「MARTHA MARCY MAY MARLENE」鑑賞


名前を暗記するのに3ヶ月くらいかかった昨年のサンダンス映画。

物語はマーサという少女が、2年間所属していたカルトのグループから脱走するところから始まる。彼女は母親の死などをうけて俗世間を離れ、リーダーのもと自給自足を目指すカルトのコミューンに加わり、メイシー・メイという新たな名前を与えられて他のメンバーとともに生活していたのだ。しかしカルトの冷酷さを知るにつれ、初エッチまで捧げたリーダーへの憧れは畏怖へと変わり彼女はコミューンから脱走し、姉夫婦のもとに身を寄せる。そこで平和を見いだしたかのように見えたマーサだったが、コミューンでの生活は彼女の精神に大きな傷を与えていた。奇行を繰り返す彼女のため姉夫婦の関係にも不和が生じていき…というようなプロット。

最初から最後までカルトの影が重くのしかかっているんだけどサスペンスや心理ドラマなどではなく、ひたすら暗い展開が続く内容になっている。ちょっとセレブな姉夫婦の家での生活と最低限の暮らしをするコミューンでの生活がオーバーラップしながら描かれ、そのどちらもがただ暗いという…。2つの生活に通じるものがあることを描こうとしてるのかもしれないが、あまりそこらへんは巧くできてなかったような。

またラストも例によってとても曖昧なものにされており、ネット上ではさまざまな憶測を読んでいるみたい。深読みしようと思えばいくらでもできる展開ではあるのだけど、むしろ製作者が手を抜いているような印象を受けたのは俺だけではあるまい。こないだの「アナザー プラネット」もそうだったけど、サンダンスではこういう終わり方が流行ってんのかしらん。

主役のマーサを演じるエリザベス・オルセンはあのオルセン姉妹のさらに下の妹で、化粧したガイコツみたいな姉妹とは異なり「演技のできるオルセン」として体当たりの演技をみせて高い評価を得たみたいだけど、この映画ではサイコさんを演じてるので普通の演技がどこまでできるのかは未知数だな。むしろ彼女の奇行に耐える姉を演じたサラ・ポールソンの演技がとても良かった。そしてチャールズ・マンソンがモデルらしいカルトのリーダーを演じるのがジョン・ホークスで、激高したりせず冷徹に重々しく周囲に命令を下すリーダーを好演している。「ウィンターズ・ボーン」もそうだったけど、この人は「アパラチア山脈の怪しいオヤジ」という役が似合いますね。

サンダンスだけでなくいろんなところで昨年高い評価を得ていた作品だけど、個人的には地味すぎてどうも好きにはなれなかったな。

「ATTENBERG」鑑賞


あの傑作「DOGTOOTH」を筆頭に、さいきんいろいろ目にするようになったシュールなギリシャ映画の1つ。アカデミー賞のギリシャ候補になったらしいけど、国が財政危機で破綻してる一方でこういう実に商業的でない映画を作ってるというのは何となく好きです。

マリーナは23歳になっても男性と付き合った経験のない奥手な少女で、ギリシャの山岳地帯にある工場で運転手として働き、病を患っている父親と暮らしていた。彼女の趣味はスーサイド(NYパンクの人たちだよ)を聴くこととデビッド・アッテンボローのドキュメンタリーを観ること(タイトルはここから来ている)で、男性経験の豊富な親友のベラからはキスや性に関する指南を受けていた。そんな彼女は工場である男性と知り合い…というようなストーリー。

と書いてはみたもののあまりストーリーらしきストーリーは存在してなくて、ただただ思わせぶりなシーンが淡々と続いていく内容になっている。親の過保護という明確なテーマが根幹にあった「DOGTOOTH」に比べるとつくりが弱いことは否めない。ちょっとエッチでかわいいシリーウォークを繰り広げる女の子たちとか、TVを観て動物のマネをするマリーナとか、部分的にはとてもいいシーンがあるものの、全体としてまとめるとなんか消化不良になってるというか。父親が「この国は近代化に失敗した」とか「俺は20世紀をボイコットする」なんて呟いてて、ギリシャの金融危機について言及してるのかと思いきやそれっきりになってたし。あと「DOGTOOTH」に比べて出てくるおっぱいがみんな残念であったよ。

