「CLASS」鑑賞

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BBCの新シリーズで「ドクター・フー」のスピンオフ作品。これキャラクター紹介がまんまネタバレになるので以下は注意。

舞台となるのは「ドクター・フー」でクララが勤めていたコール・ヒル高校で、あの番組にも登場した先生たちがちらほら出ています。つうかコール・ヒル高校って1963年の「ドクター・フー」の第1話にも登場したという、由緒(?)正しい学校なんですね。そこに時空の切れ目が生じたことで、奇妙で恐ろしい存在がいろいろ学校に出現することになり、そこの生徒であるエイプリルたちは学校を守ろうとするのだった…というようなあらすじ。
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話の主人公となるのは4人の生徒と一人の教師で、上の写真の左から説明すると:

・タニヤ:厳格なナイジェリア人の母を持つ女生徒。頭脳明晰なため飛び級で年長のクラスに属している。
・チャーリー:一見は内気なゲイの青年だが、正体は他の星に存在していた文明の王子。反乱軍と戦っているあいだに「影の眷族」に星の住民を皆殺しにされ、ドクターに救われてミス・クイルとともに地球に逃げてきた。
・エイプリル:明るい性格だが友達のいない孤独な女生徒。心臓に特徴あり。母親は事故により車椅子に乗っている。
・ラム:スポーツマンでモテ男だが繊細な面もあり。「影の眷族」に襲われ重傷を負うが…。
・ミス・クイル:口の悪い科学教師。実はチャーリーの王国に反旗を翻したレジスタンスのリーダーであったが、捕獲されて脳に蟲を入れられ(!)、チャーリーの護衛をするよう精神的な束縛がされている。またこの影響で一切の武器を使う事ができない。

とまあ、みんな特徴的な面々が揃ってます。チャーリーのボーイフレンドも彼の正体を知ってるような描写があるのだが、準レギュラー的な扱いなのかな。生徒たちが肉体的にも精神的にもトラウマを抱えていて、セクシャリティとか家庭環境についても悶々としたものを抱いていることが丁寧に描かれているかな。その一方で悪態をつきまくるミス・クイルは悩みなんぞなくて、武器が使えないのに細腕でケンカを売ろうとするあたりがサイコー!みんなキャラが立っていて面白いですよ。あとは学園ものにしては比較的珍しく、生徒たちと親とのやりとりにもしっかり時間が割かれていた。

年末まで「ドクター・フー」の全権を握っているスティーブン・モファットは裏方に徹し、原案と脚本はパトリック・ネスが担当している。彼のことは知らなかったけど、邦訳も出ているヤングアダルトSFの作家なんですね。なんかちょっと暗いSFを書く人らしく、この番組の雰囲気に合っているかも。

学園を舞台にした「ドクター・フー」のスピンオフといえば「サラ・ジェーン・アドベンチャー」があったけど、あれよりかは明らかに大人向けで、セックスのない「トーチウッド」といったところか。ゴア描写もそれなりにあって、ラムが毎度血しぶきを浴びるのはランニング・ジョークを狙ってるんだろうか。そして1話あたり4〜5人の犠牲者が出ているのだが、そんな危険な学校はすぐさま閉鎖されてるだろ!

あと第1話はドクター出てきますよドクター。話が生徒たちからの視点になっているため、「なんかヤバそうなオッサン」という扱いになっているのがなかなか新鮮であった。

ティーンが抱える特有の繊細さと不安が、学校の不気味さとうまくマッチしていい暗さを醸し出している作品。逆にCGのクリーチャーが出てくるとちょっとショボくてガッカリするので、クリーチャー出さずに雰囲気だけで勝負したほうが面白いかもしれない。何にせよ今後の展開に期待。

「スター・トレック BEYOND」鑑賞

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公開したばかりなので感想をざっと。いちおうネタバレ注意。

・前作は例によってJJエイブラムスの余計な旧シリーズへのオマージュがあって「これ前にも観たよね?」的な感が拭えなかったが、今回は完全にオリジナルなストーリーなので飽きずに楽しむ事ができましたよ。ラストは結局また艦を降りて肉弾戦になるあたり、またかよ!という感じではありましたが。

・つうか予告編でもわかる通りエンタープライズ号は初っ端から大破してクルーは惑星上に不時着するわけで、宇宙船同士のバトルのようなものは殆どなし。敵の集団は「ギャラクティカ」みたいな無人ドローンだと思ってたけど、あれみんな有人なのか?あれだけ大勢のクルーが不毛な惑星で暮らしてたのか?宇宙船が出てこない一方で地上のアクションは多くて、バイクがしっかり出てくるあたりジャスティン・リンの作品だなあと。

・脚本はサイモン・ペッグが共同執筆していて、まあ基本的には悪くないかと。地上に着いたクルーがいくつかのグループに分かれるあたり、個人的に最高作の「スター・トレックIV」を彷彿とさせてくれましたよ。その一方でジェイラの存在がエクス・マキナすぎるだろうとか、悪役の計画がなんかまわりくどいとか、いろいろツッコミどころが多いのも否めない。

