「OVERLORD」鑑賞


アメリカでこないだ公開されたばかりの作品だけどな、昔のツテを使って合法的に観てしまったのだよ。ふはははは。

舞台となるのは1944年、オーバーロード作戦ことノルマンディー上陸のとき。ボイス二等兵たちは敵陣にパラシュートで降下して古い教会の上にある無線施設を破壊する任務を帯びていたが、乗っていた飛行機が被弾したことで予定よりも前の地点に落下。そこで彼らはフランス人の女性に出会い、彼女の家に隠れることになる。そして外に偵察に出たボイスはそのまま混乱に紛れて教会のなかに入り込むが、そこで彼が目にしたのはおぞましき人体実験がされている設備だった…というあらすじ。

ボイスは黒人兵士という設定だが、ご存知のように第二次大戦中は黒人と白人が一緒の部隊なぞ存在しなかったわけで、歴史考証などは全く関係ない作品です。というか内容はものすごく単純で、

ゾンビ!ナチス!ゾンビ!ナチス!

というもの。要するにゾンビを操るナチスと戦う連合軍のお話で、昔だったらウーヴェ・ボルあたりがとびつきそうな題材だが、こちらはJJ・エイブラムスのバッド・ロボット製作ということもあり爆発シーンなどはそれなりに予算のかかったものになっている。ストーリーはものすごくシンプルだけど。

なお劇中のゾンビはいわゆる屍体喰らいではなくて、教会の地下で発見された謎の液体を使った人体実験を重ねて開発されたもので、死んだ人間を生き返らせることができるものの、怪力になって凶暴化するという代物。生物兵器として使うつもりらしいが、命令をろくに聞けないのだから使い物にならんだろうなあ。

話の前半は例によって主人公たちが不気味な環境に置かれるさまが描かれるのだが、こちらはナチスゾンビが早く見たいわけで、展開がまどろっこしいといえばまどろっこしい。なんか話のテンポが悪いのよな。後半になってからはお待ちかね、ナチスやゾンビたちとの格闘が始まるので見ごたえはあるかな。これ何かのゲームで見たよね?というシーンも出てくるけど。あと連合軍が5人くらいしかいないのに、数で圧倒しているナチスがやけに弱いのはご愛嬌。

主人公のボイスを演じるジョヴァン・アデポって、「FENCES」で一家の息子を演じてた人か。ナイーブな彼に対して無骨な部隊長を演じるのがワイアット・ラッセルで、あとはピルウ・アスベックとかボキーム・ウッドバインなどが出ています。監督のジュリウス・エイヴリーって今度は「フラッシュ・ゴードン」のリメイクを撮るみたい?

まあ完全にB級映画のノリの作品なのだが、こういうのが好きな人たちにはいいんじゃないですか。観た後に何か心に残るかと聞かれると微妙なところだけど。

「THEY SHALL NOT GROW OLD」鑑賞


第一次世界大戦の終結100周年を記念して作られた、ピーター・ジャクソンによるドキュメンタリー。先日イギリスで限定公開されたのだが、今週だけBBCでも配信されていた。

戦争資料館の膨大な量の映像フィルムと出征した兵士たちのインタビューを組み合わせ、戦争の始まりから終わりまでが経験者たちによって1つのナラティブとして語られる構成になっていて、特筆すべきはモノクロの映像が丹念に人工着色され、当時の雰囲気が鮮明に分かるようになっていること。後述するように音声も加えられていることから、ジャクソンはこれを純粋なドキュメンタリーとは見なしていないようだけど、兵士たちがどのような環境で戦争を過ごしたのかがよく分かる内容になっていた。

1914年にイギリスがドイツに宣戦布告したことで両国の戦争が始まるものの、イギリスの若者たちは戦争がどういうものなのかきちんと理解しないまま、同胞意識を持って(若干同調圧力もあったようだけど)次々と入隊を志願していく。みんなイギリス人のステレオタイプそのまんまに歯並びが悪い若者たちは、15歳や16歳や17歳であっても自分は18歳だとウソをつき、軍もそれを黙認して彼らを受け入れていく。

訓練では士官たちにしごかれ、支給される食事もろくなものではなかったらしいが、「特にいじめはなかった」というコメントが出てくるあたり、日本との違いを実感してしまったよ。ムカついた上官に対しては小便の入った壺をドアに仕掛けておいて、小便まみれにしてやったなんて逸話は日本でやったら死刑ものですぜ。

実際のところ兵士たちは和気あいあいとやっていて、ヒマなときはスポーツやレクリエーションに努め、給料も出たので休みの日はこぞって売春婦のところに行ったとか、機銃掃射の副産物でお湯ができたのでそれでお茶を淹れて飲んだとか、ほのぼのとしたエピソードが語られていく。まあ死なずに生き残った者たちによるプロパガンダ的な内容、ととらえることも出来るのだろうけど、多くが従軍経験を肯定的にとらえていたのが印象的であった。

