約1万8000人もの男女にセックスについてインタビューして性科学の分野の地平を開き、1960年代のいわゆるセックス革命のきっかけをつくったアルフレッド・キンゼイ博士の伝記映画「KINSEY」こと「愛についてのキンゼイ・レポート」をDVDで観る。邦題は大ウソなので、デートムービーと勘違いして恋人と観に行ったりすると非常に気まずくなると思うのでご注意を。日本ではボカシかけるのか? 1894年に生まれ、厳格なキリスト教徒である父親のもとで育ったキンゼイは、野生動物の生態に興味を抱き、やがてタマバチの研究で名を馳せるようになる。しかし結婚したときに妻とのセックスに失敗したこと(両者とも初だったのだ)などをきっかけに性科学に興味を抱くようになり、アメリカで一般的に考えられている「普通で正しいセックス」と実際に人々が抱いている性的嗜好がいかに大きくかけ離れているかをまとめた通称「キンゼイ・レポート」はアメリカ社会に大きな衝撃を与える。しかし彼の研究は議論の的となり、彼は保守系グループからの激しい批判にされされるのだった…というのが大まかなストーリー。
個人的にはこの映画が公開されるまでキンゼイ博士のことをまったく知らなかったのだけど、強い信念を持って研究を達成しようとする彼の姿をリーアム・ニーソンが好演。最近では「お師匠様」の役ばかり演じてる感の強いニーソンだが、むしろ「マイケル・コリンズ」とか「シンドラーのリスト」みたいな、苦悩する男性の役のほうがこの人には似合ってると思う。そして彼の研究に困惑しながらも(そりゃそうだろう…)、彼を陰で支える妻を演じるローラ・リニーもいい感じ。他にもオリバー・プラットやディラン・ベイカー、ジョン・リスゴーにウィリアム・サドラーといった実に濃いオヤジたちが続出します。そしてキンゼイの弟子を演じるピーター・サースガードに至っては、文字通り体を張った怪演を見せつけてくれる。
監督と脚本は「ゴッド・アンド・モンスター」のビル・コンドン。あの映画と雰囲気はよく似ているけど、密室劇だった「ゴッド〜」に比べ、こちらの作品はより幅の広いテーマを扱っている。文句があるとすれば、時間の都合のために、長年にわたるキンゼイの研究の光景をずいぶん省略したような感じがすることか。そのためキンゼイ博士が深い洞察力を持って入念に研究をした人なのか、むしろ猪突猛進的に進んでいった人のか、どうも分かりにくいところがあったかな。
あと題材が題材だけに、「真面目なジョン・ウォーターズ映画」(そんなものがあればだが)のように見えてしまうシーンもあって、ついゲラゲラ笑ってしまうこともあった。これも監督の意図か?
性がずいぶん開放された現在においても「キンゼイ・レポート」は論議の対象になっており、この映画が公開されるにあたってキリスト教団体からクレームが来たらしい。それだけ性と文化のタブーは密接に繋がっていると言うことか。でも観る人全員にとって何かしらの関連性をもった作品なので、観て損はしないと思う。
ちなみに観たDVDは2枚組で特典が大量に付いていて、キンゼイの研究をもとにしたテストなんてものも含まれている。それによると俺は「あんまり性的に興奮せず、(妊娠や性病とかの)リスクを考えてしまうと萎えるタイプ」だそうだけど、本当なんでしょうか。