リチャード・リンクレイターの新作で、実際にあった事件をほとんど脚色なしに映画化したもの。
舞台になるのはテキサス東部のカーセイジという小さな街。そこの葬儀屋に勤めることになったバーニー・ティードは死者や遺族への面倒見もよく、地域の慈善活動にも積極的に参加する男性でカーセイジの誰からも好まれていた。そんなときバーニーは夫を亡くしたマージョリーという老婆の面倒を見るうちに彼女と懇意になっていき、意固地でケチで親族とも仲が悪かったマージョリーも、バーニーに対しては心を開くようになっていく。しまいには「2人はデキているのではないか?」と噂されるほどの仲になり、マージョリーの遺産をバーニーが引き継ぐ約束までされるのだが、やがて彼女はバーニーをコキ使うようになり、彼に厳しく当たるようになる。これに耐えられなくなったバーニーは、彼女を射殺してしまうのだが…というような話。
劇中でバーニーは徹底した善人として描かれ、他人のためにあらゆることを尽くす彼は、マージョリーを殺したあとも彼女の財産を慈善活動に与えてしまうような始末。それに対してマージョリーは地域のみんなに嫌われていた意地悪ばあさんとして扱われ、やがてバーニーの犯罪が明らかになっても、街の人々は彼の無罪を信じて疑わない状態。これでは陪審員がみんな彼に同上してしまうと危惧した検察官が、裁判が行われる場所を遠くに移してしまうという前代未聞の行為に至るまでがコメディタッチで描かれている。
世話好きで皆に愛されるバーニーを演じるのがジャック・ブラックで、芸達者な主人公を好演。賛美歌を教会で歌ったりするんだが、やはり歌が入ると彼は非常に魅力的になりますね。そんな彼をどうにかして有罪にしようとする派手好きな検察官をマシュー・マコノヒーが演じていて、こないだの「マジック・マイク」なども含めて今年の彼は非常に芸風が広がりましたね。そして意固地なマージョリーを演じるのがシャーリー・マクレーンで、70代後半になってもキビキビと演技しております。ただ彼女ってコケティッシュな演技が似合うタイプだと思うので、ずっと仏頂面をしているのがちょっと残念。彼女とマコノヒーのかけ合いも見たかったな。
犯罪者があまりにも愛されていて、皆が彼の無実を信じているという特異性にリンクレイターは興味を抱いたらしいが、果たしてバーニーは悪人なのか、それとも法の仕組みが悪いのか、そこらへんが風刺としても深くツッコまれておらず、どうもテーマがぼやけてしまった感じがするのは俺だけだろうか。街の住人へのインタビューを多用した作りにしたのも理解はできるのだが、なんかドキュメンタリーっぽくなってストーリーの勢いを殺してしまっている気がする。なんか事件の始終をそのまま描いた感じになってしまっていて、もうちょっと脚色してでも話に起伏を持たせたほうが良かったんじゃないかと思うけどね。
なお検察官の作戦は成功して、バーニーは殺人と横領の容疑で終身刑を下されて現在服役中。刑務所でも料理教室などを開催して善人ぶりを発揮してるらしい。日本でも老人を介護する人たちが増えるにつれ、これに似た事件が起きてくるかもしれませんよ。