「Madi: Once Upon A Time In The Future」読了

月に囚われた男」「ミッション: 8ミニッツ」のダンカン・ジョーンズが、ライターのアレックス・ディ・カンピと組んでストーリーを執筆したコミック。

昨年の6月くらいにキックスターターでクラウドファンディングが始まって、そのときはコロナの給付金(覚えてる?)が振り込まれてたので気前よく30ドルほどのソフトカバー版をプレッジしたのだが、電子書籍ではないから後から送料が50ドルほど上乗せされ、なんだかなーと思っていても発送の連絡が全く来ない。コロナの影響で印刷に手間取っている、というニュースレターは届いてたので仕方なく気長に待ってたら他のアジア地域には届いている、という書き込みを見つけたので問い合わせしてみたら、すまんデータベースが破損したので送れなかった、といういいかげんな言い訳が来た次第。おかげでプレッジしてから実物を手にするまで1年以上待たされることになったよ。しかもこれ出版社がアマゾンでも販売してて、日本でも送料込みで3000円ほどで入手できるようで、待たされて高い送料払ったのは何だったんだよという気分。コミックのクラウドファンディングするのは、データ納品される電子書籍のみに徹したほうが良さそうですね。

とはいえ約30センチ X 20センチの大判サイズで260ページのソフトカバーは紙の書籍ならではの質感があってなかなか心地よい。1つのストーリーを複数のアーティストが数ページずつ描いているスタイルで、有名どころではダンカン・フィグレド、グレン・ファブリー、クリス・ウェストン、サイモン・ビズレー、ピア・グエラなどといった、主にイギリスのアーティストが携わってますね。当然ながら人によってアートのスタイルが違うので、キャラクターの顔が突然変わったりして戸惑うところもなくはない。素手の戦闘で人体破壊が行われるシーンをサイモン・ビズレーが担当してるあたり、いちおうそれぞれのアーティストの特性にあわせてページを振り分けてるのかな?

舞台は近未来。マディ・プレストンはイギリスの特殊部隊員だったが体内に無数のサイバネティックス補強を施したために多くの借金を抱えており、退役後は彼女の姉たちとともにリバティー・インクという企業の傭兵として危険なミッションをこなしていた。ロンドンのミッションでも同僚を一人失ったマディは、単独で上海の大企業「レッドサン」の代理人の依頼を引き受け、あるテクノロジーを奪取するために巨大船舶に潜入するが、そこで彼女が発見した「テクノロジー」とはサイバネティックスを埋め込まれた一人の少年だった。特異な技術を持ったディーンという少年をレッドサンに引き渡すマディだったが、あどけない少年を渡したことに罪悪感を感じて彼女はディーンをレッドサンから奪い返し、技術者のテッドとともにアメリカへ逃亡するのだったが…というあらすじ。

主人公のマディは身体中に埋め込まれた補強インプラントのおかげで超人的な身体能力を誇るものの、身体を他人にハックされる可能性があるため劇中の大部分では機能をオフにしていて、逆に皆の足手まといになるくらい。冒頭でディーンを誘拐する際も謎のブラックアウトを経験していて、実際そこで何が起きたのか?というのがストーリーの大きなカギになっている。一方のディーンは世界中にあふれる電気信号を見ることができて操れるという能力の持ち主で、ATMだろうとドローンだろうと自在にハッキングできる能力はちょっとチートすぎるかな。

おれ最近のダンカン・ジョーンズの映画を観てないのですが、「月に囚われた男」「MUTE」と同じユニバースの作品なのかな?サイバーパンク作品だが内容はSF要素よりもアクションに重きを置いたものになっていて、バンド・デシネよりも「2000AD」にノリは近いかな。ジョーンズは「2000AD」原作の「ローグ・トルーパー」の映画化にもとりかかってるはずだから、あれに影響されたのかもしれない。ニール・ブロムカンプの映画の雰囲気にも近いかな。

中国のレッドサン社が具体的に何をやりたいのかとか、全体的な世界設定の説明が足りないし、ストーリー展開もありがちではあるのだが、話のテンポがよくて飽きさせず、著名なアーティストたちのアートにも支えられて結構楽しめる作品になっていた。少なくとも30ドルの価値はあるかな。送料50ドルとなると考え込んでしまうけど。