「スーパー!」鑑賞


うむ。やはり「キック・アス」よりこちらだよな。

まず驚くのがキャストがやけに豪華なことで、神の声に啓示を受けてスーパーヒーロー稼業に目覚めるクリスチャンの主人公を演じるレイン・ウィルソン(でも実生活ではバハーイー教徒)は監督のジェームズ・ガンの元嫁と「THE OFFICE」で共演してるのでそこから起用されたのだろうし、たぶんギャラも高くなかったんだろうが、脇を固めるのがエレン・ペイジにケヴィン・ベーコン、リヴ・タイラー、ネイサン・フィリオンといった主役級の俳優ばかり。これって監督のトロマ人脈とは関係ないよな?あとはアンドレ・ローヨとかリンダ・カーデリーニといった俺好みの役者も出ています。後者は1シーンしか出てなかったけどね。しかしケヴィン・ベーコンはいつの間にか悪役が似合うようになったなあ。

話の流れをおおまかに3つに分けるとすると、最初は主人公がスーパーヒーローとなっていろんな人を痛めつけていくサイコぶりが良かったのですが、第二幕になってエレン・ペイジ扮するサイドキックのより過激なサイコぶりに主人公が圧倒されてしゅるしゅると凡人に戻っていく展開にはちょっと難を感じたよ。彼女のキャラを好きな人も多いだろうけど、主人公をドン引きさせたのはどうなんだろうね。そして第三幕では比較的ストレートなアクション・ムービーとなってしまって、そのまま終わるのかと思いきやエピローグではうまく主人公のサイコぶりが表現されて、きちんと着地したなあ、といった感想。

目の前で行列に割り込んだ奴を撲殺したいという願望は誰でも抱いてるわけで(抱いてるよね?)、それをちゃんと描いているという点では下手なスーパーヒーロー映画よりもはるかにカタルシスを与えてくれる佳作であった。

「The League of Extraordinary Gentlemen, Vol. 3: Century, No. 2: 1969」読了


前作「1910」から待つこと2年以上、やっと出てきた第2巻。今回は1969年のヒッピー文化真っ盛りのロンドンを舞台に「リーグ」の冒険が描かれている。

今回の「リーグ」はミナ・ハーカーとアラン・クオーターメイン、およびオーランドの不老組3人で、他にも悪の魔術師オリバー・ハドーやネモ船長の娘、ロンドン限定のタイムトラベラーことアンドリュー・ノートンなどが前作に続いて登場。そして新たに登場するのは「狙撃者」のジャック・カーターや「パフォーマンス/青春の罠」のターナー・パープルなどなど。この2本の映画の内容はプロットにも大きく関わってるので先に観といたほうがいいかもしれない。俺は観てなくて後悔しました。あと最後に出てくる不埒な男は「ハリー・ポッター」のヴォルデモートなの?相変わらず細かいネタが無尽に散りばめられているので、ジェス・ネヴィンスと同志による解説のページが今回も大変役に立ちました。あとムーアの最近の作品の傾向としてチンコとオッパイもたくさん出てきてます。

ストーリーはハドーの一味が、この世に災いをもたらすというムーンチャイルドの誕生を再び試みていることを知ったミナたち「リーグ」が、プロスペローに命じられてロンドンに帰還して調査を開始。その一方ではハドーたちに愛人のロック・スターを殺された闇社会のボスが復讐をジャック・カーターに依頼。こうして両者によるハドー探しが始まるなか、ハドー自身はムーンチャイルドの到来に備え、ターナー・パープルとそのバンド(明らかにローリング・ストーンズだ)にハイド・パークでの大コンサートを開催させるのだった…というもの。ジャック・カーターが着実にハドーの手がかりを辿っていくのに比べて「リーグ」の面々が意外とヘタレだという不満はあるが、コンサート会場におけるアストラル界での戦いというクライマックスはなかなかの見もの。

