前半はとても良く出来た映画だと思ったんだけどな、これ。企業の解雇通知人として全米を飛び回りマイレージ集めを趣味にしている主人公が、若くて賢い助手をつけられて彼女に仕事のコツを教えているうちに自分のやっていることを再認識するようになるだけでなく、忘れられない女性に出会ったことで根無し草だった自分の人生を見つめ直すという構図が非常に巧みに感じられたのですよ。
いまアメリカでは不況により多くの人々が解雇されているというタイムリーな事実も話に深みを与えていたのに、それが後半になって妹の結婚式というパーソナルな舞台に移ったら話がとても小ぢんまりとしたものになってしまったのが残念。式の当日になって怖じ気づく新郎なんて展開はあまりにもメロドラマすぎるというか。
俺が思うに、この映画の主人公には2つの特徴があって、
A. 全米を飛び回る解雇通知人
B. 結婚を面倒なものだと考えている独身男
というものであり、ストーリーテリングの常としてこれらに何かしらの危機やか挑戦がやってくるわけだが、それらがすべてB.のほうに集中している気がするんだよな。でも彼を主人公として特徴づけているのはA.のほうであるはずなのに、解雇通知人としての行いには明確な因果というか報いのようなものが生じず、彼の助手だけが報いを受けるというのはどうなんだろう。人々にクビを伝え続ける生活というものが、主人公にどう影響するのかを深く掘り下げて描いて欲しかったような気がする。
でも主人公を演じるジョージ・クルーニーは心の葛藤などをうまく表現していてハマり役か。彼の脇をかためるヴェラ・ファーミガとアナ・ケンドリックもいい感じ。その反面、ジェイソン・ベイトマンやザック・ガリフィアナキス、J.K.シモンズ、ダニー・マクブライドといったコメディ畑のそうそうたる面子を揃えておきながら、ベイトマン以外はほとんど出番がなかったのが残念だな。ふつう冒頭にガリフィアナキスのような知られた顔が出てきたら、後でもまた登場すると思うよなあ。
そして最後は実際に仕事から解雇された人々による、いかに家族が励みになったかが語られるインタビューで幕を閉じるわけだが、むしろ独り身のほうがクビになっても家族に迷惑をかけなくていいんじゃないの、と俺のようなひねくれ者の独身男は考えてしまうのです。