いろんな面白い要素が入り込んでいるだけに、この程度の出来で終わってしまったのがどうも悔やまれるところか。ギリシャ映画では他にも「ALPS」とか「L」といった面白そうな設定の映画が控えてるのだが、実際の内容はどうなんだろうなあ。

「AWAKE」鑑賞


NBCの新シリーズ。

刑事であるマイケルはある晩に家族とドライブ中に車を横転させてしまい、1人息子のレックスを亡くしてしまう。悲しみに打ちひしがれながらも職場に復帰するマイケルだったが、実は彼は夜に見る夢のなかでもう一つの現実を体験していた。そちらの世界では事故で亡くなったのはレックスではなく妻のハンナであり、彼はレックスと2人で暮らしていたのだ。2つの世界の境界が分からなくなり、困惑するマイケル。果たしてどちらの世界が現実で、どちらが幻なのか…というようなプロット。

話の設定だけ聞くと「LOST」みたいな謎ものかSFっぽい内容を連想するかもしれないが、実は意外とストレートな刑事もの。2つの世界で起きる事件が微妙にリンクしていて、マイケルは片方の世界で入手した手がかりをもう一方の世界で使って事件を解決する、なんてことをやってたりする。あとどちらの世界にもセラピストがいて、主人公にカウンセリングを与えてたりするのがアメリカンなところですね。

原案者は昨シーズンにあっという間に打ち切られた「LONE STAR」と同じ人…って二重生活ネタが好きな人だね!主演は「ブラザーフッド」とかに出てたジェイソン・アイザックス。よく見るとダニエル・クレイグに似てるね。ほかにも「ロー&オーダー SVU」のB・D・ウォンとか「プラクティス」のスティーブ・ハリスなんかが出演している。

「2つの世界のどちらが本物か?」という設定は裏を返すと「どちらも幻の存在では?」という考えになってしまうわけで、主人公以外の登場人物に感情移入するのがどうも難しいような気がする。ミニ・シリーズやSyfyチャンネルのシリーズならまだしも、地上ネットワークのシリーズとしてこれからずっと話を引っ張ってくのは相当厳しいのでは。

例えば「ライフ・オン・マーズ」だと「70年代の世界に来てしまった主人公が元の世界に帰ろうとする」という明確な目的があったが、この作品だと主人公が「2つの世界で妻子に会えるならそれでも良くね?」と変に割り切ってしまってるので、これから話がどう続いていくのががよく分からないんだよな。作りはしっかりしてるので「LONE STAR」同様に瞬殺されないことを願いたいのですが…。

「A Very Harold & Kumar Christmas」鑑賞


そのマリファナ万歳な内容のために(だよね?)日本では劇場公開はおろかDVDさえも発売されてない人気コメディ・シリーズ第3弾。今回は劇場だと3Dで公開されたので、タマゴから紙吹雪からマリファナの煙までありとあらゆるものが画面に向かってくる演出になっていたよ。これはちょっと3Dで観たかった気もする。

2作目が1作目の直後から始まってたのに対し、今回のストーリーは2作目の6年後という設定で、クマーが相変わらず小汚いアパートに住んでマリファナをキメてばかりの毎日を送っているのに比べ、ハロルドは出世してウォール街のオフィスで働き、妻のマリアと大きな家に住んでいた。そしてクリスマス・イブの朝にクマーのもとにハロルド宛の荷物が届いたことからクマーはハロルドの家を訪れるものの、それが大騒動に発展して…というようなストーリー。

