「MRS. DAVIS」鑑賞

こないだの「POKER FACE」など何気に侮れないTVシリーズを出している米PEACOCKの新シリーズで、クリエーターは「LOST」のデイモン・リンデロフと、「ビッグバン・セオリー」のタラ・ヘルナンデス。

舞台は現代、世界は万能のAI「ミセス・デイビス」の助けによって戦争や飢餓から解放され、人々はイアピースでミセス・デイビスの指示を受けることで幸せに暮らしていた。しかし尼僧として修道院で暮らすシモーヌはミセス・デイビスに接続することをひたすら拒んでいたが、ミセス・デイビスは逆にあらゆる手段を用いて彼女にコンタクトしてくる。それによって修道院は閉鎖され、謎のドイツ人集団にも追われることになったシモーヌはミセス・デイビスと対話することを決意。そして彼女はミセス・デイビスが自らを停止することの引き換えに、伝説の「聖杯」を見つけ出すよう命じられるのだった…というあらすじ。

たぶん意味が分からないと思うが、ほんとにこんな内容です。冒頭の15分で14世紀のテンプル騎士団が登場し、そこから2023年に10年ぶりに無人島から救出された科学者が出てきて、ラスベガスで看板に激突した娼婦の首が吹き飛ぶという怒涛の展開が繰り広げられるのだよ。こないだパラマウント+で始まったキーファー・サザーランド主演のサスペンス「RABBIT HOLE」も、主人公の背景説明などがろくにされないままひたすら急展開が続く内容で、観てる時は飽きないもののなんか疲れてくるのよな。

ただこのシリーズはもっとシュールな内容になっていて、AIに対するレジスタンスの物語、というよりもゲラゲラ笑える展開が実は多かったりする。巨大な虫眼鏡で加熱されてトラックの荷台で爆発するジャムの瓶とか、シモーヌを脅すためにダイナマイトを巻き付けられる愛馬とか。デイモン・リンデロフは前作「ウォッチメン」で原作をうまくアレンジしてシュールなギャグを織り込んでいたが、この作品はタラ・ヘルナンデスのインプットの方が大きいのかな?

「RABBIT HOLE」同様に話の設定の説明はろくにされなくて、第1話ではミセス・デイビスがAIだという説明どころか、その名前も言及されない有様。主人公のシモーヌもただの尼僧ではなく、過去に別の名前で何かしらの活動をしていたことや、今も謎のボスの指示を受け、詐欺を働く手品師たちを撲滅していることが示唆されているのだけど、ここらへんは話を追って詳細が明らかになるのでしょう。たぶん。

シモーヌを演じるのは「GLOW」のベティ・ギルピン。第1話では修道院長にマーゴ・マーティンデイルが出てたがこのあとも出てくるかは不明。後のエピソードではデビッド・アークエットなどが登場するみたい。

今後の展開は全知全能のAIに対するレジスタンスの物語になるのか、世界をまたにかけた聖杯探索の話になるのか、全く予想がつかないものの、何か傑作になりそうな予感がする作品。

『Personality Crisis: One Night Only』鑑賞

マーティン・スコセッシ&デヴィッド・テデスキが監督した、ニューヨーク・ドールズ最後のメンバーであるデビッド・ヨハンセンことバスター・ポインデクスターのドキュメンタリー。

ニューヨーク・ドールズのドキュメンタリーといえば、ベースのアーサー・ケインの生涯を扱った大傑作「ニューヨーク・ドール」があるわけですが、あちらがケインの挫折から復活、そして急激な死までを時系列で追っていたのに対し、こちらはもっとルーズな作りになっている。ロックダウン直前の2020年1月、ヨハンセンの誕生日にニューヨークのクラブで行われた彼のライブ(観客にはデボラ・ハリーなどもいるぞ)で歌と与太話が披露され、それに過去のインタビューなどが挿入されていくスタイル。「ニューヨーク・ドール」で撮影されたモリッシーのインタビュー映像なども使われており、このドキュメンタリーのためにどれだけの映像が新たに撮影されたのか(さらに言うとスコセッシがどのくらい関わったのか)はよく分かりません。

