「PENINSULA」鑑賞

「半島」こと「PENINSULA」は英題で、邦題は「新感染半島 ファイナル・ステージ」で来年1月公開?邦題から分かるように日本でもヒットした「新感染 ファイナル・エクスプレス」の続編。監督は前作と同じくヨン・サンホだが、キャストは一新されている。以下はかなりネタバレ注意。

舞台は前作から4年後。韓国はゾンビが蔓延する土地になり、世界から隔離された国となっていた。元韓国軍兵士のジョンソクは隔離前に国外へ脱出できたものの、脱出する船のなかで姉と甥をゾンビによって殺され、今は香港で市民権も与えられずにあてもなく暮らしていた。そんなある日、彼は裏社会の人間に、韓国で乗り捨てられたトラックにUSドルが大量に積まれているという話を聞き、韓国に潜入してそれを奪還してくるよう依頼される。そこでジョンソクは義兄(姉の夫)たちとともにインチョンへ潜入するが、そこではゾンビに加えて韓国に残された民兵集団の631部隊が跋扈していた…というあらすじ。

(そもそも4年のあいだ、大量のゾンビたちは何を喰って生き延びてたんだ?という野暮な質問はなしにする。)

これ前作の評価が高かったのは、釜山に向かう列車という状況において徐々に日常の生活に歪みが生じていく描写と、老姉妹や夫婦といった人々がゾンビによって急に悲しい別れを迎えてしまうという「泣き」の展開があったことなのだと思うのですね。それが今回はゾンビが存在するのが日常という世界の話だし、冒頭の姉のような別れはあるものの、前作のように「突然理不尽な不幸に見舞われる」という悲しみはなし。

また前作の主人公は一介のビジネスマンだったが、今回のジョンソクは元兵士ということでケンカ強いし銃も使える強いやつ。一般人がゾンビ相手に奮戦するというシチュエーションがなくなって、「バイオハザード」のような典型的なゾンビアクション映画になってしまった。ソウルを支配する631部隊にしても一般人とゾンビを競技場で戦わせて楽しむヒャッハーな人たちで、なんかすごいありきたりなんですよね。(ちなみに部隊をいちおう取り仕切ってる隊長が、バブル時代の原宿にいたようなシティボーイ(死語)の格好をしてるのだけど、いまの韓国ってああいうファッション流行ってるのか?)

クライマックスでは乗り捨てられた車でいっぱいだったはずの道路が突然ガラ空きになって、インチョンの港までのカーチェイスが繰り広げられるのだけど、そこで「マッド・マックス」やられてもなあという感じ。車がCG処理されてるので、微妙に重量感がなくてアクションがチャチなのよな。前作は列車を追いかけるゾンビとか、もっと緊迫感があったのに。

なお話の冒頭では北朝鮮が国境封鎖によりゾンビの被害を受けていないことが示唆されていて、そこがストーリーに絡んでくるかな…と思ったら何もなかった。展開によっては面白そうな要素なんだがなあ。

最後の伏線はちょっと面白かったし、アクション描写もアジアのゾンビ映画でここまで出来るんだ、という印象は受けたので、ゾンビ映画としては決して悪い作品ではないと思うのですよ。単発の映画として観れば及第点はあげられるくらい。しかし前作が傑作だった故に、常に前作と比べつつ観てしまい、そしてその期待に応えることができなかった、ある意味不遇な作品であった。

「HAPPIEST SEASON」鑑賞

米HULUのオリジナル・ムービーで、まあ名前から分かるようにクリスマスをテーマにしたロマンティックコメディ。

アビーとハーパーは街で一緒に暮らすレズビアンのカップル。クリスマスに帰省するハーパーはアビーに一緒に自分の実家に来るように誘うが、実はハーパーの一家は由緒ある保守的な家庭で、父親は市長に立候補を検討しており母親もハイソなタイプ、ふたりの姉ともハーパーはあまり仲が良くなかった。そんな一家だったからハーパーは自分がレズビアンであることを実は明かしておらず、アビーにもただのルームメイトとして振る舞うように懇願する。恋人と親密になれずその家族にも冷遇されて落ち込むアビーだったが、さらにハーパーの元彼氏と元彼女まで現れて…というあらすじ。