・アクション重視にしたため大味な内容になってしまったものの、クルーがいい感じで年取ってきたので、自分が知ってる旧シリーズの家族っぽい雰囲気になってきたのは良かったな。スポックの写真とかね、やっぱあれ出されるとホロっとくるのですよ。残念ながらアントン・イェルチンが亡くなってしまったし、出演者が契約を更新したとかしてないだのと報じられてフランチャイズとしては息切れしている印象が出てきたものの、やっとエイブラムスから監督が交代したわけだし、いちおう製作が決まってる第四作だけでなくもうちょっと作れば、かなりこなれた作品が出来てくるんじゃないでしょうか。

・しかしアダム・ヤウクの「ビースティ・ボーイズの曲を商業目的に使うな」という遺言はやはり法的拘束力はないんだろうか。まあ残るメンバーが明らかに利用許可出してるわけだが。

機内で観た映画2016(後半)

またヨーロッパへ出張に行っていたので、飛行機のなかで観た映画の感想をざっと:

・「ズートピア」:周囲で絶賛されてるほどの出来だとは思わなかったけど(田舎に帰るあたりで話がダレる)、差別と偏見というテーマを巧みにストーリーに盛り込んだのはやはり見事ですね。それにしても「ここは歌を歌えばすべてが解決するような世界じゃないんだぞ。諦めろ(let it go)」は画期的なセリフだった。こういう自社作品のパロディーってあまりディズニーで見たことなかったんで。

・「ファインディング・ドリー」:「ズートピア」には劣るけどこっちも良かったですよ。前作ではコメディリリーフだったドリーの記憶障害をきちんと掘り下げ、さらに7本足のタコや近眼のジンベイザメ(ジンベイザメって歌うっけ?)といった障害持ちもわんさか出てきて、これも寛容性をテーマにした巧みなストーリーになっている。その一方で明確にキチガイの鳥やアザラシは笑いの対象になっていて、まあどこで線を引けばいいのかは難しいところである。最後のカーチェイスはちょっとやりすぎかと。

・「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」:手品のトリックなんてものはなくCG映像で、主人公たちがピンチに陥らずに終始上手をとっているという卑怯なスタイルは前作で理解しているので、前作よりは憤らずに楽しめました。でもやはり最後の展開とかはズルいんじゃないの。これだけのキャストを揃えてこの程度なのは勿体無い。

・「アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅」:前作もそんなに面白く無かったけど、こちらはもうコテコテのCGだらけでお腹いっぱい。役者はみんな前作から年を取ってるのに、彼らの若いころを描いてどうすんだよ。原作と違って「ワンダー」の要素が欠けてるのでは。

あとは「シン・ゴジラ」をちょっと見返しましたが、やはりあのセリフ回しが受け入れられなかったな。あとは「インターステラー」のブラックホール突入のシーンとかをね、繰り返し見ておりました。

「Doomed: The Untold Story of Roger Corman’s the Fantastic Four」鑑賞

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劇場公開どころかビデオ発売もされておらず、流出した低画質の海賊版しか出回っていないのに根強い人気を誇る、ロジャー・コーマン製作の「ファンタスティック・フォー」(1994)の裏側に迫るドキュメンタリー。この映画の詳しい感想については以前に述べたのでこちらを参照してください。

1992年の9月頃にドイツのニュー・コンスタンティン・フィルムのプロデューサーからコーマンに「ファンタスティック・フォー」の劇場版を100万ドルの低予算で製作する話が持ち掛けられ、コーマンがコストを折半する形で製作に合意したことから話は始まる。どうもトロマ(!)のロイド・カウフマンのところにも話が持ち掛けられていたことをカウフマン本人が明かしているのだが、さすがにFFという有名フランチャイズを低予算で映画化はできないということで手を引いていたらしい。

年末までに撮影をしなければならないということで急ピッチで製作が進められ、脚本が書かれてキャスティングが行われていく。このときオーディションを受けた俳優のなかにはマーク・ラファロもいたらしくて、これに起用されてたらのちにハルクを演じることは無かっただろうなあ。スタッフのなかにはスタン・リーとジャック・カービーのコミックを読んで育った人たちもいて、低予算ながら彼らのビジョンを映画化しようと頑張っていたのが涙ぐましい。なお映画のオリジナルキャラクターである「ジュエラー」って、コミックのモールマンの映像化権が微妙だということでモールマンから変更されたキャラだったらしい。やはりそうだったか。