NYパンクの始祖としてイギリスのパンクスにも大きな影響を与えたヨハンセンは、80年代に突然イメージチェンジをしてラウンジ・シンガー「バスター・ポインデクスター」を名乗って世間を驚かせるわけだが、日本の音楽雑誌でも当時は「これ、冗談でやってるよね?」という見方が多かったような。そのあとまたヨハンセン名義に戻ってドールズを再結成したりして成功を納めているわけだけど、さすがに年をとってくるとパンク野郎というよりもラウンジ・シンガーとしての姿の方が似合ってくるわけで、じゃあ今回クラブで歌ってるのはヨハンセンなのかポインデクスターなのか、というところが題名の「Personality Crisis」につながってくるんだろうな。披露される曲は(たぶん)ポインデクスター時代の曲が多いけど、最後はきっちりドールズの「Personality Crisis」を歌ってくれます。

ライブに挿入されるインタビューは、スタテン・アイランドで生まれ育った幼少期から、マンハッタンに移ってドールズを結成した話、そのあとザ・ハリー・スミスというバンドを結成したことやバスター・ポインデクスターを名乗ったことなどが語られていくけど、正直なところそんなに奥の深い話が明かされる訳ではない。とはいえ70代になっても声に非常に艶があって歌が素晴らしいのと、曲の合間で語られる思い出話が面白くて、2時間7分という長尺も気にならずに楽しめる内容だった。映画館で上映するよりも、バーで酒でも飲みながら観るのに適した作品。

「デイリーショー」ゲストホスト所感(その2)

前回に続いてゲスト陣が5週続いたので所感を。

6週目:ハッサン・ミンハジ

番組の出身者ですね。Netflixの彼の番組は未見。ちょっと自己主張が強い感じで、予定されてたゲストがドタキャンしたとかで自分の娘を出演させたのは「へ?」と思ったけど娘さんの顔はうまく隠してました。ロニー・チャンとのアジア人同士の掛け合い(上)は秀逸だったほか、ツイッター文化が嫌になったとかで自分のアカウントをカメラの前で削除したのは面白かった。日々の司会というよりもイベント向けのタイプ?

7週目:マーロン・ウェイアンズ

ウェイアンズ一家の彼。政治的に深いコメントとか殆どできなくて、話すことは自分の出演作についてとかで、ゲストも友人の役者ばかりだったような。ゲスト司会のなかでいちばん無味乾燥な人だった。「レクイエム・フォー・ドリーム」の演技とか好きだったのになぁ。

8週目:カル・ペン

オバマ政権で働くために役者業を一時期中断していたくらいの人なので、政治的なツッコミとかも的確に行えていた。自分のコネを生かしてかバイデン大統領にインタビューしたほか、パキスタンの外相へのロングインタビューもきっちりこなしてて偉い。考えてることの説明を聞くとバイデンってやはり頭良いよなと思う。「デイリーショー」でなくても、何か政治的な番組の司会やればうまくいくんじゃないの。

9週目:アル・フランケン

元SNLのライターだが上院議員も務めた大ベテランなので貫禄はある。共和党のリンゼー・グラハムを招き、腹を割って話させることができるのはこの人くらいだろう。その一方で70歳を超えた高齢なので体力的なキレがないかな。以前にどうでもいいスキャンダルで辞職したけど、また立候補して政治家やってください。

10週目:ジョン・レグイザモ

日本でも名の知られた俳優ですな。ノリもいいし政治的なコメントも無難にこなせる一方で、トランプ起訴や学校での銃撃事件といった大きなニュースには十分深く切り込めてなかったかも。あとは自分のルーツを押し出したヒスパニックのネタが多くてお腹いっぱい。

というわけでカル・ペンとフランケンが良くて次にミンハジとレグイザモ、ウェイアンズはダメダメといった印象。女性ホストが多かった前回より良かったかな…と思ってしまうのは自分の偏見でしょうか。

次回からはロイ・ウッドJr.たちレギュラー出演者が順に司会をやっていくそうで、最終的には筆頭候補のウッドJr.が4代目司会者に選ばれる流れになるのかなあ?でもこのゲスト司会の施策のおかげで視聴率がトレバー・ノアの頃のものを上回ったそうなので、このあともしばらくは司会者が決まらずにゲストで回していくことになるかもしれない。