「A Ghost Story」鑑賞


ことし高い評価を映画を得た作品。監督のデヴィッド・ロウリーって、ディズニーの「ピートと秘密の友達」なんてメジャー作を撮ってる一方で、「UPSTREAM COLOR」の編集をやったりしてる人なのね。以下はネタバレ注意。

舞台となるのはテキサスの郊外にある小さな平屋。そこには若いミュージシャンの夫とその妻がつつましく暮らしていたが、ある日夫は交通事故で命を落としてしまう。だが夫は幽霊として蘇り、「あの世」に行く機会も断り、悲観にくれる妻の待つ家へと戻る。しかし妻の目に夫は見えず、夫もまた幽霊として妻を眺め続けることしかできなかった。やがて妻は家を去るものの、夫の幽霊は家に留まって、ひたすら何かを待ち続ける。そして家にも様々な変化が訪れ、幽霊も時を超えて物事を眺められるようになり…というあらすじ。

幽霊が出てくるといってもホラーではないよ。かといって「ゴースト」のようなロマンチックな話でもなくて、夫の幽霊の外見は上のポスターにあるように、白いシーツをかぶっただけの姿。いちおう物を操ることはできるものの、声を発せず、妻とコミュニケーションをとろうともせず、ただ妻の姿や家に起きる変化を傍観していく。幽霊になりたての頃は妻の後に来たヒスパニックの家族が好きになれなくて、ポルターガイスト現象を起こしたりするものの、そのあとは家の住人がパーティーを開こうとも動ぜずに、ずっと彼らを眺めているのだ。

このように、移り変わる物事を幽霊がじっと見守るという内容の作品。映像の画角が1:33という正方形に近い比率になっており、さらに画面の四隅が丸っこくなっていて、むかしの8ミリカメラによる家族の記録映像を見ているような気分になるのも効果的に働いている。話の展開もゆっくりしていて、悲しんだ妻がパイをやけ食いする姿を9分間もずっと見せられたりするので、まあこれを退屈と思う人もいるだろうな。幽霊が家にずっと留まり、時間だけは過去にも戻って家の歴史を目にするあたりは、アラン・ムーアやイアン・シンクレアの作品に出てくるサイコジオグラフィーの概念を彷彿とさせました。

主役の夫と妻には名前すら与えられておらず、それぞれ「C」と「M」という役名がつけられているだけ。二人のラブストーリーでありながらも、彼らについて多くの説明はされず、ひたすら淡々とした関係の描写が続くのだが、それがただ彼女を待ち続ける幽霊の姿にうまく反映されてるなとも思いました。夫を演じるのが昨年アカデミー賞を受賞したケイシー・アフレックで、妻を演じるのがルーニー・マーラ。ちなみに幽霊の「中の人」を演じてるのは必ずしもアフレックだけではないらしい。あとミュージシャンのボニー・プリンス・ビリーがパーティの客人役で出ていて、彼が文明の終わりについて饒舌に語るシーンだけなんか浮いていて好きになれなかったな。

批評家には評判が良かった一方で、万人受けする作品ではないと思うが、愛する人を眺める幽霊が哀しくて個人的にはいい作品だと思いました。特に話の終わり方が秀逸であったよ。

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