「THE SLAP」鑑賞

The SlapNBCのミニシリーズ。小説が原作のオーストラリアの番組のリメークだそうな。

ニューヨークの公務員であるヘクターは40歳の誕生日を迎えたが、期待していた昇進を逃し、知り合いの若い女の子(誕生日プレゼントにクリス・ウェアの「Building Stories」をくれるという偉い子)に心を奪われ、どうも憂鬱な一日を過ごしていた。しかし彼の妻子や両親、友人たちがパーティーを開いてくれたために愛想良く振る舞っていたものの、彼の両親と妻の仲が不穏になったり、親戚のハリーと友人のギャリーがケンカしたりとパーティーは波乱含み。しまいにはワガママなギャリーの息子をハリーがひっぱたいたために、そこにいた人たちの関係が一気に最悪なものになり…というプロット。

ハウスパーティーが舞台の群像劇という第1話の展開はインディペンデント映画っぽい作りだな、と思ったら監督が「キッズ・オールライト」のリサ・チョロデンコだった。出演者もピーター・サースガードにブライアン・コックス、ユマ・サーマン、タンディ・ニュートン、ザッカリー・クイントなどとインディペンデント映画に出てそうな俳優が勢揃いしている。

他人の子供を叱る(ひっぱたく)のは許されることなのか?という議論は最近よくアメリカのトークショーなどで耳にするのだけど、まあ時と場合によるよなあ。すぐ親が訴訟を口にしたりするのはアメリカっぽいと思いましたが、これ日本では受け止められ方がえらく違ってくるかもしれない。

他局のミニシリーズ(最近はイベントシリーズと呼ぶらしいね)がSFやアクションに頼っているなか、このような一般家庭を舞台にしたドラマを持ってきた理由は何だろう?とはいえ話の内容は決して悪くはないし、第1話だけでも短編映画を観ているようで面白かった。

「Nightcrawler」鑑賞

Nightcrawler
硫黄の臭いをまき散らしながらテレポートするXメンの話…などでは当然なく、ロサンゼルスが舞台のサスペンス。

鉄線の泥棒をしていたルイスは、ハイウェイでの交通事故を撮影して映像をニュース局に売りさばくカメラマンを見かけたことから、自分もその仕事を始めようとカメラを購入する。交通案内役として高校を出たばかりのリックを雇って警察無線を傍受し、事故現場に急行するルイス。最初はライバル業者に出し抜かれてばかりだったが、やがて撮影した映像が売れてローカル局のプロデューサーであるニナとコネをもつようになる。警察の警告を無視し、必用とあれば事故現場の証拠の捏造も厭わないルイスの映像はやがて高く売れるようになるが、より刺激的な映像を求める彼の行動はさらにエスカレートしていき…というストーリー。

いわゆる「カメラが捉えた決定的瞬間!」的な映像を求める世間とニュース局を風刺した内容になっていて、映像はショッキングなものが好まれ、特に「郊外の白人家庭を脅かす都市型犯罪」というアングルが良いということが劇中でも語られる。視聴率で苦戦している局にいるニナは脱法すれすれのところでルイスの映像をセンセーショナルに流すのだが、アメリカって国が広いせいかローカル局のニュース番組がかなり人気あるんだよな。

主人公のルイスはモラルが完全に欠如した人物(ほぼサイコパス)で、感情を爆発させる瞬間もあるものの、大抵は瞬きせずに自分の目標を淡々と語るような人物。仲間を脅すことも厭わず、ライバル業者を危機に陥れることも平然とやってのける。良いネタになると判断すれば映像の加工も行なうし、人助けをせず警察にウソをついていく。そんな彼のヤバさを承知しながらも、売れる映像欲しさに彼と手を組むニュース局を描くことで現代社会の批判をしているわけだが、結構突き放した視点で物語が語られていくので、あまり風刺という印象は受けないかも(かといってベタな内容にしてたらもっと凡庸になってたろうが)。

ルイスを演じるジェイク・ギレンホールは役作りのために10キロくらい減量したという徹底ぶりで、見事な怪演を見せつけている。そんな彼と手を組むニナをレネ・ルッソが演じていて、彼女って監督の奥さんなのか。いちおうヒロイン的な役割でもあるのだが、うーむ。あとはライバルのカメラマンにビル・パクストンとか、リック役に『FOUR LIONS』のリズ・アーメッドが出演している。

