「THE WIRE」シーズン3鑑賞

ストリートだけでなくボルチモアの市議会での権力争いにも焦点を当てたシーズン。ボルチモアの市長がこないだ汚職で起訴されたなんて話を聞くと、現実世界でもあそこはドロドロしたものがあるんだなあと思わずにはいられない。

でもやはり一番観ていて面白いのは市議会の部分ではなく、麻薬組織の闘争によって増発する殺人事件を減らすためにバニー・コルビンが苦肉の策として生み出した「麻薬合法化区画」の創設から崩壊までの流れ。麻薬の取り締まりがなくなったことで見張り役の子供たちが大量失業するなどという描写は非常に興味深かった。こうした仕組みを考えなければならないほどボルチモアの治安は悪化しているということか。元巨人の上原はこんな街に行って大丈夫なのかおい。

あとこの作品の主要なテーマである「末端の人々の努力が、権力者の私欲によって潰される」という点は今回も顕著で、麻薬組織から抜け出し合法的に権力者になろうとしたストリンガー・ベルの運命が特に象徴的であった。これらはギリシャ悲劇に通じるものがあると書いていた人がいたけど、確かにそうかもしれない。

次はいよいよ全シーズン中最高の呼び名も高いシーズン4だ。

「レッド・ドワーフ」復活!

映画版を作るんだか作らないんだかでズルズルと年月がたってしまったBBCの傑作SFコメディ「レッド・ドワーフ」だが、こんどイギリスのDAVEなるデジタルチャンネル(あの国はやたらチャンネルが増えましたね)でキャストが再集結した特番が放送されるそうな。

今回は男性キャスト4人が集まるようだけど、今後もし紅一点のコチャンスキーも登場するようだったら、ぜひ初代コチャンスキーを演じたクレア・グローガンに登場して欲しいところです。彼女のバンド「オルタード・イメージス」は80年代初期の優良ポップ・バンドの1つだと信じて疑わないので。

「MAN ON WIRE」鑑賞

今回のアカデミー賞ドキュメンタリー部門賞の最有力候補「MAN ON WIRE」を観る。

これは1974年に世界貿易センタービルの2つのタワーのあいだで綱渡りを行ったフランスの軽業師フィリップ・プティの物語で、歯科医の待合室にあった雑誌で完成前の貿易センターの写真を目にした若きフィリップは、その瞬間に自分の夢が何であるかを悟り、貿易センターでの綱渡りを達成するためにひたすら突き進んでいく。金とか名誉とかとはまったく関係なしに、ただ純粋に自分の夢を追いかけて期待に胸をふくらませるフィリップの姿が素晴らしい。とはいえ彼は盲目的に夢を追ったわけではなく、何度もニューヨークに渡っては貿易センターの研究を重ね、時には記者を装ってタワーの屋上で写真を撮ったりして綿密に計画を重ねていく。そして仲間たちとともに貿易センターに侵入し、機材を屋上に運びこみ、ガードマンの監視をくぐり抜けながら弓矢を使ってタワーのあいだにケーブルを張る光景は「オーシャンズ11」も顔負けのスリル映画といった感じ。

こうしてケーブルを張ることができたフィリップは、ついに地上450メートルの空へと足を踏み出し、45分もの長きにわたって綱渡りを繰り返すことに成功する。目もくらむ高さにおいて宙に浮かんだフィリップの姿は、彼が無事に生還することを知っていてもハラハラさせられずにはいられない。そしてケーブルの真ん中あたりで、空を制したかのように微笑むフィリップの写真が非常に印象的だった。この偉業の直後に彼は警察に逮捕されるんだが、世論に護られるような形で不起訴になり、子供たちのパーティーへの出演だけを命じられたというのも微笑ましい。これが今のアメリカだったらテロリスト扱いされてグアンタナモあたりにでも送られてただろうからね。

人が夢に向かって進んでいくことの素晴らしさを実感させられる作品。こういうのを観ると、じゃあ自分の夢はいったい何なんだろうと考えずにはいられないですね。

「ミニミニ大作戦」の解決法

(ネタバレ注意)60年代の傑作映画「ミニミニ大作戦」のラストは金塊を積んだバスが崖から半分飛び出して宙ぶらりんになるという文字通りのクリフハンガーで終わるわけだが、無事に金塊を確保する方法をイギリスの王立化学会が募集したところ2000ものエントリーがあったらしい。みんなちゃんと金塊の重さとかバスの長さを計算して解決策を導き出しているあたりが素晴らしいなあ。

それで1位に選ばれた案は、まずバスのガラスを割り、タイヤの空気や燃料を抜いてバス全体を軽くし、それから周囲の岩をバスに積みこんでバランスをとってから金塊を確保するというものなんだとか。計算式が複雑すぎて俺にはこれが正しいのかどうか全然分かりませんが。ちなみにあれって企画だけされた続編「THE BRAZILIAN JOB」ではヘリコプターに救出されるとかというオチなんじゃなかったっけ。

アカデミー賞ノミネート発表

なんか全体的に地味だねー。ゲイの活動家の伝記とか、修道院の虐待の物語とか、受賞しても客の入りが伸びるとは思えない作品ばかりのような気がする。

あと「おくりびと」が外国語作品賞にノミネートされたことで日本のマスコミはいろいろ煽るんですかね。前評判からいって明らかに「Waltz with Bashir」の勝ちだと思うんだが。

個人的にはヴェルナー・ヘルツォークの「Encounters at the End of the World」がドキュメンタリー作品賞にノミネートされたのが嬉しい。