「STARGIRL」鑑賞

有料サービス「DC UNIVERSE」の新作シリーズ…なのだが1日後には地上波のTHE CWで放送されることになっていて、ますますDC UNIVERSEの存在意義が薄くなっているような。

90年代末のDCコミックス作品「Stars and S.T.R.I.P.E.」をベースにした番組で、第1話の脚本はコミックと同じライターのジェフ・ジョンズ。コートニー・ホイットモアは幼い時に父親が疾走したせいか少し内向的な少女で、母親がパット・デュガンという男性と結婚したことでネブラスカの田舎町ブルーバレーに引っ越してくる。そこで彼女はパットがスターマンというスーパーヒーローのサイドキック(相棒)だったことを知り、さらにスターマンの形見であるコズミック・スタッフを発見し、空を飛べるその杖を持って冒険に出かける。しかしブルーバレーには、スターマンが属していたジャスティス・ソサイエティを壊滅させたグループのメンバーが住んでいたのだった…というあらすじ。

アメコミ読んでいたほうが当然いろいろ楽しめるわけだが、初心者にも分かりやすい内容になってると思う。ジャスティス・ソサイエティというのはジャスティス・リーグに先んじるスーパーヒーローのチームで、スターマンのほかにドクター・ミッドナイトとかワイルドキャット、アワーマンといった人たちがいました。その宿敵がインジャスティス・ソサエティという悪者グループで、メンバーはアイシクルにブレインウェーブ、スポーツマスターなど。後述する「スターマン」の重要なキャラであるシェイドの存在が示唆されるシーンもありました。

コートニーが使用するコズミック・ロッドというのは星から降り注ぐパワーを溜めて、飛行やビーム発射などを可能にする杖のことでして、コミックでは90年代の傑作タイトル「スターマン」(おれ全冊持ってます)の主人公スターマンことジャック・ナイトからコートニーは譲り受けるのだが、番組ではジャックは登場せず。逆に番組のスターマンことシルベスター・ペンバートンはコミックだとスカイマンと名乗っててスターマンだったことは無いぞ…というのは野暮なツッコミですね。なおコミックと違ってコズミック・ロッドは意志があるような設定になっていて、コートニーにじゃれたりしてます。

そしてスターマンの年長の相棒だったパットの正体はストライプシーという元B級ヒーローで、年を取ったいまはストライプという巨大ロボットに乗り込んでコートニーのサポートをすることになる。DC UNIVERSEの番組って「アローバース」の番組よりも予算があるのか、ストライプをはじめとする特殊効果はなかなか良くできていました。

第1話は典型的なオリジン話といったところで、コートーニーがスターガールの衣装を着たりもしないのだけど、上のポスターなどから察するに、彼女の他にも新たなワイルドキャットやドクター・ミッドナイトたちが登場して、新しいジャスティス・ソサイエティ(それって「インフィニティ・インク」では?)を結成することになるみたい。ほかにもセブン・ソルジャーズ・オブ・ビクトリーが登場するとかしないとか。ティーンのヒーローたちが田舎町で悪と戦うあたりは「バッフィ」を彷彿とさせ、そこらへんはTHE CWの観客と相性がいいんじゃないですか。ストーリーは意外と暗くなっていくらしいけど。

コートニー役はブレック・ベイシンガー。知らない役者だったけど20歳にして結構な数のTVシリーズに出演してるみたい。パット役がルーク・ウィルソンで、ちょっと気弱なパパ役が似合ってます。あと死んでしまったスターマンをジョエル・マクヘイルが演じていて、今後はフラッシュバックとかで登場してくるのかな。

原作者が脚本を書いているだけあって手堅いストーリー展開になっているし、コミックのファンにはいろいろ楽しめる番組になりそう。とりあえず続きも観てみます。

「スノーピアサー」鑑賞

TNTの新シリーズで、言わずと知れたポン・ジュノ監督の同名映画のTVシリーズ版。日本でもNetflixでやるのね。数年前に製作は発表されてたのだがスタッフの交代とかいろいろあって放送がえらく遅れたわけだが、結果としてその間にポン・ジュノがアカデミー賞獲ったりしてるわけで、ケガの功名になるのかな。

話の設定は映画版とほぼ同じで、地球温暖化への対抗措置が失敗して凍てつく星になってしまった地球において、永久期間によって走り続ける列車「スノーピアサー」の中で暮らす最後の人類たちの抗争を描いたものになっている。映画版は列車が15年くらい走り続けてるのに対し、こっちは7年くらいの設定なのかな?

