かなり遅れての追悼という意味で…という訳でもないが、ビル・マーレーが故ハンター・S・トンプソンを演じた「WHERE THE BUFFALO ROAM」(1980)をDVDで観る。マーレーが「ゴーストバスターズ」以前、つまり比較的無名だった頃に出演した映画で、ストーリー上では主人公を演じているものの、クレジットのトップは相棒のカール・ラザロ(モデルはオスカー・アコスタ、つまり「ラスベガスをやっつけろ」のドクター・ゴンゾ)を演じるピーター・ボイルに与えられている。直接の原作となった記事(「THE GREAT SHARK HUNT」に収録されてるらしい)は未読だが、それなりにフィクションも含まれているようだ。
ストーリーはあってないようなもので、1968年のヒッピー裁判、70年のスーパーボウル、72年の大統領選挙などを背景に、当時「ローリング・ストーン」誌の名物記者だったトンプソンと異端の弁護士であるラザロの巻き起こす珍騒動を愉快に描いていく。酒とクスリでラリってばかりで、ホテルの部屋などを徹底的に破壊していくトンプソンの姿が面白い。面長のトンプソンに比べてマーレーって丸顔すぎる気もするが、周囲の迷惑を顧みずに自分流のゴンゾ・ジャーナリズムを貫くトンプソンの姿をうまく演じきってると思う。
ただトンプソンってその奇行ばかりが注目されがちだけど、ちゃらんぽらんな文章を書いているようで実はアメリカの政策や情勢に関する鋭い観点を持っていたからこそ人気があったわけで、この映画は彼の滑稽な部分だけにしか焦点を当てていないのが残念なとこだ。一応トイレで出会ったニクソンに演説らしきものをぶつ場面もあるのだけど不発に終わっている。テリー・ギリアムの「ラスベガスをやっつけろ」もそうだったけど、トンプソンの文章にある冗談と真剣さの微妙なバランスって、映画だとなかなか表現しにくいのかもしれない。現在は彼の数少ないフィクション小説「ラム酒日記」が「ウィズネイルと僕」のブルース・ロビンソン監督により映画化が進められてるらしいので、そちらに期待しよう。
ちなみに主題歌はニール・ヤングが歌っている。彼は作品中の音楽にも関わってるらしいのだが、なんかサエない曲が多いな…と思っていたら、どうもDVD版はオリジナルやビデオ版に比べて曲が差し替えられてるらしい。使用料の問題によるものだろうけど、元はヤングやジミ・ヘンドリックスの曲などがずいぶん使われていたらしい。何か損した気分。