「THE NORTHMAN」観賞

「THE WITCH」「THE LIGHTHOUSE」とダークな時代劇には定評のあるロバート・エガースの3作目。以下はネタバレ注意。

舞台は9世紀末のアイスランド。アムレスはそこの王国の後継者である若き少年だったが、父であるアウルヴァンディル王が伯父のフョルニルの奸計によって殺害されてしまう。フョルニルに王国と母親を奪われたアムレスは小舟に乗って脱出し、父の復讐を誓うのだった。そしてヴァイキングに加わって勇敢な戦士となったアムレスは、フョルニルとその一味が別の王に国を追われてアイスランドの僻地に暮らしていることを知り、奴隷に扮してフョルニルのもとに向かうのだが…というあらすじ。

エガースの過去の作品にくらべると格段にとっつきやすい内容になっていて、意外なくらいに正統派のヒロイックファンタジーになっている。悪い伯父に対する復讐譚とか、ありがちな内容だな、と思っていたらこれデンマークの有名な伝記をベースにしていて、アムレス(アムレート)はシェイクスピアの「ハムレット」のもとになった人物なのですね。屈強な主人公が群がる敵をなぎ倒し、巫女から神託を受け、伝説の剣を手に入れるために夜の祠で魔物と戦うあたりとか、実にストレートな英雄譚になっている。その一方でラリった幻覚シーンとか、剣で切り裂かれた腹から飛び散る臓物とかの描写はいかにもエガースなのですが。

エガース作品の常として時代考証は入念にチェックしているらしくアイスランド古語で会話するシーンなんかもあるが、どこらへんまで正確なのはは凡人にはわからず。これそもそもアムレスを演じるアレクサンダー・スカルスガルドがヴァイキング映画を作りたくてエガースに話を持ちかけたものだそうな。そんな役者と監督の趣味の塊みたいな映画に金を出す物好きは誰なんだろうと思ったらなぜかイスラエルのアーノン・ミルチャンだった。

時代が時代なので最近のファンタジー作品とは異なりキャストは白人ばかりですが、エガースの過去作にも出ていたウィレム・デフォーやアニャ・テイラー=ジョイをはじめ、イーサン・ホークやクレス・バング、ニコール・キッドマン、さらにはビョークといったいろんな国の役者が出演している。スカルスガルドやクレス・バング、キッドマンといったデカい人たちによる格闘シーンは見応えありますよ。

監督本人も認めているように、ロバート・エガース作品としてはずいぶん商業的になり、いままでとは毛色の異なる作品ではあるもののよく出来た英雄譚。グロ描写に耐性があるなら観て損はない作品。