スノーピアサーを設計した謎の人物ウィルフォード氏以外は登場人物はみんな映画版と別だが、列車の最後尾には劣悪な環境で暮らす貧民たちが収監され、先に進むにつれて住人の待遇が良くなっていくというのは映画版と同じ。

主人公のレイトンは列車の最後尾で暮らす男性で、より良い生活環境を求めて仲間たちと共謀して管理者たちに蜂起する予定だったが、なぜか彼だけが呼び出されて上層部のもとに連れて行かされる。実は彼はスノーピアサー乗車前は殺人課の刑事を務めており、列車のなかで(連続)殺人事件が起きたことから、それを調査するために抜擢されたのだ。そして彼は貧民たちの生活の向上と引き換えに、調査を引き受けるのだが…というあらすじ。

映画版は列車の後ろからただ前に行くという、ある意味ではストレートな話だったが、こちらはミステリの要素が加わって面白くなりそう。レイトンには車両のあいだを自由に行き来する権限が与えられる一方で、貧民層を抜け出した彼の元妻、さらには謎めいたウィルフォード氏なども絡んできて、スノーピアサーにまつわる謎が明かされていくみたい。

このスノーピアサーはなんと1001車両あるという設定で、移動するだけで日が暮れそうな代物なのだが、女性スタッフがヒール姿で気楽に歩き回ってるんだよな。すべて屋内で話が進む作品だが、温室の車両や水族館の車両などもあって環境のバラエティは豊か。しかしセット代を節約したのか各車両の幅が映画版に比べて狭いような?人のすれ違いとかが窮屈そうだったぞ。映画版が営団地下鉄ならばこっちは都営大江戸線の車両というか。あれで24時間通勤してたら暴動を起こしたくなる気も理解できるな。

レイトン役には「Blindspotting」のダビード・ディグス。でっかいドレッドヘアが気になるのだがずっとあの姿でいるのかな。彼に捜査を依頼するスノーピアサー上層部の管理係にジェニファー・コネリー。シーズン2の製作もすでに決まっていて、ショーン・ビーンが登場するとか?

放送されるまでのゴタゴタがいろいろ報じられた作品だけど、第1話は意外と面白かったですよ。いかんせん話の舞台が限られた内容ではあるもので、これからどうやってストーリーを引っ張っていくんだろう?

「THE GREAT」鑑賞

米HULUの新作ミニシリーズ。ロシア皇帝ピョートル3世とその妻キャサリン・ザ・グレートことエカチェリーナ2世の仲違いを描いたコメディ風味の作品で、「*ときどき事実に基づいた話」とタイトル画面に出てくるように、必ずしも歴史に忠実ではなくて脚色が多分にされてるみたい。

ストーリーはキャサリンの生い立ちとかを全部すっとばして彼女がピョートルに嫁ぐところから始まる。ロシアの王妃になれると心をときめかせて宮殿に向かった彼女だったが、ピョートルは飲んだくれの遊び人でキャサリンのことなどろくに気もかけず、ただ後継ぎがほしいために初夜もさっさと済ませるようなズボラ男だった。宮廷社会もピョートルの機嫌を伺って遊び戯れる貴族ばかりで、哲学書を愛読するキャサリンは疎外感を感じるばかり。女性向けの学校を作ろうとした彼女の試みも阻害され、さらにはピョートルに殺されかけたことでキャサリンと彼の仲は急激に悪化。彼が亡くなれば自分が女帝になれることを知ったキャサリンはクーデーターを模索するのだった…というあらすじ。

