前からちょっと興味のあった、2007年のサンダンス系映画。本国だとホラーコメディとして紹介されてるんだけど、コメディ色は殆どなくて文字通り痛いシーンのあるホラーであったよ。
田舎の高校に通うドーンは病弱な母親とボンクラな義兄のいる家庭に育ちながらも、敬虔なクリスチャンとして純潔運動を説き、当然ながら自分の貞操をひたすら守る真面目な少女だった。彼女はトビーという同級生とねんごろな仲になりつつも、婚前の性行為はどうにか避けようとしていたのだが、我慢ならなくなったトビーによって半ばレイプのような形で挿入行為をされてしまう。しかし次の瞬間、トビーは股間が血みどろになって苦悶の呻きをあげていた。なんとドーンの女性器には鋭い歯が生えており、それで男性のモノを噛み切ることができるのだった。予想もしなかった自分の能力(?)に戸惑いを隠せないドーン。しかし彼女がその能力を使いこなせるようになってからは状況が変わって…というようなお話。
「歯の生えた女性器」を意味する「ヴァギナ・デンタタ」という概念は劇中でも言及されるように昔から存在してたらしいんだが、寡聞にして知らなかったよ。「ドクター・アダー 」というSF小説にこれと似た展開が出てきたっけ。監督のミッチェル・リキテンシュタインはロイ・リキテンシュタインの息子でゲイな人らしいが、ゲイだからこういう発想が出てきたのかな。まあストレートな男性が観たほうが怖い思いをする作品ではあるが。男性器を噛み切られたからって必ずしも死ぬわけではないが、男としての存在理由のようなものが瞬時に消え去るというのは興味深いところですね。
ただし全体的に展開がまどろっこしいところがあって、主人公以外の人物の描写も薄っぺらいし、性的な目覚めを経験する若者たちの描き方なども物足りないところがあるのは確か。B級ホラーとして割り切ってしまえば十分楽しめるのだけど、カルト映画というかジェンダー研究の対象として優れた作品になった可能性があっただけに中途半端な出来になってしまったのが残念。クローネンバーグが監督してたらたいへん面白い作品になっていただろうに。ただドーン役のジェス・ウェイクスラーの演技は大変素晴らしいですよ。もっと注目されていい役者さんだと思う。
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