「アイアンマン」鑑賞

冒頭からサバスの「あの曲」がかかったらどうしようかと身構えて(?)いたら、流れてきたのは「バック・イン・ブラック」でありました。

「ダークナイト」に比べれば劣るものの、キャラクターのツボをきちんとおさえていて非常に良い出来の作品。正義のヒーローが死の商人であるという設定も、予想以上にうまく描かれていた。アン・リーの「ハルク」に欠けてたのはこれなんだよな。ひ弱なブルース・バナーが新型爆弾の開発者であり、人類にとって脅威なのは実はハルクではなくバナーであるという設定が無かったんだよな。

CGやアクションも一流。メカフェチでない俺でもカッコいいと思うくらいのメカスーツの出来。「スパイダーマン」同様にクライマックスになると主人公がマスクを外すのはご愛嬌ですが。個人的に好きなウォーマシンが登場しないのが残念ですが、「次の機会にな」とジム・ローズが言ってるので続編には登場するのかな。配役もいい。ダウニーJr.の演技の巧さは相変わらず。ジェフ・ブリッジスの悪役ぶりもいい。彼については「トロン2」にも期待してるのです。グウィネス・パルトロウだけが浮いているような気がするけど、まあ女性キャラを入れたかったんでしょう。

日本の観客には馴染みの薄いキャラかもしれないが、映画がまるまるオリジン・ストーリーになっていることもあり、予備知識がなくても十分楽しめる作品と思うんだがどうだろう。まあでもSHIELDとか知ってるとさらに楽しめるんですがね。

この映画で大ヒットを記録したマーヴェルだけど、はたしてこのままヒットを連発して、無事アヴェンジャーズ結成までもっていくことが出来るんだろうか。

「ダークナイト」鑑賞

すげー。

「アメコミ映画」という表現を蔑視するわけではないのですが、これを単なるアメコミ映画として片付けるわけにはいかないような。今までのアメコミ映画が扱わなかった部分にいろいろ挑戦して、すべて成功してしまった奇跡的な作品かもしれない。キャラクタースタディの勝利というか、登場人物がすべてメタファーの塊になっていて、バットマンやジョーカー、ツーフェイスといったキャラクターの枠を超え、彼らが象徴する「法」や「混沌」そしてその「グレーな中間」の葛藤がこれでもかというばかりに語られていくんですよ。個人的にジョーカーやツーフェイスの性格設定には100%同意するものではないけれど、演出があまりにも濃厚のでそんなことも気にならずにどんどん話に引き込まれていく。もちろんアクションシーンも迫力満点だし、「バットマン・ビギンズ」が凡作に見えるほどの出来になっている。

あと個人的に好きだったのが、「バットマン・ビギンズ」もそうだったけど、ゴッサムのマフィアやゴロツキがきちんと「街の脅威」として描かれてること。多くのアメコミ映画では派手なヴィランだけに焦点が集まってしまい、部下の悪党どもはショッカーの戦闘員のごとくザコ扱いされてたが、この作品ではイタリアン・マフィアやロシアン・マフィアが街を脅かす存在であり、バットマンが彼らの撲滅に手を焼いていること、そしてジョーカーが彼らと手を組むことで自分の破壊活動をさらに加速させていく姿がうまく描かれていて、単に「ヴィランを倒せば街は平和に戻ります」的な展開にならないところがいい。また私利私欲で行動するマフィアたちに対し、ジョーカーが何ら明確な動悸を持っていないというのも見事なコントラストを生んでいるのかな。あとエリック・ロバーツは濃い顔のオヤジになったなあ。

難点があるとすれば尺がちょっと長い点で、例えばウェイン・エンタープライズのバカ社員のプロットは省いてもよかったような気もするけど、中ダレせずに2時間半の濃厚なドラマを描ききった点は本当に凄い。あとヒース・レジャーはアカデミー賞とかに絶対ノミネートされるべきでしょう。この映画の大ヒットにより早くも続編の噂がいろいろ出ているけど、果たしてこれだけの傑作を超えることができるのかな。

「ア・ダーティ・シェイム」鑑賞

まだ観てなかったジョン・ウォーターズの(現時点での)最新作。ウォーターズ作品にもCGの動物が登場する時代になったのか。

まず最初に言っとくと、俺はやはりセルマ・ブレアが好きだ。あのヤク中と性悪女と毒蛾を足したようなヤバい目つきは素晴らしいなあ。この映画でも改心してストリッパーから「普通の女の子」になる場面があるんだが、目つきが変わらないので全然普通に見えないでやんの。たぶん実生活でも性格悪いんだろう(と勝手に想像)。今さらになって「私は普通でキュートな女の子の役をやりたいの!」みたいなことを言ってるらしいけど、あんたジョン・ウォーターズやトッド・ソロンズの映画に出といてそれはないでしょ。とりあえず今秋から出演するらしいオーストラリア製シットコムが失敗して、またキワモノ映画に戻ってくることを願うばかりです。

んでこの映画。ボルチモア(where else?)に住む健全な主婦が、頭をしたたかぶつける事故にあったことで性格が一変して色情狂のオバハンになり、同様の経験をもった人々によるセックス教団に加わって町中を混乱させるといった内容のもの。オバハンが主人公だということと、カルト集団がでてくることから「シリアル・ママ」と「セシル・B・ディメンテッド」を足して2で割ったような感じかな。ただプロットが貧弱で、ドタバタの描写が薄く引き延ばされて延々と続いているような感じ。最後の「誰もやったことのない性行為」というネタも弱いし。やたら素晴らしかった前作「ディメンテッド」に比べるとトーンダウンしている感は否めない。