個人的にはロシアの歴史などまったく明るくないので、話がどこまで史実に基づいているのか分からないのですが、先日もヘレン・ミレン主演でエカチェリーナ2世のドラマが作られていたことからも、彼女って欧米ではネタにしやすい題材なのだろうな。

脚本は「女王陛下のお気に入り」のトニー・マクナマラ。宮廷社会で陰謀を画策する女性の話、というのが得意なんでしょうね。「お気に入り」はヨルゴス・ランティモス作品としてはずいぶん平凡な気がしてそんなに良いとは思わなかったものの、こちらの番組の方はエゲツない下ネタとかも散りばめられていて面白いですよ。

キャサリンを演じるのがエル・ファニングで、自分の理想がすぐさま打ち砕かれる女性を好演。対するピョートル役がニコラス・ホルトで、自分の置かれている環境とかを理解せずに本能のままに振る舞うさまは「マッド・マックス」のウォーボーイを彷彿とさせますな。あとはキャサリンの味方/愛人になるオルロフ役に「ドクター・フー」のサッシャ・ダーワン。当然ロシアの貴族にインド系などいたわけないので、キャスティングにはずいぶん脚色が入ってます。あと侍女役のフィービー・フォックスって綺麗な人ですね。

約55分のエピソードが10話と比較的ボリュームの多いシリーズで、とりあえず2話まで観たけど、このあとは宮廷ドラマが続くだけではなく、キャサリンによるクーデターが実際に描かれたりするのかな?時間があれば残りの話も観てみます。

https://www.youtube.com/watch?v=hJGedvRfHYg

「FAST COLOR」鑑賞

1年くらい前にアメリカで公開された低予算SF。プロットの深いところまで書くので以下はネタバレ注意。

舞台は近未来、8年間も雨が降っていないアメリカ中西部。水が貴重な社会において、ルースという女性が逃避行を続けていた。彼女は発作が起きると巨大な地震を誘発するという特殊な能力の持ち主で、自分がコントロールできないその能力が周囲に迷惑をかけないように、そして彼女の能力を狙う科学者たちから逃げるために旅を続けていた。しかし彼女も根気が尽き、かつて家出した我が家へと戻ってくる。そこには母親のボーと、ルースが置いていった娘のリラが暮らしていた。彼女たちもまた特殊な能力を持つ者たちであり、ルースをかくまうが、彼女を狙う科学者たちも近づいていた…というあらすじ。

特殊能力を持った人の逃避行、という点では「ミッドナイト・スペシャル」に似ているけど、ルースが家に着いてからは女性三人の家族ドラマみたいになる。超能力バトルみたいなものはなくて、もっと叙情的な内容かな。現地では黒人向けの映画を扱う配給会社が配給したらしいが、人種的なテーマは特になし。知的なSF小品といった感じで、結構楽しめました。

ルースを演じるのがググ・バサ=ロー。自分の能力をコントロールできず、娘の世話もできない情緒不安定な役回りなのでちょっと損をしてるが、そんな彼女を黙って受け入れる母親役をロレイン・トゥーサントが演じていて、こっちが主人公じゃね?と思うくらいに大変よい演技でした。町の保安官をデヴィッド・ストラザーンが演じていて、個人的には大好きな役者なのであります。

監督はジュリア・ハートで、タフな女性たちの描き方は女性監督ならでは…と言ったら差別的かな。でもしっとりとした演出とか、最後の美しいクライマックスは良かったですよ。102分という比較的短い尺のためか、雨の降らない世界の描写は中途半端だったし、ルースたちの能力も説明不足だった感は否めないが、この映画をもとにしたTVシリーズがアマゾンで企画中だそうな。いろいろ掘り下げれば面白くなりそうな設定なので、シリーズのほうにも期待しましょう。

アメコミの流通の危機について

久しぶりにアメコミについて書いてみる。いま現在アメコミ業界が面している大きな危機についていくつかの記事を読んで自分なりにまとめてみましたが、流通の仕組みとかを完全に把握してるわけではないので、修正すべき点とかあればtwitterかコメント欄でお知らせください。