とはいえそこは戦争なので、戦場に行けば兵士たちは塹壕のなかで立って寝てるし、ちょっとでも頭を出そうものなら敵の狙撃兵に狙われ、周りの泥の中には地雷などで吹き飛んだ手足が埋もれているという有様。死体の映像も当然カラーなのでショッキングなものがあった。地雷だか砲撃だかで地面が半端なく吹き飛ばされる映像もあって圧巻。マスタードガスで目をやられた兵士たちが列になって歩いている姿とかはトラウマものですよ。

塹壕のなかで風呂にも入れず膠着状態が続いていた戦況だが、やがて兵士たちは突撃を命じられて敵陣へ行進していく。味方の砲撃があまりドイツ軍に被害を与えてなくて、敵陣からは容赦なく機銃が浴びせられて兵士たちは次々と倒れていき、さらには自軍の砲撃が上空から降り注ぐなか、兵士たちは死に物狂いで戦っていく。「銃撃を受けて瀕死になっていた仲間を、介錯のために撃ち殺した」と涙ながらに話す元兵士もいる。突撃の様子は映像に記録されておらず、当時の新聞のイラストなどで再現されているが、それでも十分に緊迫感があったな。

こうした兵士たちの活躍によって敵陣は占領され、ドイツ軍の兵士たちは捕虜になるのだが、イギリス人の兵士たちは彼らの勇気を非常に称え、捕虜にしたあとは結構親密に接したりしてるのにまず驚く(ただしプロイセン兵だけは冷酷で、ドイツ兵にも嫌われてたらしい)。これも日本とは違うところだろうなあ。そうしているうちに戦争は11月11日に終戦を迎え、兵士たちは故郷へと帰っていく。帰郷先では従軍経験について理解できない親との断絶があったり、元兵士として就職難に直面したりと、それなりに辛そうな経験をしたことが示唆されるが、全体的には仲間たちと一緒に戦ったことを暖かく振り返るような内容の作品であった。

技術的には冒頭の20分くらい、兵士たちが母国で訓練を受けるあたりまでの映像は正方形のモノクロで、正直退屈ではあるのだけど、戦地に赴いてからの映像はカラライズされたフルスクリーンのものになり、人工着色とはいえやはり色がつくと戦地の環境が鮮明に伝わってくる。これ劇場公開版は3Dでも披露されたらしいが、キャタピラをギラつかせながら走る戦車の映像とかは息を飲むものがありますよ。細いところまでは再現できなかったのか兵士の顔が少しぼんやりしているところもあって、それが逆にどこか幻想的な印象を残すものになっていた。

これ映像があまりにもスムースに動くので、普通のドキュメンタリーを観ている気になってしまうが、フレームレートの異なる元の映像をすべて調整(補完)して24フレームに入れ込み、さらにカラライズしてすべての音をつけるという、かなり手の込んだ作業が4年にわたって行われたらしい。たまに兵士が「Hi Mom!」とか話すシーンがあるのだけど、そこはプロの読心術師(!)を使って何と言っているのか解析したのだとか。

この映画を作るにあたってピーター・ジャクソンは何の収益も貰わなかったらしいが、実際に戦争で戦った祖父のために映画が捧げられているのを見ると、個人的な思い入れがあってこれを作ったんだなということがよく分かる。これ機会があれば見ておくべき作品でしょう。日本でもNHKとかが買えばいいのに。

スタン・リー死去

ついにこの日がやってきてしまった。アメコミを読み始めた頃、英語がろくに分からない子供にとっても、マーベル作品の1ページ目に乗っている「Stan Lee Presents」の言葉は印象的であり、マーベルを統括しているこのスタン・リーって偉い人なんだな、と思ったものです。

90年代になってインターネットで情報が入ってくるようになると、スタン・リーの経歴や功績だけでなく、彼がいかにアーティストを搾取していた山師だったとか、実際にキャラクターを考案したのは彼でなくアーティストたちであったとか、彼のことを否定的に見る意見も目にするようになったと思う(俺もずいぶん感化された)。ただ大学の卒論でアメコミの歴史について書いたとき、やはり1961年のファンタスティック・フォーに始まり、スパイダーマンやアイアンマン、ソーやデアデビルといった人気キャラクターたちを数年のあいだに怒涛のペースで生み出していった労力を改めて実感して畏敬の念を抱いたものだが、その原動力ってやはりスタン・リー自身だったのですね。

アメコミの読者が、実際に動いて話せるコミックスの「顔」としてスポークスマンを欲しており、彼もまたその役に自分が徹するべきことを自覚していたのは、マーベル作品が人気を博してきた際に自分の外見をガラリと変えたことからも分かるだろう。しかし彼は決して狡猾なビジネスマンではなく、00年代にはむしろ周りによってきた山師たちの口車にのせられて数々のビジネスを立ち上げ、ことごとく失敗させた人であった。

これだけ長く生きれば、その功績については評価が分かれるところもあるだろうが、彼はやはりマーベルの顔であり、アメコミの顔であり、数多くのファンをアメコミ(およびアメコミ映画)に惹きつけるのには唯一無二の存在であった。合掌。

エクセルシオール!