エピローグは1977年のパンク・ムーブメントを背景にして「リーグ」がほぼ解散状態で終わるという暗い終わり方を迎えるわけですが、アラン・ムーアによるとこの「Century」は20世紀における文化の劣化を表したものらしく、ビクトリア朝時代は想像力に満ち溢れたフィクションが生み出されていたのに比べ、それらがどんどん現実に影響されて創造性を失っていき、最後に本当に創造的であったのがこの1969年前後で、その後のパンクなどは既存の文化に対する批判としての、後ろ向きなムーブメントだということらしい。70年代生まれとしてはこの考え方に必ずしも賛同するわけではないが、こないだちょうど「60年代は00年代よりも革新的だった」と論じている音楽評論家のインタビューを読んだりしたので、いろいろ考えてしまったよ。

ムーアによるこの文化論は次回の「2009」で完結するわけですが、どうも話がずいぶん暗くて凄惨なものになりそうな気配。果たしてムーンチャイルドは誕生し、この世に破滅をもたらすのか?つうか刊行されるのはいつになるのか?ムーアはもうストーリーを書き上げたようなことを仄めかしてるけど、ケヴィン・オニールがアートを完成させるまでまた2年も待たなければいけないのか?なんかこう、ものすごく高い山の中腹にいて、先は長いし戻るにも戻れないところに来てしまったような気分を抱いてしまうのです。

「The Lying Game」鑑賞


ABCファミリーの新作ドラマ。例によって原作がヤングアダルトノベルで、しかも「Pretty Little Liars」と同じ作者…って他にネタは無いのかよ!

ラスベガスのホワイトトラッシュな家庭に育ったエマは、実は自分が養子で、しかもサットンという生き別れになった双子の姉(妹?)がいることを最近知る。養母とその息子の仕打ちに耐えられなくなった彼女は家出をしてサットンに会いにいくと、ちょうどサットンは彼女たちの実の親を探しにLAへ出かけようとしていた。そこでサットンはエマに、数日のあいだ自分の身代わりとなって暮らしてほしいと伝えてLAへと向かう。こうしてサットンとして暮らすことになったエマだが、自分の境遇とは違ってサットンの育った家はとても裕福なことに複雑な感情を抱く。そしてサットンの養父母や友達にウソをつきながらどうにか数日を過ごしたエマだったが、待ち合わせの時間になってもサットンは戻ってこらず、さらにエマの周辺でも謎めいた事件が起き始める…というようなプロット。

この「自分より恵まれた双子の姉にとって代わる妹」ってコンセプトは、この秋にサラ・ミシェル・ゲラー主演で始まる「RINGER」というドラマとまんま同じでして、まあ決して珍しいアイデアではないとはいえ、なんか変なタイミングだなあ、といった感じ。ただしABCファミリーの作品なので良質なサスペンスなどは期待してはいけなくて、基本的には厚化粧のヴァレーガールたちがプールサイドで学校のゴシップを喋り合うような、いつもの展開が続く作品となっている。登場人物も白人ばかりで、主人公の意地悪なライバルだけ黒人という実に分かり易い図式になってるんだが、いいのかこれ。あと流行りの安っぽい音楽がBGMでひたすら流れる演出がとてもウザいです。

ABCファミリーのドラマってオンラインで比較的簡単に視聴できるのでついチェックしてしまうんだが、40近いオッサンが観るものじゃないですね。もう「THE MIDDLEMAN」並みのシリーズは出てこないものと思って、もっと中年向けのネットワークの番組でも観るようにするか。

お肉の情報館

たまには社会見学でもしよう、ということで品川の中央卸売市場食肉市場へと行ってくる。あれって品川駅のすぐ近くにあるのね。本当は屠殺場とか肉のセリを見たかったのだが、当然ながら個人での見学はできず、敷地内にある「お肉の情報館」だけ見てきた。

ビルの一角を使った展示室といった感じで決して広くはないのだが、日本の食肉の歴史とかブタやウシの模型などが展示してあって、食肉のことはひととおり分かるものになっている。動物を屠る作業の流れも詳しく説明してあり、でっかいナイフやフックなんかも飾られていた。動物を殺す作業は洗練されているようで、数年前までは脊髄にワイヤーを通して神経を破壊して暴れないようにしていた、なんて解説を読むとうーんと考えてしまいますね(いまは電流を流してるらしい)。