監督のダン・ギルロイは脚本家出身でこれが初監督作で、全体的にちょっと詰めの甘さが感じられるかな。あと15分くらいは短くても良かったと思う。あと海外のレビューを読んでてなるほどと思ったのが、今や事故現場などにはスマホもった素人がハエのように押しかけ、自らYouTubeなどにアップしてしまう世界なわけで、放送局と(いちおう)プロのカメラマンしか出てこないこの映画はすでに時代遅れになっているのかもしれない。

でもギレンホールの演技は凄かったし、一見の価値はある映画かと。例によって日本での公開が未定なのが残念。

「BETTER CALL SAUL」鑑賞

Better Call Saul, Season 1
おととし終了した「ブレイキング・バッド」のスピンオフ作品なのだよ。

主人公は「BB」のイカサマ弁護士ことソウル・グッドマンことジミー・マギルで、彼が「ソウル・グッドマン」と名乗って事務所を開く6年くらい前の出来事を描いたプリクエル作品になっている。ただし冒頭では「BB」最終回のあとの彼も登場するし、「BB」の途中およびその後の彼の姿も描かれることになるみたい。

舞台は2002年のアルバカーキ。さえない弁護士のジミー・マギルは裁判に勝てず、顧客にも逃げられ、ろくな事務所も持てずに最低な日々を過ごしていた。彼の兄のチャックは大手弁護士事務所のパートナーだったが、自分が「電波過敏症」だと思い込み電子機器のない家で長期休職中という始末。ジミーは兄に退職および会社の資産の清算を進めるものの聞いてもらえず、金欲しさに当たり屋の男たちと組んで小金を得ようとするものの、物事はあらぬ方向に進んでしまい…というプロット。

弁護士が主人公だけど法廷ドラマにはならず、「BB」同様にメキシカン・マフィアとやり取りする犯罪ドラマになるのかな?ただし「BB」は主人公が怒りにまかせて底辺からのし上がっていく内容だったのに対し、こちらの主人公はトリックスター的なタイプなので、「BB」よりもブラックなコメディの要素が強いかもしれない。

主人公のジミーを演じるのは当然ながらボブ・オデンカーク。「ネブラスカ」や「ファーゴ」を経て、さらに演技が巧くなっているな。あとは「BB」のマイクことジョナサン・バンクスが出演しているほか、「BB」の他の出演者もちらほら出てくるみたい。新しいキャラクターとしては兄のチャックをマイケル・マッキーンが演じている。

放送前からシーズン2の製作が決定し、初回の視聴率も記録的な数字を稼いだらしいですが、まあ「BB」の大変素晴らしかった第1話と比べるとクオリティは落ちるわな。しかし演技や演出は手堅いし、「BB」と比べなければ十分に楽しめる番組じゃないでしょうか。プリクエルとはいえ話が自在に発展できる余地は多分にあると思うので、「BB」に肩を並べられる作品になることに期待。

「JOHN WICK」鑑賞

John Wick
前もそうだったけど、キアヌの映画はあらすじ書いてる方が楽しいので、この先はいろいろネタバレがあります。ご注意ください。

キアヌことジョン・ウィックは雇う側も畏怖するような凄腕の殺し屋だったが、ある女性と恋に落ち、彼女と結婚してからは血なまぐさい過去を捨てて幸せに暮らすはずだった。しかし彼女は突然の病に倒れ、帰らぬ人となってしまう(冒頭5分でここまで展開する)。哀しみにくれるジョン(名前はジョナサンらしいのだが、なぜか名前はJonでなくJohnとなっている)そんな彼のもとに一匹のわんこが贈られて来る。それは彼女の妻が自分の形見として彼に贈ったのだった(どうも人が死ぬと当日にわんこを配達してくれるサービスになっているらしい)。

そんなわんこに愛情を注ぎ、一緒にドライブに行くジョン。しかし彼の69年型ムスタングに目をつけたロシアン・マフィアのボンクラ息子たちが夜中にジョンの家に侵入して彼を痛めつけ、さらにはわんこを殺して車を奪ってしまう。俺のわんこと車を奪いやがって!と冷たい復讐に燃えるジョン(しかし車は空港でかなり乱暴に乗り回したりしてて、さほど大切に扱ってたようには見えないのだが)。自分の息子がジョン・ウィックの車を盗んだことを悟ったマフィアのボスはさっそくジョンに詫びの電話を入れるのだが、そんなものには耳を貸さないジョン・ウィック(嫌なやつだね、どうも)。地下に埋めていた武器を掘り起こし、豊富な資金力をもってボンクラ息子への復讐を計画する。仕方なしにマフィアのボスが送りこんできた刺客たちもジュードー・アクションでなぎ倒し、マフィアたちのいるニューヨークへと向かうのだった。

