「THE MAGICIANS」鑑賞

The Magicians, Season 1
レヴ・グロスマンの小説をもとにした、Syfyチャンネルの新シリーズ。

手品が得意な大学生のクエンティン・コールドウォーターは鬱病のため薬物治療を受けていたが、大学院に行くために受験を受けることにする。しかし彼は友人のステラとともにブレイクビルス大学という謎の大学に入り込んでしまい、二人はそこで奇妙な試験を受けることになる。実はブレイクビルス大学は魔法を教えるための隠された大学であり、魔法使いになれる可能性をもった若者たちを探していたのだった。そしてクエンティンは試験に受かって入学を認められるものの、ステラは落第してしまう。クエンティンは大学に慣れていく一方で、子供の頃からの愛読書「フィロリーとその彼方」の登場人物が実在していることを知り、彼女から恐るべき「獣」の存在を警告される。またステラはブレイクビルスのことを忘れることができず、そのうちに謎めいた人物からの接触を受ける。そして大学の授業中、クエンティンの前に「獣」が現れ…というあらすじ。

あらすじだけ聞くと「大人向けのハリー・ポッター」みたいな印象を受けるが、もっとダークでメランコリックな感じ。ニール・ゲイマンやヴァーティゴ・コミックスの作品に似ているところがあるかな。原作よりも主人公たちの設定が少し年上になってるようだけど、魔法を使った子ども向けの騒ぎなどもなく、もっと若者の屈折を反映した抑えた演出になっているのが逆に新鮮でもある。

第1話の監督は「アナザー・プラネット」のマイク・ケーヒル。主演のジェイソン・ラルフをはじめ出演者は比較的無名の役者が多いかな。

なかなか文章では説明しづらいのだけど、演出や音楽など、さらにクリフハンガーの終わり方も含め、今後の展開にかなり期待が持てそうな内容であった。魔法をテーマにした番組としては、BBCの「ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレル」と並んでここ最近の作品ではベストの出来になるかもしれない。

「The Shannara Chronicles」鑑賞

The Shannara Chronicles, Season 1
MTVの新シリーズで、日本でも邦訳が出ているテリー・ブルックスのファンタジー小説「シャナラの剣」(厳密にはその続編の「シャナラの妖精石」)を映像化したもの。

舞台となるのは核戦争から何千年もたった後の地球で、そこでは人間だけでなくエルフやドワーフ、オークなどの種族が地上を跋扈していた。エルフの王族は聖なる樹を守護する役割を務めており、王の孫娘が女性として初めてその守護係に選ばれたが、聖なる樹の力は弱まっており、それにあわせて闇の王が復活しようとしていた。それと時を同じくしてかつて闇の王と戦ったドルイドが数百年の眠りから目覚め、闇の王を倒すことができるシャナラの一族の末裔であるハーフエルフの若者を探し出すのだが…といったあらすじ。

このように勝気な姫様とか蘇った悪の王とか選ばれし者とか、典型的なファンタジーのキャラクターばかりが登場してお腹いっぱい。原作が82年の作品とはいえ、もうちょっとヒネリを加えても良かったんじゃないの。話の展開もなんかおざなりだし。なお闇の王はまだ力が完全に復活していないため自分の領域を出ることができず、代わりに部下の怪人を主人公たちのもとに送り込むのだが、そこだけちょっと「仮面ライダー」っぽかったです。

クリエーターは「ヤング・スーパーマン」のマイルズ・ミラーとアルフラッド・ガフ…ってあなたたちこないだ「Into The Badlands」も始めたばかりだよね?ショウランナーじゃないからあまり専念する必要はないのかな。役者はあまり知らない人たちばかりだが、「ロード・オブ・ザ・リング」のジョン・リス=デイヴィスが(ドワーフでなく)エルフの王役で出ています。