そして取り壊し寸前の安スタジオで撮影が行われ、安っぽいセットに皆が不安を抱きつつも、キャストは熱意を持ってファンタスティック・フォーの面々を演じていく。これ劇中でも言及されていて、今となっては想像もつかないだろうけど、90年代のマーベル映画って大変出来が悪かったんですよ。サリンジャーの息子が主演した「キャプテン・アメリカ」とか、ドルフ・ラングレンの「パニッシャー」とか。よって世間からもろくに期待されないなか、スタッフは苦労して撮影を仕上げるものの、撮影完了のパーティーなどはなし。出来たフィルムをポスプロにまわすわけだが、そこからだんだん雲行きが怪しくなっていく。

映画館では予告編が流されていたらしいが(そうなの?)、本編の公開日の話はスタッフにまったく降りてこず、FFの映画化だからビデオスルーでなくそれなりの館数で劇場公開されるだろうと踏んでいた人たちも不安になり、コーマンなどからもきちんとした説明はされず、やがてどこかの時点でこの映画は公開されないという事実が明らかになり、そして今に至るという結末。

ロジャー・コーマン本人へのインタビューが行なわれているものの、これはなぜ公開されなかったのか、そもそも企画時点で公開するつもりはあったのか、という質問に答えてないので曖昧な点は残る。当初噂されていた「コンスタンティン・フィルムがFFの権利を延長するために映画は作られた」という説も、公開中止が決まってから作られた言い訳ではないかと監督あたりが示唆しており、当時マーベル映画のビジネスを手中にしようとしていたアヴィ・アラッドの関与があったことも仄めかされているのだが、コンスタンティン・フィルムの当時のプロデューサーは他界しており、アヴィ・アラッドやスタン・リーといったマーベル側の人間はこのドキュメンタリーへの協力を一切断っているため、真実が明かされていないのが残念。こないだの2015年版の「ファンタスティック・フォー」の製作クレジットにもコンスタンティン・フィルムが載っているいることから察するに、スーパーマン映画のジョン・ピーターズのような、権利ゴロっぽい立場になってるような気もするが、まあなんとも言えません。

劇中のインタビューは当時のキャストや監督、美術スタッフなどを中心に行われており、製作会社の上層部が何を考えているのか分からないまま、頑張っていい映画を作ろうとしていた熱意が今になってもひしひしと伝わってくる。当時の映画雑誌とかおれ読んでましたけどね、この映画への期待って結構強かったんですよ。コミコンでも話題になってたし、キャストも(自腹で?)コンベンションをまわってファンに律儀に対応していたらしい。

なおドキュメンタリー自体としては、インタビュー映像が粗かったり、録音の質が悪かったりとクオリティが低いのが残念。低予算映画のドキュメンタリーだからって作りも低予算にする必要はなかったんじゃないの。とはいえ公開されなかった映画がここまでカルト的人気を保ち、ドキュメンタリーまで作られてしまうのは特筆すべきことかと。売れない俳優(失礼)たちが自分たちの仕事に誇りを持って、子供たちに「お父さんはドクター・ドゥームを演じたんだぞ」と教えているところなんかは感動しました。この1994年版の「ファンタスティック・フォー」、著作権的にかなり面倒なことになってるのだろうけど、スタッフが熱望しているように高画質できちんと世の中に出す価値はある作品じゃないだろうか。

「HIDDEN」鑑賞

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「ヒドゥン」ではないよ。今をときめく「ストレンジャー・シングス」(俺は未見)のザ・ダファー・ブラザーズによるサスペンス。

舞台は何らかの出来事によって壊滅的な被害を受けた町。被害を受ける前に地下シェルターに逃げ込んだ少女ゾーイとその両親は、地上にいる「何者か」から隠れ、身を潜めて300日が経とうとしていた。しかしシェルターで事故があったことから、彼女たちの存在が「何者か」に明らかになってしまい…というあらすじ。

貧者の「10 クローバーフィールド・レーン」、と言ったら失礼でしょうか。でもプロットはよく似てるな。あちらはシェルターの中の人間たちが疑心暗鬼になるサスペンスが話の中心だったけど、こちらは家族が団結してるので一家の黙々としたサバイバルが話の要になっている。そのせいか話の展開が遅くて、ネズミ退治にも時間をかけている次第。画面もやたら暗くて、「レーン」に比べると地味な印象は否めない。

ゾーイたちがシェルターに入るまでの出来事はフラッシュバックで徐々に語られていって、終盤に意外な事実が明かされるのだが、そういう意味では主人公たちは「信用できない語り手」になるのかな。それなりに面白い展開だったと思うけど、見る人によって評価が分かれるかもしれない。

一家の父親と母親とゾーイを演じるのは、それぞれアレクサンダー・スカルスガルドとアンドレア・ライズボローとエミリー・アリン・リンド。基本的にこの3人しか登場しません。

ストーリーの発想とかは悪くないと思うものの、90分弱の時間ながらも冗長に感じられるので、もうちょっとヒネリを加えても良かったんじゃないだろうか。「トワイライト・ゾーン」のような1時間ドラマのプロットだったらちょうど良かったのかも。とはいえ悪い映画ではないので、レンタルとかで観るにはいいんじゃないでしょうか。