「Fargo」鑑賞


コーエン兄弟の「ファーゴ」をベースにしたFXのミニシリーズ。全10話。

冒頭に「この物語は実話を元に作られており…」という嘘っぱちのメッセージが出てくるところや、題名に反してファーゴが舞台でないあたりは劇場版と一緒なのだけど、キャラクターやストーリーは完全にオリジナル。ただし劇場版にそれなりに似せた設定になっており、コーエン兄弟の作品の雰囲気が意外とうまく伝わる出来になっている。

そして舞台はミネソタのベミジという町。レスターはしがない保険のサラリーマンで、仕事場でも家庭でもウダツが上がらず、40歳になっても高校の同級生に今でもイジめられている次第。その同級生と関わって鼻を骨折した彼は、病院でローンという謎の男に会う。自分の鼻を折るような男は殺してしまうべきだと語るローン。彼の不気味な迫力に圧倒されるレスターだったが、次の日にレスターの同級生は刺殺体となって発見される。じつはローンは町に迷い込んできた殺し屋だったのだ。事件を不審に感じた警官のモリーたちは調査を始めるが、レスターとローンのまわりではいろいろ人が死んでいって…というようなストーリー。

劇場版の狂言誘拐というプロットは(今のところ)登場せず、不気味な殺し屋のローンが町に与える影響をブラックに描いたコメディ気味のサスペンスンになっている。第1話から人がどんどん死んでいくさまは、「ノーカントリー」っぽいかな。あらゆる不運を引き寄せるレスターと、奇妙に落ち着いたローンの対比が面白いぞ。控え目ながらも絶妙なタイミングで使われる音楽もいい味を出している。

ローンを演じるのはビリー・ボブ・ソーントン。「ノーカントリー」のシガーのごとく冷徹に人を殺す一方で、不気味な愛嬌を振りまいて周囲を困惑させていくさまを巧みに演じている。これコーエン兄弟の「バーバー」や「バーン・アフター・リーディング」のときよりも似合ってる役じゃないだろうか。そしてレスターを演じるのがマーティン・フリーマンで、いつもと違うミネソタ訛り(?)での演技には違和感を感じるものの、「シャーロック」以上に周囲の出来事に翻弄される姿がね、なんというか可愛いのですよ。他にもコリン・ハンクスやボブ・オデンカーク、キース・キャラダイン、オリバー・プラット、コメディアンのキー&ピールといった強力な出演者たちが脇を固めている。

個人的には「ファーゴ」ってコーエン兄弟の作品の中ではそんなに好きではないのだけど、これは劇場版の設定をうまく換骨奪胎して面白い内容に仕上げていた。残りの9話もこのペースで進んでいくことに期待。

「Metal Hurlant Chronicles」鑑賞


Syfyチャンネルのオリジナルシリーズ…と銘打ってるけどフランスでは2012年に放送されてんのね。

日本でもちょっと前までは洋書屋で売ってた「Heavy Metal」というSFコミックのアンソロジー誌がありまして、その元は「メタル・ユルラン(叫ぶ鉄)」というフランスのバンドデシネ雑誌であるわけですね。「ユルラン」では故メビウスやリチャード・コーベンといったアーティストたちがイマジネーションの限りを尽くした荘厳なSFコミックを描いていたわけだが、それらのストーリーをアンソロジー形式で映像化したのがこのシリーズ。劇中では「メタル・ハーラント」と発音してるけど、アメリカ人の視聴者に分かるのかそんな言葉。しかし「Heavy Metal Chronicles」という名前ではやはり音楽ドキュメンタリーだと誤解されると懸念されたんだろうか。

第1話はリチャード・コーベンがアートを担当したコミックが原作で、死にかけている暴君の王の後任の座を狙って戦う剣闘士たちの物語。中世のようでロボットが飛び交うエキゾチックな世界設定になっているのだが、やはりコーベンの筋骨モリモリな男女が出てくるアートに比べると映像がショボすぎることは否めない。30分という尺なのでサクっと観られるけどバッドな終わりかたをしてまして、毎回こういう展開だと辛いものがあるのではないかと。