思うにこれって「ゲーム・オブ・スローンズ」の成功にあやかって作られたのだろうが、あちらは「ゲーム・オブ・おっぱい」とも揶揄されているようにHBOならではの修正なしのおっぱいが見られるわけで、人気の1つにやはりおっぱいがあると思うのですね、それに比べてMTVでは当然おっぱいが映せないので、それが決定的な違いになるのではないかと。イケメンの男女にとんがった耳をつけただけでは不十分でしょ。

あとせっかくニュージーランドで撮影してるのに、エルフの王国や闇の王の領域などはゲーム並のチープなCGでごまかしてるのが勿体ない。「ロード・オブ・ザ・リング」なんてニュージーランドの自然をうまく背景に取り入れていたのにね。

まあ「ロード・オブ・ザ・リング」や「ゲーム・オブ・スローンズ」を差し置いてまで観るほどの作品では無いかと。

「ブリッジ・オブ・スパイ」鑑賞

Bridge_Of_Spies_2015
ううむ、地味な題材とパッとしない予告編のおかげであまり期待せずに観たのだが、かなり面白かった。

伝記映画の常として脚色がいろいろ入っていて、例えば主人公のジェームズ・ドノヴァンはごく普通の保険弁護士というよりも実はOSS出身で諜報活動には詳しかったらしいが、そういうことを差し引いても、国のまっとうなサポートを受けられないまま外国で孤軍奮闘する彼の描写が見事であったよ。

前半は法廷でのシーンが多いので「リンカーン」や「アミスタッド」を彷彿とさせて、それはそれで悪くはないものの、やはり後半になって主人公がベルリンに乗り込み、CIAの忠告もあまり聞かず、数に劣る人質交渉をやりくりするさまが面白かったよ。ここらへんはコーエン兄弟の脚本の手直しによるものなのかな。

キャストはトム・ハンクスが相変わらず「良い人」っぷりを発揮して好演。ソ連のスパイを演じたマーク・ライランスという役者のことは知らなかったけど、抑え気味の演技が見事。ただし今回の役はメークの関係か「老けたダニー・ボイル」にしか見えなかったのは俺だけ?あとはアラン・アルダやジェシー・プレモンズ、ドメニック・ロンバードッジなども出てます。エイミー・ライアンはクレジット見るまで彼女だとは気づかなかったぞ。

音楽も今回はじめてスピルバーグと組んだトーマス・ニューマンのものが抑えつつも効果的に使われていて素晴らしい。一方ではヤヌス・カミンスキーの色あせた撮影スタイルが個人的にはどうも好きになれんのよな…スピルバーグはそろそろ他の撮影監督を使ってもいいだろうに。

政治的な内容を扱っているだけに、説教的というかプロパガンダ的な要素がそれなりに含まれているのだけど、アメリカの寛容さを見せつけるためにソ連のスパイにもちゃんと法廷の裁きを与える、という大義がだんだんと薄れていき、それと反比例して主人公がどんどん奮闘していくさまも良かったな。ここらへんは現代社会においてもいろいろ学ぶことがあるんじゃないかと。

「ボーダーライン」鑑賞

Sicario
原題はメキシコで暗殺者を意味する「Sicario」。4月に日本公開ということで感想を簡潔に:

・FBIの女性エージェントがメキシコ国境を舞台にした麻薬戦争の対処に志願するが、その闇に巻き込まれていくというあらすじ。

・エミリー・ブラント演じるエージェントは当初こそ敏腕であることが強調されるものの、国防省のエージェントからはろくな情報を与えられず、法律的にグレー(というかブラック)な範囲で行われる活動を目の当たりにして、肉体的にも精神的にも追い詰められていく。

・これって女性(および彼女の相棒の黒人)は無能だよ、と言っているわけでは当然なく、要するに麻薬戦争の複雑さを強調するための役回りになっているわけだが、まあ少しモヤモヤとした気分が残ることは否めない。特に国防省のスタッフ(ジョッシュ・ブローリン)とそのエージェント(ベネチオ・デル・トロ)がすべてを把握している立場なので主人公の弱さが目立ってしまうんだよな。ここらへんの女性の扱いは「マッド・マックス」と対比すると面白いかもしれない。

・つうかデル・トロのキャラクターが強すぎて、彼が実質的な主人公になっているような。彼を主役にした続編の話があがってるんだって?