まあユリユリなカップルが災難に巻き込まれ、一時はケンカするもののやがて再びお互いの愛を確かめ合う…という王道のようなストーリーが繰り広げられる映画。ホリデー・ムービーだから最後はこれでもか!というくらいの大団円を迎えたりするのですが、いいんだよそれで!このしみったれた2020年の最後(11月だけど)にこんな映画があったって!というわけで現地の視聴者の評判はずいぶんいいみたいです。

キャストは非常に豪華で、主人公カップルにクリステン・スチュワートとマッケンジー・デイビス。ほかにもアリソン・ブリーやオーブリー・プラザ、ビクター・ガーバーにメアリー・スティーンバージェンなど。ダン・レヴィ演じるアビーのゲイの友人がいい役やってんなあと。あとUCB出身のメアリー・ホーランドという役者が脚本を描いているのに加えてハーパーの姉を演じてるのだけど、顔の輪郭がマッケンジー・デイビスに似ていて妙に似合ってました。監督も女優のクレア・デュヴァルで、確かに女性受けしそうな出来になってましたね。

傑作かというとそういうわけでもないのだけど、そのテーマといい、これからクリスマスの定番としてカルト人気を誇ることになるかもしれない作品。

「THE NEW MUTANTS」鑑賞

FOXの「X-MEN」系列の作品でありながらディズニーの買収騒動に巻き込まれて2年間も公開延期になってたもので、冒頭にFOXのおなじみのファンファーレが鳴るのに出てくるロゴが「20世紀FOX」ではなく「20世紀スタジオ」となっていたのには1つの時代の終わりを感じてしまったよ。以下はかなりネタバレしてるので注意。

ネイティブ・アメリカンのダニエル・ムーンスターは超常的な存在によって居住地が破壊され、唯一の生き残りとして病院施設に収容される。そこではセシリア・レイズ医師の指導のもと、4人のティーンが暮らしていた。ダニエルは自分が他の4人と同じく特殊な能力を持ったミュータントであることを告げられ、Xメンのようになるべく自分たちの能力をコントロールすることを学ぶため施設に収容されていると伝えられる。しかしレイズ医師の行為はなにか不自然なものがあり、さらには施設内では不気味な現象が起きるようになるのだった…というあらすじ。

原作は80年代に登場した同名のコミックで、次なる世代のXメン候補として集められた若きミュータントたちの活躍を描いたもの。90年代にアーティストがロブ・ライフェルドになったことでタイトルが「Xフォース」になったことはアメコミファンにはお馴染みですね。

映画に登場するのはダニエル・ムーンスター(ミラージュ)のほか、狼に変身するレイン・シンクレアー(ウルヴズベイン)、飛行能力を持つサム・ガスリー(キャノンボール)、太陽光をパワーに代えるロベルト・ダコスタ(サンスポット)といったオリジナルメンバーの面々。オリジナルメンバーとしてはサイキックパワーを持つシャン・コイン・マン(カルマ)が唯一登場してなくて、代わりにあとから入ったメンバーであるイリアナ・ラスプーチン(マジック)が出演している。

マジックは人気キャラだから登場したのも理解できるのだけど、テレポート能力に加えて魔法が使えるというのがミュータントっぽくなくて個人的にはあまり好きじゃないんだよな。カルマが登場しないのは、サイキック・パワーという絵的には地味な能力を持っているからかもしれない。しかし実は高速で飛行するキャノンボールが、隔離された施設という設定にいちばん合ってなくて、ろくに能力を披露できてないのであった。空を飛ぶキャラとそうでないキャラの組み合わせってコミックよりも映像のほうが難しいのかもしれない。