なおフランスとベルギーの合作番組ながら出演者のセリフはみんな英語で、ブラック・ダイナマイトことマイケル・ジェイ・ホワイトなんかが出演していた。剣闘のアクションなんかはスローモーションばかり使っててお世辞にも見事なものではないが、彼が素手で戦うところだけはやはり切れのいい動きをしていましたね。後の話ではミシェル・ライアンとかルトガー・ハウアーなんかも出演しているらしい。

フランスで2012年に6話だけ放送されただけらしく、まあ続きは作られないだろうな。「Heavy Metal」の映像化に興味がある人は、こっちよりもアニメ映画版を観ることをお勧めします。

「TURN」鑑賞


AMCの新作シリーズ。

舞台となるのは1776年で、アメリカ独立戦争の初期。イギリス軍はマンハッタンを占拠し、アメリカ軍は荒野に潜伏していた。だが何者かによって情報がイギリス側に漏れていると考えたアメリカ軍は、情報戦の重要性に注目する。そしてニューヨーク州で農業をしていたエイブ・ウッドハルは作物を横流ししようとしていた際にアメリカ軍に目をつけられ、彼らのスパイとなるように命じられる。最初は戦争に巻き込まれることを拒否していたエイブだったが、イギリス軍の横暴さに耐えかね、彼らの情報を探るようになる…という内容。

第1話は1時間ちょっとの長尺なのだが、キャラクター紹介にいろいろ時間を割きすぎていて、肝心のプロットはあまり進んでいないような。スパイ活劇ものになるのか、重厚な時代劇になるのかが見当つかないんだよな。そもそも独立戦争時の時代背景がよく分からなくて、誰がイギリス側で誰がアメリカ側で、当時の勢力がどうなってたのか理解できないのですが、これって一般的なアメリカの視聴者なら知ってることなのかしらん。

なお登場人物はウッドハルを含めて殆どが実在した人物で、カナダでは銅像が立っているような人が卑劣な悪役として描かれてたりするんだがいいのかそれ。ウッドハルたちが設立したカルパー・リングという組織は世界初のスパイ組織と見なされているような集団で、その存在は20世紀になるまで明らかにされなかったのだとか。でもスパイものにありそうなスリル感がどうも欠如してるんだよな。ウッドハルはイギリス側の有力者である父親のうかがってばかりで、妻子がいるのに元彼女に未練があって、彼女にハッパをかけられてやっと諜報活動をするような優柔不断な男だし。

そのウッドハルを演じるのがジェイミー・ベル。彼って「リトル・ダンサー」のときは想像つかなかったくらいに男前の役者に成長したよな。あとは「トーチウッド」のバーン・ゴーマンも出ております。彼にとって初のアメリカのシリーズかな?

AMCの時代劇ということで「Hell On Wheels」に雰囲気は似ている。第1話では今後の方向性がよく分からないのも同じ。あっちは第4シーズンくらいまで続いてるので、こっちも長続きする可能性はあると思うんだが…。

「Narco Cultura」鑑賞


昨年「アクト・オブ・キリング」と並んで高い評価を受けていたドキュメンタリー。

メキシコの麻薬戦争と、メキシコおよびアメリカのヒスパニックのあいだで人気が出ている音楽ムーブメント「ナルココリード(麻薬バラード)」を取り上げたもので、テキサスのエル・パソに隣接しているメキシコのフアレスは麻薬戦争の影響によって殺人の件数が10倍に跳ね上がり、年間3000人近い犠牲者が出るようになってしまっていた。その一方で金と権力を手にした麻薬王たちは若者たちの憧れの的となり、彼らのライフスタイルを賛美した歌が作られ、それが大衆のあいだで人気を博していくことになる。