あとは畜産業に関わる人たちの人権の解説にも多くのスペースが割かれていて、関係者に送られてくる誹謗中傷の手紙なんかも展示されていた。モリッシーみたいなハードコアなベジタリアンが書いてるのかと思いきや、「ブタは韓国で殺して肉を飛行機で持ってこい!」みたいなことが書いてあったりして、結局肉は食いたいのかよ!といった感じでした。要するに食肉というよりも部落差別がされているんだよな。ネット上の書き込みに比べ、リアルな手紙に書き連ねられた罵詈雑言というのはインパクトありますね。ただし食肉業界もイメージの向上を気にするあまり、横山光輝の「三国志」における肉屋の描写に抗議して変更させるなんて行為は矛先が違うと思うよ。

俺自身は家ではなるべく肉を食べないようにしているのですが、人間が他の動物を食べるというのは、これはもう歴史的にも文化的にも仕方ないことだと思うのですね。米トラベル・チャンネルの「Bizarre Foods」という世界のゲテモノ料理を紹介する番組があってよく観ているのだけど、世界のあちこちで気のいいオバちゃんたちがニコニコしながら動物をさくっと屠って伝統料理を作る(ただし内臓や皮などは一切無駄にしない)のを観ると、まあ人間というものは食べられる物はなんでも食べることで生き延びてきたのだ、と思わずにはいられないのですよ。とはいえ食べ物が豊富になった(はず)の文明国では食肉を控えても十分に生活できるわけだし、それが環境保護につながるという意見もあるわけで、まあいろいろ考えさせられる一日でした。

「THE ANTICS ROADSHOW」鑑賞


「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」が日本でもヒットしているバンクシーが共同監督した、イギリスはチャンネル4の1時間番組。題名はいわずもがな「Antiques Roadshow」のもじりだね。

冒頭から先日のロンドンでの暴動のシーンが映し出されてドキッとするが、すぐに女優のキャシー・バークによるナレーションで「こないだロンドンじゃ路上で略奪が起きたけど、ほんの数週間前まではね、もっとましな方法で体制に反抗した人たちがストリートにはいたのよ」なんて言葉がかけられ、古今東西のイタズラ人間たちの行為が紹介されていく内容になっている。

パックマンのコスプレをしてスーパーマーケットを爆走するフランス人から始まり、元KGBの本部の近くの跳ね橋に巨大なチンコの絵を描いたロシア人や、航空基地に忍び込んで戦闘機をトンカチで破壊した女性活動家たち、有名人へのパイ投げを行うベルギー人といった人たちの行為が紹介され、最後に登場するのは我らがイエスメン!紹介される人たちがみんな反体制的なモチベーションやアート指向を持っているわけではなく、純粋なプランクスターみたいな人も登場するけどね。あと美術館で転んで高価な陶器を破壊した男性も出てくるが、あれはイタズラとは呼ばんよな。

こうした人々を正義の活動家と讃えるべきか、単なる迷惑連中として扱うべきかは、見る人によって様々だろう。俺もフラッシュモブとかは好きではないしね。また最近では彼らの行動がYouTubeなどで世界的に知れ渡るようになった一方で、60年代からイタズラをしていた男性なども登場して、プランクスターの歴史のようなものを感じてしまったよ。

最初から最後までいろんな人たちのイタズラが次々と紹介されるだけなので構成としては散漫な印象も受けるし、「イグジット〜」のようにストーリー性があるわけでもないが、逮捕されるのを覚悟で体をはってイタズラを実行する人たちの姿はゲラゲラ笑えるものがあって大変面白い番組でした。

でもこういうイタズラで一番凄いのってやはり「MAN ON WIRE」のフィリップ・プティだよな。行ったことがあまりにも見事なので誰もイタズラだとは思わなくなったというやつ。

番組はすべてYoutubeにアップされていた。