「First Reformed」鑑賞


「タクシードライバー」の脚本家として知られるポール・シュレイダーの監督作。

舞台となるのはニューヨーク州にある、建造250周年を迎えようとするファースト・リフォームド教会。その小さな教会で牧師を務めるアーンスト・トラーは、過去の罪悪感や現世への苦悩に苛まれる孤独な生活を送っていた。そんな彼は教会に通う妊娠中の女性メアリーに依頼され、彼女の夫であるマイケルと話をすることになる。環境活動家であるマイケルは悪化していく地球の自然環境に絶望し、この世に子供を産みだすべきか悩んでいたのだ。彼に明快な答えを与えられないアーンストだったが、そのうちにマイケルは自殺してしまう。メアリーを慰めるアーンストだったが、彼もまた大企業からの募金に気を遣う教会の親団体に絶望していた。そしてマイケルの思想に感化されたアーンストは、とある行動に出ようとするのだった…というあらすじ。

テーマ上、キリスト教の教義にまつわる会話とかカウンセリングの会話とかがいろいろ出てきて、さらに主人公の独白も重なって非常にセリフが多い作品になっているところは脚本家の映画だなあと。ただ意外と宗教的な映画ではなくて、むしろ神が作ったというこの俗世間において、人はどう行動を起こすべきか、というのを扱った作品のような気がした。映像のアスペクト比が4:3というのも、主人公のおかれた窮屈な状況をよく表しているかと。

主人公のアーンストは病魔に体が蝕まれているほか、過去にイラク戦争で息子を失い、それがきっかけで妻に去られた人物、だというのが話が進むうちに明かされていく。いちおう仲のいい女性もいるものの、世間における欺瞞に耐えられず彼なりの正義を貫こうとする…という展開はかなり「タクシードライバー」のトラヴィスに通じるものがあった。なお主人公の名前は反戦運動に関わったドイツの劇作家エルンスト・トラーからとられているんだそうな。

主役を演じるのはイーサン・ホーク。あまりアカデミー賞とかには縁のない人だけど、同じ世代のなかではトップレベルの安定した演技力を持っている役者じゃないでしょうか。今回も絶望によって道を踏み外していく主人公を抑え気味に好演している。そして教会の親団体の牧師役はコメディアンのセドリック・ザ・エンターテイナーが演じていて、こちらも演技が大変上手なのでビックリしてしまった。いままでシットコムなどで呑気なオッサンの役しか演じてなかった印象があるけど、シリアスな演技ができる人ではないですか。あと妊婦のメアリー役は、撮影中実際に妊娠中だったというアマンダ・サイフリッドが演じている。

キリスト教的な、なんか難しそうな作品だな…と思いきや、思いつめる主人公に共感を抱いてしまう意外な良作であった。「タクシードライバー」好きな人は観て損しないと思う。

「ヴェノム」鑑賞


いや笑った笑った。凸凹コンビのバディ映画ではないか!

・よく目にする評判としては「最近のマーベル映画に比べて、20年くらい前のテイスト」というものだが、奇しくも20年くらい前(映画の元になった「Venom: Lethal Protector」が出版されたのが93年)ってコミックでもヴェノムの人気が出すぎて、単なるヴィランからアンチヒーローに転換させようとマーベルが苦心していた時期なので、この映画のモンスターをヒーローに仕立て上げようとするノリと重なるものがあり、やけに懐かしい感じがしてしまったよ。

・最初の1時間は展開がタルくて、主人公がヴェノムになることなんてみんな知ってるわけだから、主人公が自分の体の変化に戸惑うあたりはまどろっこしく感じられたが、いざヴェノムが登場すると主人公とのどつき漫才!変に気遣いのきくシンビオートとのかけあいは面白く見させていただきました。「俺は落ちこぼれだった!」とか突然言い出すのですもの。

・異なる性格(?)のふたりが手を組むという典型的なバディものの話だったので、何かに似てるなあ…とずっと思いながら見ていた。ハル・クレメントの「20億の針」よりも、藤子・F・不二雄のSF短編っぽい感じ?

・主役を演じるトム・ハーディはヴェノムの声も担当してるので結果的に一人ボケ&ツッコミを演じていて大奮闘。コミックのエディ・ブロックに体型的にはまあ似てるけど、TVレポーターを演じるには滑舌が悪すぎるような?ヒロインのミシェル・ウィリアムズはこないだ「アイ・フィール・プリティ! 」を観たばかりなので、なんかコメディエンヌになってきたなあ、という印象を受けました。

・アンゼたかし、「Karma is a bitch」を「因果応報」と訳すのは適切だと思うけど、なぜ「カルマイズアビッチ」とかルビを振るんだろう?キーワードかジョークなのかと思ったらそうでもなかったし。

・最近のマーベル映画に比べると確かに見劣りするものの、金曜ロードショーとかでサクッと観るぶんには楽しめる作品なのではないですか。アメリカでも批評家の評判は散々だったものの興行的には大成功してしまったわけで、これにより他のスパイダーマンのスピンオフ映画製作に拍車がかかることになるんだろうか。でもこういう映画のノリって、狙って作れるものではないような気がするのです。