相変わらずマリファナ・ジョークが満載だし裸のおねーちゃんたちも出てくるんだけど、前2作に比べてかなりメインストリームのコメディになったなという感じ。ラフなところが魅力だったインディーズのバンドが、メジャーデビューして良くも悪くも洗練された音になったようなものというか。3DゆえにCGを多用してるのはまだしも、ワッフルボットなんて登場させる必要あったのかな。その一方でマリファナ人間が今回は出演してないのは許せんなあ。あとトーマス・レノンが演じるハロルドの助手の役に時間が割かれ、メインの2人のドタバタの勢いが削がれてる気もする。

脇役は相変わらずニール・パトリック・ハリスが怪演技を見せつけてくれて、実際の婚約者(男性だよ)まで登場させつつも、女好きのスケベという役を力演している。たださすがに第1作目に比べるとインパクトが弱まったけどね。ハロルドの義理の父を演じるダニー・トレホはいつもの通りのトレホ。あとウクライナのギャングをイライアス・コティーズが演じてるんだが、俺は最後まで前2作に出演してるクリストファー・メローニだと思っていたよ。あの2人はそっくりなんだよな。

笑えるところは笑えるし、キャストも和気あいあいと演じてるのが感じられる作品なんだけど、どうも小ぢんまりとした作りになってしまった印象を受けてしまうな。劇中ではNPHが「第4作目でも会おうぜ!」なんて行ってるけど、興行成績も予測を下回ったらしいので、たぶんこれがシリーズ最終作になるんじゃないでしょうか。

「THE RIVER」鑑賞


ABCのいわゆる「LOST」ライクな新シリーズ。去年の「THE EVENT」の失敗で「LOST」ライクな作品は当分出てこないかと思ったけど、やはり今年も出てきたか。まあ他にもエイブラムスご本人の「PERSON OF INTEREST」とか「ALCATRAZ」とかがあるけど、あちらはもっと一話完結ものに近いよな。

探検家のエメット・コール博士は20年以上ものあいだ世界の秘境を渡り歩き、自身とその家族の冒険を映したTVシリーズによって世界的な知名度を誇っていたが、ある日アマゾンの奥地へと探検に向かったまま消息を絶ってしまう。そして世間では彼は死んだものとみなされるが、その半年後に彼の非常用ビーコンが作動したことを知った彼の妻のテスは、まだエメットが生存していることを信じ、息子のリンカーンや撮影クルーを率いてアマゾンへ向かうが、そこで彼らが目にしたものは…というプロット。

アマゾンを舞台にしてるので「アナコンダ」に雰囲気がにているかな。あとは「モンスターズ/地球外生命体」とか。コール博士がアマゾンで魔術を調査していたことが示唆され、彼を捜すクルーが直面するのもオカルト的な存在になるみたい。とはいえクルーの1人に霊感の強い少女がいるのは少し安直すぎる気もしますが。あとクルーの行動がみんなカメラで撮影されてるので、「パラノーマル・アクティビティ」みたいなPOVホラーの要素も多分に含まれている…って原案者が「アクティビティ」の監督なのか。

コール博士を演じるのがブルース・グリーンウッドで、消息不明の人とはいえ過去のテープの映像としていろいろ登場しまくってます。妻のテスを「24」のレスリー・ホープが演じてるほか、プロデューサーにスティーブン・スピルバーグが名を連ねている。スピルバーグって今年やけにTVシリーズに関わってない?

第1話を観た限りでは「THE EVENT」みたいに大風呂敷を広げてるわけでもないし、意外としっかりした探検もの/ホラーとして楽しめた。ただ話の舞台が限定的だし、登場人物も少ないのでこれから長く続くシリーズになれるかは微妙なところかな。まあ人気が出ればあの手この手で長続きさせられるんだろうけど。多くの「LOST」ライクな作品と同様に、いずれ日本でもどこかで放送されるでしょう。