「ARCHER」鑑賞

カートゥーン・ネットワークで「FRISKY DINGO」を作ってたスタッフによる、FXネットワークスの新作アニメ番組。

基本的には60年代のスパイ映画のパロディになっていて、主人公のスターリング・アーチャーは秘密諜報組織「アイシス」に務めるエージェント。スパイとして最低限のスキルは持っているものの、ドジで女たらしでヘマばかりやっているエージェントで、組織の金を使って酒ばかり飲んでいるような人物。アイシスの長官である母親にも蛇蝎のごとく嫌われ、同僚ともドタバタばかりやっているアーチャーだが、与えられた任務は奇跡的にもどうにかこなしていく…といった感じの作品。

下ネタ満載のジョークとかシュールな展開はカートゥーン・ネットワークのアダルト・スイムの作品群そのまんまで、なぜそれをFXで放送するのかという疑問は残るが、個人的にはこういうスパイもののパロディは好きなのでそれなりに面白かった。この形式のアニメで20数分という尺は弱冠長く感じられて、アダルト・スイムの多くの作品のように15分程度の方が良いように思われるものの、次から次へとジョークが連発されるおかげで観ていて飽きはしない。声優はジュディ・グリアーやジェシカ・ウォルターなど「アレステッド・ディベロップメント」絡みの役者が務めていて、特に後者はキャラクターのデザインも本人そのまんま。

やはりFXの作品としては異色な気もするが、それなりに面白い作品ですよ。

「The Ricky Gervais Show」鑑賞

HBOの新番組で、リッキー・ジャヴェイス&スティブン・マーチャント&カール・ピルキントンによる大人気ポッドキャストにアニメーションをくっつけたもの。アニメ製作はワイルドブレイン…って久しぶりに聞いた会社だなあ。このために新しいポッドキャストを収録したりはしてなくて、過去のものをまんま流用してるみたい。

俺は彼らのポッドキャスト(およびオーディオブック)のファンなので今までのエピソードはみんな聴いてるのですが、音声だけで彼らがスタジオで愉快に話している姿を想像するのと、こういう映像付きで彼らの話を聞くのってものすごく感触が違うのですよ。これって全てのポッドキャストやラジオ番組に言えることだろうが、音声だけのほうが想像力を掻き立てられるわけで。カールのボケを聞いて爆笑するリッキーの姿なんて音声だけのほうがずっとワイルドに聞こえるんだよな。

まあでも内容は面白いので、彼らのポッドキャストを聴いたことのない人たちにとっては、良い入門編的番組になるんじゃないでしょうか。HBOの番組にしては異様にチープなのでいつまで続くかは分かりませんが。

「PAST LIFE」鑑賞

フォックスでいつの間にか始まっていた新作ドラマ。輪廻転生について扱った本をベースにしたもので、前世の記憶が甦って困っている人たちを、転生に詳しい女性心理学者が助け、前世で彼らの身に何があったのかを解明していくというような内容の作品。

たとえば第1話では十数年前に女の子が誘拐されて殺され、その次の月に誕生した男の子が彼女の生まれ変わりであることが明らかにされて、彼女の殺人犯が逮捕されるわけだが、これが100年前の人の生まれ変わりだったらどうするのかとか、遠い国の人が転生してたらどうよとか、前世の記憶という証拠で逮捕状がとれて、おまけに機動隊まで導入できるのかというツッコミどころが満載。いくらフィクションとはいえ、ここまで信憑性がないと観てて疲れてしまう。俺は「ミディアム」とか「ゴースト」とかって観たことないんだけど、あれらも似たようなものなんですかね。

主人公の心理学者ははっきりいってブス。「フリンジ」もそうだけど、なんでこういうブスを主役にもってくるんだろう。その彼女の相棒を元警官の男性が務めるんだけど、「俺はむかし妻と一緒に海へ行って、彼女に飛び込みを勧めたら首の骨を折って死んでしまった。その時から俺は悲しみを抱えて生きてるんだ」なんて言って人の同情を得ようとしてやんの。バカかお前は。2人の上司を演じるのは「ザ・ホワイトハウス」の名優リチャード・シフだけど、背後でオロオロしてるだけで見せ場はなし。

さらには「ザ・ワイヤー」でデューキーとシドナーを演じた役者がそれぞれ出てくるんだが、どちらもコマ送りしないと顔が分からないくらいのチョイ役。とくに後者に至っては「SWAT#2」なんていう役名でザコ同然の扱い!「ザ・ワイヤー」で強烈な印象を残した役者たちが他のドラマでは脇役以下の扱いを受けるのは今にはじまったことじゃないが、俺は怒るよ!