監督が「きっと、星のせいじゃない。」のジョシュ・ブーンということもあり、ティーンの男女を主人公としたヤングアダルト路線を狙ったのかな?パワーをコントロールできない若者が情緒不安定になる描写とか、原作にはない同性愛的な要素とかがそれっぽいのだけど、その一方で監督はどうもホラー映画を撮りたかったらしく、最初の予告編とかポスターは確かにそれっぽい雰囲気が出ていた。しかしディズニーがあとから注文をつけたのかずいぶん後に再撮影が行われ、ホラー的な要素も薄まって、結局のところ何をしたいのかよく分からない中途半端な作品になってしまった。同じくFOXの「ファンタスティック・フォー」もそうだったけど、いろいろ手直しが入ったんだな、と観ていて分かってしまう作品というのは決して面白いものにはならないですね。

話のベースになってるのは原作の「THE DEMON BEAR SAGA」のあたりだが、あれはビル・シェンキヴィッチの幻想的なアートがうまくスピリチュアルな話に合っていたから評価が高いわけで、それをただ設定だけ持ってきてクマを出されても困ってしまうのだクマ。

キャストは多国籍なキャラクターにいちおう配慮して、ダニエル・ムーンスター役にはネイティブ・アメリカン系のブルー・ハントを、ブラジル系のロベルト・ダコスタにはブラジル人のヘンリー・ザガをキャスティングしてるのだが、ヘンリー・ザガの肌がずいぶん白くてコミックに似ていないことは原作者のひとりであるボブ・マクレオドも批判してたな。いつもはいい演技をみせるアニャ・テイラー=ジョイも、ロシア人のマジック役を演じてるためロシア訛りのセリフが耳障りであったよ。

いちおう他の「X-MEN」映画とのつながりも示唆されてるが、これがFOXとして最後の「X-MEN」作品になるため、そこらへんの伏線は回収されないままになるんでしょう(そもそもエセックス社の黒幕ってあんま怖くないヴィランだしぃ)。長年の人気を誇ったシリーズがこうして地味に終わってしまうのは寂しいが、いずれディズニーが「X-MEN」を復活させるときは「フューチャー&パスト」くらいの傑作を作ることができるのだろうか。

「MANGROVE」鑑賞

前作「WIDOWS」が日本では変な邦題をつけられてDVDスルーの憂き目にあったスティーブ・マックイーンだが、なんと映画を5本撮ってBBCで毎週放送するという企画を立ち上げてしまった。ボブ・マーリーの歌詞から名をつけた「SMALL AXE」というアンソロジー・シリーズで、シリーズとはいえ70分から120分くらいのイギリスにおける人種問題をテーマにした映画が撮られ、1つはフィクションであとの4つは実際の出来事をテーマにしたものらしい。

そしてその一本目がこの「MANGROVE」。マングローブ・ナインと呼ばれる黒人9人の法廷での闘いを題材にしたものらしいが、そんな事件があったなんて全く知らなかったよ。

舞台は60年代後半のロンドンはノッティング・ヒル。トリニダード生まれの黒人フランク・クリクロウは西インド諸島料理のレストラン「マングローブ」を開店し黒人コミュニティの憩いの場になるが、黒人を快く思わない警察によって住民たちは嫌がらせを受け、マングローブも何度も立ち入り検査を強制されて物品が破壊される。これに怒った住民たちはプラカードを掲げて警察署へデモ行進するが、事態はエスカレートして警察官との抗争が生じてフランクたちは逮捕されてしまう。そして自分たちの正当性を証明するために彼らは法廷でも闘うことを決意するのだが…というあらすじ。

前半は警察の横暴に苦しむ住民たちが描かれ、後半は法廷ドラマになっているが話の盛り上げ方が上手いので124分という尺でも中だるみせずに観ていられる。法と闘う主人公、という点ではマックイーンのデビュー作「HUNGER」に近いものがあるかな。逮捕された9人のうち何人かは自分で弁護をすることを選び(ここらへんイギリスの法制度がよく分からんのだが)、自らの言葉で警察の横暴を糾弾し正義を訴えるところが格好いいのよ。裁判の結果は当然歴史に刻まれているわけだが、何も知らずに観た方が面白いかもしれない。