プロットに加えてキャスティングにも難があって、セックス教団のリーダーをジョニー・ノックスヴィルが演じてるんだけど、ノックスヴィルがこういう役をやってもハマり役すぎて逆に意外性がないのよ。主人公の穏健な夫を演じてるクリス・アイザックと役を交換してたらもっと面白くなったような気がするんだが。しかしアイザックって90年代はクールの権化だったような人なのに、なんでウォーターズ作品に出るようになったんだろう。主人公である主婦を演じるトレイシー・ウルマンはもともと幅広い演技で知られてる人なので、ころころ性格の変わる主婦をきちんと演じていて大変よろしい。今回のめっけもんは主人公の母親役のスザンヌ・シェパードという女優さん。女装したクリストファー・ウォーケンみたいな顔がいいなあ。ま一番いい役をとってるのはやはりラストのデビッド・ハッセルホフですが。

ちなみに「時代の変態性がウォーターズ作品に追いついてしまった」みたいなことは10年くらい前からよく言われるようになりましたが、確かに日本でフィギュアに萌えてる人たちに比べると、この映画に出てくる赤ちゃんプレイフェチや泥フェチ、デブ専などの人々がとても普通に見えてしまうのです。

「W.」新トレーラー

まさかトーキング・ヘッズで来るとは。これ観る限り、どう考えても公平な映画にはなってなさそうだよなあ。

殆どの出演者が実物に似てない仮装大会となっているなか、チェイニー役のリチャード・ドレイファスだけ本物そっくりなのがちょっと不気味ではある。

「SLACKER UPRISING」鑑賞

マイケル・ムーアがウェブ上で今日無料公開したドキュメンタリー。公式サイトからダウンロード可能だけど、北米の視聴者が対象なので日本から入手するにはHotspotshieldなどを経由する必要があり。iTunesやアマゾンのストアでも入手可能になるみたい。感想などを箇条書きで挙げていくと:

●これって昨年トロント国際映画祭で公開された「Captain Mike Across America」とは別物の映画なの?あれを再編集したもの?

●2004年の大統領選挙の際に、ブッシュ再選を阻止するためムーアが全米各地をまわって講演した様子を記録した作品。ムーアのツアー映画といえば「ビッグ・ワン」もそうだったが、彼の他のドキュメンタリーにくらべて一貫したテーマがないために、全体的に散漫な感じがするのは否めない。また暗い講演会場での映像が大半であり、撮影や音声に乱れが生じることも多々あり。金を払ってまで観るほどのクオリティを持った作品ではない。

●結局ブッシュは2004年に再選されたわけであり、冒頭に「これは失敗した活動の記録である」と出てくるように、ムーアたちの活動を今になって観るのは少し空しい感もある。

●しかしどの都市でも会場に非常に多くの若者たちが押し掛け、反ブッシュを掲げて団結する姿はなかなか印象的。日本じゃこういう集いはそう多くは起きないだろうな。

●ムーアの活動スタイルの最大の欠点として、彼の意見に反対する人たちを説得するよりも、逆にかえって反発を招いてしまうという点が挙げられる。この映画でも反ブッシュをアジった結果として多くの共和党員たちに目の敵にされるわけだが、公演会場に来たブッシュ支持者たちの罵倒にも動じず、きちんと反論しているところは見事。

●ただし良くも悪くも彼ってアジテーションが巧くなりましたね。キリスト教右派のテレバンジェリストとかの姿がダブって見えるときもあって、ちょっと違和感を感じてしまう。昔はもっとユーモアで権力に立ち向かう姿勢が強かったような気がするんだが。

●セレブなゲストも多数登場。REMやジョーン・バエズ、エディ・ヴェダー、ロザーヌ・バーなどなど。スティーブ・アールの「Rich Man’s War」は名曲だなあ。

●ヴィゴ・モーテンセンが「この国ははカナダみたいな文明国と違って18歳になれば自動的に投票用紙が送られてくるわけじゃないから、みんな投票登録をしてくれ」といった発言をするんだが、なんでアメリカって投票するのに登録の手続きが必要なんだろう。黒人層が意図的に登録を済ませられなかったとかいう話を聞くたびに、あの国の選挙システムってどこかおかしいと思わずにはいられない。

まあ「華氏911」と同じで、ドキュメンタリーというよりもプロパガンダに近い作品ですかね。いろいろ考えさせられる内容なんだけど、ここに描かれたことをすべて鵜呑みにするわけにもいかないでしょう。

あとこないだラリー・キングとのインタビューでムーアが言ってたことで、なるほどと思ったのが「車を修理したいときに、1つのレンチを8年間使ってうまくいかないようであれば、もう1つのレンチを使いたいと思うのは当然のことでしょう。それもダメだったら4年後に捨てればいい」みたいな発言。まあこの8年のあいだには、無駄な戦争やボロボロになった経済など多くの失敗があったわけで、いまの政策が今後も踏襲されるのは日本人としても勘弁してほしいと思わざるを得ないのです。