このドキュメンタリーではフアレス警察で科学捜査を行なうリチ・ソトと、ロサンゼルスでナルココリードの歌手として大成しようとするエドガー・クインテロという2人の男性の日常が交互に描かれている。ソトのほうは毎日のように血なまぐさい殺人事件の現場に呼び出され、麻薬カルテルの報復を避けるために覆面をして捜査をする次第。それでも何人かの同僚は暗殺されており、警察もまたカルテルの金によって汚職がはびこっていることが示唆される(刑務所に銃持った連中が普通に入り込んだりしてるんだぜ)。

一方のクインテロは実在のチンピラを誉め称えるバラードを歌って、そのチンピラから金をもらったりしてるわけだが、この「権力者を褒めてご褒美をもらう」システムって意外なくらいに中世的な音楽ビジネスだよね。しかしナルココリードの人気は実際すごいらしく、クインテロはバンドを結成してそれなりに大きな会場をまわるツアーを行なうことになる。しかしこのナルココリード、音楽のスタイルはアコーディオンを多用したポルカなのでかなり牧歌的に聞こえてしまって、バズーカの模型を抱えて「俺はAK47をぶっ放し〜」とか歌ってる格好と全然合ってない気がするんだが、それでもライブに集まった老若男女の客は歌詞を憶えていて大合唱になったりするのな。なお劇中でソトとクインテロの生活が交差するようなことはないのだが、平和を求めてソトがエル・パソへの移住を望んでいるのに対し、歌のネタをネットで得ているクインテロが「俺もメキシコ行きて〜」と語るのが何とも皮肉であった。

このドキュメンタリーを観るまで、ナルココリード文化についてはまったく知らなかったのだけど、いわゆるアウトローが美化され、銃や麻薬について歌われ、そのスターがVシネ並みの安っぽいアクション映画に出演し、特定のマイノリティから強い支持を受けてるさまは80年代のギャングスタ・ラップの興隆によく似ているような。実際に歌手が襲撃されて殺される事件も起きているようだし。またメキシコではいろいろ放送禁止の扱いを受けているらしい。

特に明確な結末があるわけでもなく、ドキュメンタリーとしては弱冠詰めが甘いような気もしたけど、自分の知らなかった文化について学べるという意味では興味深い作品でした。なおナルココリードで賛美の対象となっている麻薬王のホアキン・グスマンがこないだ逮捕されたらしいが、それってナルココリードにどう影響してくるのかな?いずれ続編が作られることに期待。

デビッド・レターマンの後任にスティーブン・コルベアー


いろんなところで報じられてますが、いやー驚いた。いや確かに彼が候補として挙っていたし、自分もちょっとは期待していたものの、まさか実際そうなるとは思ってなかったので。まあでも地上波ネットワークのレイトショーの司会をレターマンから引き継ぐということは大出世になるわけで、ここは素直に歓迎すべきでしょう。

新しい司会になるのは2016年だし、まだどんな内容になるかも分からないものの、これはつまり「コルベアー・レポー」が2015年で終了することを意味しているので、放送開始から全エピソード観てきた者としてはなんか寂しいなあ。とりあえず「コルベアー・レポー」で演じている「ウルトラ保守」というキャラクターは演じないことを公言しているらしいけど、「素」のコルベアーの司会はどんなものになるんだろう。

あとは「コルベアー・レポー」の後番組がどうなるかですね。インターネット大喜利の番組「@midnight」が昇格するという噂が早くも出ているものの、やはり「デイリーショー」絡みの番組が続いて欲しいわけで、サマンサ・ビーあたりに番組持たせるとか、ジョン・オリバーをHBOから戻させるとか…?あといまの「レイトショー」の製作はレターマンの製作会社ワールドワイド・パンツが製作しているけど、新番組はジョン・スチュワートのバスボーイ社が引き継ぐのかな?

まあとりあえずは終わりの見えてきた「コルベアー・レポー」の残りを楽しむようにします。あと日本のウィキペディアは「コルベア・リポート」という表記を直すように!