フランク・クリクロウを演じるのはショーン・パークス…って知らない役者だなぁ。出てる作品はいろいろ目にしてるはずだが。「ブラック・パンサー」のレティーシャ・ライトがブラックパンサー党員としてフランクと一緒に逮捕される女性を演じている。なおもう一人逮捕された方の女性の息子は、いまアイランド・レコードの社長なんだそうな。あとは彼らの弁護士をジャック・ロウデンが演じてます。音楽をミカ・レヴィが担当してるのだけどレゲエのスタンダード・ナンバーがよく流れるのであまり目立たなかったっす。

この「SMALL AXE」、今後はジョン・ボイエガが主役を務めるエピソードなどもあるそうで、なかなか面白そう。イギリス外ではアマゾンが配信するらしいけど、日本でもやるのかね?

「TOTALLY UNDER CONTROL」鑑賞

アメリカで21万人以上の死者を出しているコロナウィルスことCOVID-19のパンデミックに対するトランプ政権の対応のマズさを暴いたドキュメンタリーな。

監督はサイエントロジーを扱った「ゴーイング・クリア」のアレックス・ギブニーなど3人が関わっていて、パンデミックに対応した医療関係者やCDC(アメリカ疾病予防管理センター) のスタッフにカメラを送りつけて、遠隔から行ったインタビューをもとに、今年のはじめに中国でウィルスの発生が報じられてからアメリカでは何が起きていったのかが時系列に沿って語られていく。2時間と長めの尺だが、要点はつまり:

  • CDCの現場スタッフは優秀で、みんな頑張った
  • でもCDC(の上の保健福祉省)のトップが政権の顔色をうかがって、強い対策を提言しなかった
  • トランプ政権の対応は無能だった

といったもの。オバマを含む歴代の大統領はパンデミックが起きたときに備えたマニュアルを作成していたし、2019年にも中国からのウィルス発生を予想したCRIMSON CONTAGIONという模擬訓練が保健福祉省で行われ、アメリカの対応の問題点などが指摘されていたものの、市場の自由主義を優先したいトランプ政権のもとでそれらの教訓は生かされることがなかった。

CDCのスタッフは今年の初めの時点でCOVID-19の危険性に気付き、現場関係者だけでメーリングリスト(映画「若き勇者たち」にあやかってRED DAWNメールと呼ばれた) を作って情報をやり取りしていたものの、保健福祉省のトップのアレックス・アザーはトランプに強い対応を提言せず、トランプも当然ながら経済に悪影響を与えるようなことはしたくないから大したことはせず、そうしているうちにウィルスが国内で蔓延していく。

主にアメリカ国内での対応の解説に時間が割かれているので、中国でなぜウィルスが発生したのか、などといった説明は殆どなし。WHOの対応についてもあまり語られてはいない。一方では韓国がMERSの経験を生かして、いかに早期にCOVID-19を押さえ込んだかについては繰り返し称賛がされていた。日本についてはダイヤモンド・プリンセス号の客員の間で感染が広がったことから、これは集合住宅のような環境でも蔓延するウィルスだとアメリカの科学者が気付くきっかけになったらしい。

トランプ政権を名指しで批判しているわけではないが、まあ関係者の話を聞けば政権の対応がいかにマズかったかは明白でしょう。CDCが医療機関に送った検査キットに不備があった際もすぐに対策を指示しなかったので検査が遅れたとか、医療機器の流通のコントロールをしなかったので価格が暴騰したとか、いろいろ怖い話が語られます。政権に従わずにコメントをした科学者たちがスタッフから外され、医療の経験を持たない人たちに差し替えられるあたりは、日本の学術会議の件に通じるものがあるのでは。

まだ収まってないパンデミックに関するドキュメンタリーということで、明確なオチがあるわけではない(ボブ・ウッドワードの暴露とかトランプ自身が感染したことは最後に少しだけ言及される)。いずれまた、より長いスパンで物事をとらえたうえで、パンデミックで何が起きたのかを検証するドキュメンタリーが作られるのでしょう。