まあ本国の評判は押し並べて悪いようなので、暖かくなるころには打ち切られているんじゃないですかね。輪廻転生というテーマにどこかのキリスト教団体がクレームつけてきたら面白くなりそうなものだけどさ。

「A SERIOUS MAN」鑑賞

コーエン兄弟の最新作だよ。舞台は1967年のミネアポリス。大学で物理を教えるラリーは物静かなユダヤ系の男性だったが、

・不倫したうえラリーに離婚と立ち退きを迫る妻とその愛人
・職もなくラリーの家に居候をしている兄
・家の土地を侵害している隣人
・試験の結果を上げるよう賄賂をよこす生徒

といった人々によるさまざまな問題に突然として見舞われてしまう。さらに彼の不運は続き、これは彼に対する神のお告げなのかと考えた彼はユダヤ教のラビたちに相談することにするのだが…というようなお話。

ものすごく難解というか、訳の分からない映画だなぁ…。主人公が次から次へと不運に見舞われるのは旧約聖書のヨブをモデルにしているらしいが、他にもシュレディンガーの猫をモチーフにしていることが示唆されていて、「生きているのか、死んでいるのか?」というテーマが底辺にあるみたい。特に冒頭の寓話(?)のところとか。

主人公が不幸な目に遭うとはいえ内容は決して悲劇的なものではなく、真っ黒けっけなコメディ仕立てになってるわけだが、聖書のヨブは最後に幸せを得たのに対し、ラリーの場合は…。これって「世の中の出来事はみんな関係しあっているように見えるけど、そうではなくて全て偶然の産物だよ。自然災害とかも」というオチなの?違う?登場人物とかはコーエン兄弟が子供の頃に知ってた人たちをモデルにしてるらしいが、このどっぷりユダヤ文化に浸かった内容は日本で売るのは難しいんじゃないだろうか。

出演者はラリー役のマイケル・スタールバーグをはじめ、大半が無名の役者で固められていて、俺が知ってたのはファイヴッシュ・フィンケルとアダム・アーキンくらいか。コーエン兄弟の難解な作品といえば「バートン・フィンク」が挙げられるけど、あれよりも演出は地味な感じ。雰囲気は「ファーゴ」あたりに近いかな。俺は使用されている曲などから「ブラッド・シンプル」を連想しましたが。あと部屋の奥に座っているラビの姿は「ディボース・ショウ」のCEOそのまんま。

ちなみにこの映画とはあまり関係ないけど、これだけアメリカの映画とかテレビ番組とか観てても、ユダヤ人の定義というのがいまいち俺には分からないわけで、「ユダヤ教を信仰している」もしくは「母親がユダヤ人」でいいんだっけ?ウィトゲンシュタインの一家みたいにカソリックに改宗したユダヤ人をユダヤ人と呼べるのかとか、あれだけ宗教バッシングをしているビル・マーが「俺は半分ユダヤ人だ」なんて言ってるのを観ると、じゃあユダヤ人って何よ、という気になるのです。こういう曖昧な定義のせいで「世界を牛耳ってるのはユダヤだ!」なんていう陰謀論者の格好のターゲットになってるんだろうか。

ユダヤ人の主人公がひたすらヒドい目に遭う映画ですが、クレジットには「No Jews were harmed in the making of this motion picture.」とありますので皆さんご安心を!

「月に囚われた男」鑑賞

デビッド・ボウイの息子でもあるダンカン・ジョーンズの初監督作となるSFスリラー。

舞台は近未来。地球のエネルギーの70%は、月面で採掘されるヘリウム3によって賄われていた。その採掘を手がけるルナー・インダストリーズ社の月面基地(ちなみに韓国製)にはサム・ベルという職員がたった一人で住み込み、人工知性を備えたロボットのガーティーとともにヘリウム3の回収・送出などを行っていた。彼の任期である3年がもうすこしで経とうとするころ、月面に出ていたサムは作業用車両を大破させる事故を起こしてしまう。気を失ったあとに基地で目覚めるサム。事故の記憶は彼の頭から消えていた。何かを不審に感じたサムはガーティーには秘密で月面の事故現場へと戻るが、そこで彼は驚くべきものを発見してしまう…というのが大まかなプロット。

出演者しているのが殆どサム・ロックウェルだけというのも珍しいが、地球の家族のことを想いながら孤独に働き、やがて自分の運命を悟ることになる主人公を好演している。あとガーティーの声はケヴィン・スペイシー。

重力の描写などは突っ込みたいところもあるものの、すごく正統なSFスリラーになっていて、どことなく70年代のSF映画を彷彿させるところがあるほか、何かを隠しているガーティーとのやり取りは「2001年宇宙の旅」に通じるものがあるな。謎解きの要素はさほど多くないものの(話の展開が途中で何となく読める)、臨場感たっぷりの演出によって観る人を最後まで引きつける内容になっている。クリント・マンセルによる音楽も控え目ながら相変わらずいい感じ。

これが良質のカルト映画として後々まで語り継がれることになるかはまだ分からないけど、続編(のようなもの)の製作も企画されているようなので、こういう真面目なSF映画の人気がもっと出てくることに期待したいです。