・前半に出てくるジェフリー・ドノヴァン演じるエージェントも飄々としてるようでいざというときには活躍し、いい感じ。ただヒゲを生やしてるし顔があまり出てこないのでドノヴァンだとは最初気づかなかったよ。

・国境をめぐるサスペンスの描写も見事。常にどこかからか狙われている雰囲気があるというか。とはいえアメリカ側が装備などで圧倒的に勝っているため、緊張感が少し薄れているんだけどね。「ブレイキング・バッド」みたいな、圧倒的な弱者からの視点はなし。

・ロジャー・ディーキンスによる撮影は、相変わらず夕暮れと夜の光景が大変素晴らしい。空に浮かぶ雲の形さえも味方につけてしまっているような。今回は赤外線スコープヨハン・ヨハンソンによる音楽も効果的。

・しかし劇中のメキシカンは復讐の理由や脅しの文句がみんな「おめーは俺の子供を殺した」と「いう事を聞かないとおめーの子供を殺すぞ」なのだが、悪事に手を染めるなら妻子と縁を切っておけよ!

・女性主人公の扱いにはちょっと引っかかるものがあったものの、非常に緊迫したサスペンスであった。ドゥニ・ヴィルヌーヴはサスペンス映画が巧いことはもはや確立された事実だと思うが、はたして次作のブレードランナー続編で、どのようなSF映画を見せてくれるのか…?

「BILLIONS」鑑賞

Paul-Giamatti-and-Damian-Lewis-
SHOWTIMEの新シリーズ。

ニューヨークで検察官を務めるチャック・ローズは金融業界のインサイダー汚職を調べているうちに、ヘッジファンドの大物であるボビー・アクセルロッドに疑いを抱くようになる。しかし彼を告発するだけの十分な証拠を得る事ができず、まず彼が世間の反感を買うように海辺の大邸宅を購入するように仕向けた。そしてアクセルロッドもそれがローズの策略だと気付きながらも邸宅を購入し、二人の対決の火蓋は切って落とされるのだった…といった話。

意外と第1話では話が進まないのだが、要するに金融業界を舞台にした検察と大富豪の駆け引きの物語。大富豪のアクセルロッドが一方的な悪者というわけではなく、怪しそうな取引をしてる一方で部下をきちんともてなす切れ者として描かれている。911テロで会社の他の重役が亡くなったことで今の地位を確保したような説明がされているが、それが彼の計算によるものなのかは不明。対するローズは敏腕な検察官であるものの変なSM趣味を持ってるし、妻がアクセルロッドの部下だという点が彼の立場を不安定なものにしている。要するに両者における善悪の基準は曖昧なものであるという内容になるらしいが、つまり悪い金持ちへの勧善懲悪な展開を期待してはいけないということかな。

ローズを演じるのがポール・ジアマッティで、アクセルロッドを演じるのがダミアン・ルイス。さすがにこのレベルの役者ふたりの駆け引きは見応えがある(特にジアマッティ)のだけど、果たして二人の対決だけでずっと話を持たせることができるのかちょっと不安ではある。ミニシリーズとかにしたほうが良かったのでは?あとはマリン・アッカーマンがアクセルロッドの妻を演じてるほか、ジェリー・オコンネルがチョイ役で出てたりします。

金融業界を舞台にした、やたら四文字言葉が連発される番組、という点では同局の「HOUSE OF LIES」を連想させるのだが、つまり日本で放送される可能性は低いということかな…?いい役者が出ているので、今後の展開に期待。