ニューヨークでジョンが泊まるのは、殺し屋たちのために作られたホテル。これがこの映画でのいちばん特徴的な設定なのだが、バーに情報源に闇医者と、殺し屋が必用とするものは何でも揃っているホテルで、おまけに場内での格闘・暗殺は禁止というルールが(いちおう)徹底している。ジョンはそこの古参の客なのでみんなにいろいろ助けられて…という感じなのだが、復讐される側のボンクラ息子と力量差がありすぎるだろこれ。

デンゼル・ワシントンの「イコライザー」を観た時も思ったが、悪に単独で立ち向かうかと思われた主人公のバックに強大な組織がついていて、主人公がチートなレベルで強いようだと観ていてドキドキハラハラせんのよね。「007」シリーズだってジェームズ・ボンドには孤軍奮闘させてたのに、この映画では主人公のピンチは周りが救ってくれるし、ライバルの殺し屋も他人が始末してくれて、主人公が優遇されすぎているような。一方でその主人公はクールな殺し屋のように見えて銃をバンバン乱射するような奴で、あれ一般人に被害を加えてるんじゃないだろうか。

あと敵がロシアン・マフィアなのでロシア語と英語字幕がたくさん出て来るわけですが、「殺し屋」とか「Fuck」といった言葉に色付きのフォントを使っているあたりが日本のヤンキー漫画みたいで微笑ましいですね。しかし最近の映画の悪役はなんでみんなロシアン・マフィアばかりなんだろう。在米のロシア人たちはそろそろ抗議してもいいかもしれない。

キアヌはいつも通りのキアヌ。ディカプリオみたいにそろそろコメディに挑戦しても良いと思うのだがなあ。スタッフもダチで固めてるし。あと脇役はミカエル・ニクヴィストやウィレム・デフォー、イアン・マクシェーンにジョン・レグイザモなどと結構豪華。でもみんなあまり見せ場がないような。

世間的には評判が良くて、続編の製作が早くも決まったようだけど、個人的には平凡なアクション映画とした思えなかったよ。とりあえず続編ではわんこ殺さないでおいてねわんこ。

「Fresh Off The Boat」鑑賞

Fresh Off the Boat, Season 1
ABCの新作シットコム。エディ・ホアンというTVパーソナリティの料理家がいるらしくて、その派手な言動はmomofukuのデイヴィッド・チャンみたいな感じなのかな。彼が書いた同名のベストセラーの自伝をもとにしたシリーズで、ナレーターもホアン本人が務めている。

舞台は1995年。台湾からやって来た移民のルイスは、自身のレストランを経営したいという夢を抱えて、ワシントンDCからフロリダへとやって来る。彼に付き添うのは妻のジェシカと、エディら3人の息子たち、およびエディの祖母。台湾文化よりもヒップホップに憧れる長男のエディは親が渡す台湾料理の弁当が気に入らず、それがもとで学校でトラブルを起こす始末。さらにルイスが開いたステーキハウスには客が入らず…というような展開。

ルイスを演じるのは「The Interview」のキム・ジョンウンことランダル・パーク。台湾系でなく韓国系だけどまあいいや。あの映画でいちばんいい演技をしてた彼ですが、ここでも陽気で呑気な父親を好演している。そしてジェシカ役のコンスタンス・ウーという女優さんがおれ好みの美人でいい感じ。あとは「NTSF:SD:SUV::」のポール・シアーが出てたけど、準レギュラー的な扱いになるのかな。

ルイスとジェシカの中国語訛りがちょっと強調されてる気もするが、アジア人をコケにしたような描写は特になし(タイトルとかにケチをつけてるウルサ方もいるようですが)。むしろ白人社会とのギャップに焦点を当てた内容になっている。おれも子供の頃に親と海外に住んでたりしたので、こういうのはちょっと感情移入できるのです。

つーかアジア人が主役のシットコムって、マーガレット・チョーの「All-American Girl」以来20年ぶりだそうですよ。だからこういうのには頑張って欲しいなあ。こないだの「EMPIRE」も黒人の視聴層にヒットして早くも第2シーズンの製作が決まったわけですが(しかも録画でなく皆でリアルタイムで観るほどの盛況ぶりらしい)、非白人のマイノリティが主役でも視聴率をとれる世の中になってきてるんじゃないかと。ジョークが滅茶苦茶おもしろいという内容ではないものの、こういうのは日本で放送されても良いんじゃないかと思うのです。