「EDDINGTON」鑑賞

アリ・アスターの新作で、日本では「エディントンへようこそ」の邦題で12月公開。以下はネタバレ注意。

舞台は2020年、ニューメキシコ州の町エディントン。コロナ禍において住人にマスク着用が強制されているなか、地元の保安官であるジョーは町長のテッドと諸々の施策について意見が合わず、データセンター誘致を掲げて再選を目指すテッドに対抗して町長選挙に出馬し、ライバルを蹴落とすための策を検討するのだが…というあらすじ。

元々は現代のウェスタン作品としてずっと前に構想していた作品を、コロナ禍を経て練り直したものらしいけど、COVIDのほかにブラック・ライヴズ・マター運動や政府の陰謀論、それらを受けた保守系の若者インフルエンサーの台頭など、今までのアリ・アスターの作品に比べて意外なくらいに世相を反映させた内容になっている。マスクを着用しない客を入れさせない店とか、そんな出来事もコロナ禍ではあったよな、というほんの数年前なんだけども「一時代」の切り抜きがうまくできていた。

主人公のジョーは妻の母親が陰謀論にドップリはまっていることに辟易しながらも、住人のほとんどが白人の町で起きたブラック・ライヴズ・マター運動のために警察官ということで若者たちに敵視される憂き目に遭う。さらに喘息持ちなのでマスク着用を嫌って隣の郡の保安官には軽蔑されたりしているわけだが、ジョー自身もまた問題のある人物として描かれており、作品の内容自体は反BLM・反マスクというわけではない。コロナ禍における小さな町の狂想曲といった感じ。

こないだ公開された「ワン・バトル・アフター・アナザー」も左派イデオロギーと保守・権威側の武力衝突を扱っていた一方で、トマス・ピンチョンの原作にあった(日本の)サブカルチャーネタとか陰謀論やUFOネタが抜かれていてちょっと残念な出来だったけど、こちらは陰謀論に加えて町の外から送られてくる謎の暴力集団などが登場して、あっちよりもピンチョン的だったかもしれない。

ジョー役に、「ボーはおそれている」に続いてアスター作品で主役を張るホアキン・フェニックス。町長のテッド役にペドロパスカルで、あとはエマ・ストーンやオースティン・バトラーなどが小さいけど印象的な役で出ていた。アリ・アスター作品ということでホラー映画を期待していると肩透かしをくらうだろうけど、社会風刺と不条理劇をうまくミックスさせた内容で個人的には楽しめた作品でした。