神出鬼没のストリート・アーティスト、バンクシーを扱ったドキュメンタリー…かと思いきや、なかなか一筋縄ではいかない作品であったよ。以下ネタバレ注意!
作品の中心人物となるのはバンクシーではなく、LAで洋服屋を営んでいるティエリー・ グエッタという人物。あらゆるものをビデオ撮影したがる癖のあった彼は、従兄弟がストリート・アーティストをしていたことからストリート・アートの世界に興味をもち、やがてシェパード・フェイリー(オバマの「HOPE」ポスターで有名な人)といった著名なアーティストとも知り合いになり、彼らの行動を撮影していくようになる。そしてついに彼はイギリスの謎のアーティストであるバンクシーにも紹介され、彼のパフォーマンスに関連して警察に捕まったときも口を割らなかったことからバンクシーに信頼され、イギリスに招かれて彼の行動を撮影するようになった。さらにティエリーは彼らを撮影するだけでは飽き足らず、自らもアーティストとして活動するようになり、最初は自分のステッカーを作って貼る程度だったのが、ストリート・アートが世間的にもビジネス的にも認知されるにつれて彼のパフォーマンスは派手なものになっていき、ロクな才能もないのに大々的な個展を開いて世間の注目を浴びることになっていく…というような話。
要するにこれはストリート・アートの商業化に対する露骨な批判になっていて、思想も才能もない人間がアーティスト気取りでウォーホルまがいのアートを作って世間に売り込み、それをメディアやアート・ディーラーが素晴らしいものだと思って祭り上げていくさまがなかなか狡猾に描かれている(村上隆の作品もちょっと出てるぞ)。メッセージ色の強いアンダーグラウンドのアートとして始まったストリート・アートが、世間で話題になるにつれてストリートからギャラリーへと活動の場を移し、作品がとてつもない額でオークションにかけられる姿はなかなか皮肉なものがありますね。
これとは別にストリート・アーティストの活動を撮影した作品としてもよく出来ていて、段ボールを切り抜いたステンシルを準備していくさまや、キンコーズで巨大コピーした紙を夜中にさっと壁に貼付けていく姿は結構面白い。個人的にはグラフィティとかはあまり好きではないんだけど、仕事場で電話ボックスを切断し、トレーラーで運んで路上にデンと置いていく光景などはスケールがでかくて圧倒されますね。日本の暴走族の落書きなどとは規模が違うわけで。
ただしこれがまっとうなドキュメンタリーかというと疑わしい点があるわけで、ティエリーのキャラが立ちすぎているような気がするんだよな。フランス語訛りで話す愉快なオッサンという姿に加え、何であんなに世界中を旅することができるのかとか、夜間撮影がやけに上手いとか、撮影をしている彼の姿を撮影してるのは誰なのかとか、よく考えると不自然な点がいろいろ
あるのですよ。
よって彼はこの作品のために演技をしているキャラクターであるという声はアメリカとかでも挙ってるみたいだ。ただしティエリー自身は実際にアーティスト活動をしていて、こないだもマドンナのアルバムのジャケットをデザインしたらしい。この作品はアカデミー賞のドキュメンタリー部門の候補に挙がってるらしいけど、内容の真偽の審査とかはしないのかね?でもまあどこまでが本当なのかという議論は置いといても、何がアートなのかということや、ゲージュツに踊らされる世間について考えさせられる、とても面白い作品であった。
ちなみに劇中で紹介されるバンクシーのパフォーマンスで一番痛快だったのが、エリザベス女王の代わりにダイアナ妃の顔を印刷した偽札をバラ撒こうとしたもの!でもさすがに偽札製造で逮捕される可能性があったため、印刷しただけでオクラ入りになってしまったらしい。