の常連であるジョセフ・ゴードン=レビットをはじめエイドリアン・ブロディ、ベンジャミン・ブラット、ロン・パールマン、ホン・チョウ、ノック・ノルティ、ティム・ブレイク・ネルソンといった錚々たる役者が登場するみたい。

「グラス・オニオン」同様に批評家からは高い評価をえてまして、第1話をみた限りでは確かに痛快で面白いミステリ作品であった。Peacockの有料プランに入ることも検討するくらいの出来。