「ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれた」鑑賞


ボストンマラソン爆弾テロ事件の被害に遭った男性ジェフ・ボウマンを主人公にした、実話に基づいた作品。以下はいちおうネタバレ注意。

ボストン育ちのジェフは元恋人のエリンとよりを戻すことを期待して、彼女が参加したボストンマラソンをゴール付近で観戦していたところ、突如起こった爆発によって両足を吹き飛ばされる重傷を負い、病院に運ばれる。意識を取り戻した彼は爆弾犯の顔を覚えていたことからそれが犯人確定の手がかりとなり、傷害にも屈しない彼の姿はボストンで英雄視されることになる。しかしその一方でジェフはリハビリに苦しんでいた…というあらすじ。

邦題からして困難に立ち向かう主人公の感動もの、といった印象を受けるけど、実は意外とそうでもなかった。コストコの従業員として働くジェフは自らのヘマで汚した調理場の掃除を他人に任せてレッドソックスの試合に行くようなボンクラで、テロ被害に遭ったことで一躍英雄扱いを受けるものの、やってることは相変わらず友人たちとビール飲んでだべってるだけ。一度は別れた恋人のエリンが気を遣って身の回りの世話をしてくれるのにろくに感謝もせず、さらには彼女と保護なしのセックスをして妊娠させてしまうというダメっぷり。この映画はジェフの書いた自伝をもとにしてるのだが、本もこんな内容なのだろうか?

ジェフの家族もみんなだらしなくて、母親は酒ばかり飲んでるおばちゃんだし、ボストン訛りで言葉が汚くて、ジェフの面倒を見ているエリンを疎んじているほど。じゃあ人物の描き方が不快かというと決してそうではなくて、むしろ非常にリアルだと思いました。爆弾で両足を失ったからといって皆が聖人君主になるかというと、そういうわけではないでしょ?むしろ従来の暮らしに戻りたいと思うだろうし、エレベーターのない家に住んでる一方で立派な義足を贈与されるジェフの空虚さがよく醸し出されているのではないかと。
セレモニーに招かれてもジェフは感動的なスピーチを口にするわけでもなく、むしろ彼の姿に一方的に感動した人たちが自身の境遇を彼に投影し、心を揺さぶる話を彼にして、ジェフが逆にそれに感動するという有様。平和活動家として活躍しており、事故現場に居合わせたことでジェフに応急処置をして彼を救ったカルロス・アレドンド(上のカウボーイハットの人)こそ本来ならば英雄扱いを受ける人なのだが、彼もまた自分の亡き息子たちの姿をジェフに重ね合わせる人として登場している。話の最後ではさすがに感動パターンに話を持って行こうとして全体のトーンが崩れている気もしたけどね。

ひどい目に遭ったのに変わろうとしない主人公の物語、という意味では「BIG FAN」に似ているところがあったかな。監督はデビッド・ゴードン・グリーンで、彼のボンクラをボンクラとして描くスタイルはブレないですね。ジェフを演じるジェイク・ギレンホールも抑え気味の演技で好演していて、エリン役のタチアナ・マスラニーは相変わらず演技が巧いです。

映画のラストでは再び結ばれて子供が産まれているジェフとエリンのカップルも、実際は映画の撮影がちょうど終わった頃に離婚していて、現実はどこまでも非情ではある。でも困難に立ち向かってる人だって欠点はあるし、自動的に英雄になれるわけじゃないんだよ、ということを示した点では興味深い作品であった。