アメコミの新刊を追っている人ならすでにご存知だと思うが、アメリカではここ1ヶ月くらい新刊が発行されていない状態が続いているのですね。DCやマーベルだけではなく、イメージやダークホース、ヴァリアントといった他の出版社の作品もみんな新作が止まってしまっている。その直接の原因は他の多くのビジネス同様にCOVID-19コロナウィルスにあるわけだが、同時にアメコミの流通システムが抱えていた問題を浮き彫りにしたとも言えよう。まずは発行が止まった理由を順に説明していくと:

  • コロナウィルスによるロックダウンを受けて、コミックショップの多くが休業したか、営業したとしても客が来なくなった。
  • このために各店の売り上げがガクンと落ち、取次業者であるダイヤモンド・コミックスに新刊の注文ができなくなった。
  • それを受けてダイアモンドは、DCやマーベルといった出版社に新刊への支払いをしないと発表した。

というのが大まかな流れ。ここでアメコミの流通について説明しておくと、アメコミは(今でも)書店で売られるようなものではなく、ニューススタンドやドラッグストアで売られる定期刊行物だったわけですね。それが70年代にオイルショックなどの影響で売り上げが落ち、業界が危機に陥った時に登場したのが、コミックの専門店(小売店)であるコミックショップに取次業者が納品する「ダイレクト・マーケット」という流通形態。これの説明はウィキペディアを読んでもらうとして、要するにコミック専門店に返本不可でコミックを販売することで取次業者は毎月それなりの売上を見込めたし、専門店も高い値引率で取次業者からコミックを仕入れることができたわけ。ただし返本ができないために、専門店は毎月それなりの見通しを立てて新刊の冊数を注文しなければならないという、半ばバクチみたいなことが続いていたシステムなのですよね。

そしてアメコミの取次業者として圧倒的なシェアを誇るのが、スティーブ・ゲッピ率いるダイヤモンド・コミックス・ディストリビューターズ。DCやマーベルといった大手出版社と独占配給契約を結び、全米のコミックの取次の99%を占めるという寡占企業。なぜこれが独占禁止法の対象にならないかというと、コミック市場は小さすぎて寡占の対象にならない、というのがゲッピの言い訳だそうな。90年代には倒産する直前でバブル気味だったマーベルが、業界3位の取次業者を買収してダイヤモンドに対抗しようとしたものの、あえなく敗退している。とにかくダイヤモンドが取次をストップしたら全米のコミックの流通が止まる、というのが今回の事例で明らかになったと思う。

でも今や電子書籍の時代ですから、小売店などを飛ばしてデジタル・フォーマットで新刊を発行すればいいんじゃね?とは誰もが思うところで、例えばDCコミックスはちょっとデジタル先行の新刊を出してたりする。「AV CLUB」の記事もデジタルコミックこそが主流になるべきだという論調だが、コミック専門店というのは(特に大手の)出版社にとっては重要な顧客であり、足蹴にできない存在なのですよね。実際にDCは小売店を助けるために25万ドルを寄付したりしている。デジタル出版に重きを置いてしまうと専門店からクレームが来てしまうわけで、そのために出版社は新刊の製作を停止。アメコミの製作は基本的に分担作業だからソーシャルディスタンシング向きだと思ったけど、皮肉な結果になってしまいましたね。

そもそも何でコミック専門店は重要な顧客なのか?これはどうも現在の出版社の売上の大部分はコミックそのものではなく、アパレルやトイといった、コミック専門店で売られている(当然ダウンロードできない)商品で成り立っているかららしいのですね。業界最大手の小売店であるマイルハイ・コミックスの社長曰く、新作のコミックスの売上は全体の20%以下で、収益はほぼゼロなのだとか。でもマーベルなんて映画でガッポリ儲けてるやん?とも思うけど、コロナウィルスの影響で親会社の株価もドーンと下がっていて、出版の方にお金がまわってきてないらしい。

とはいえいつまでも新刊を出さない訳にはいかないので、ダイヤモンドは5月20日を目安に取次を再開すると発表。あくまでも目安ですが。またDCやアーチー・コミックスなどの出版社は返本を許可したり、小売店が取次業者も兼ねるようになって(この仕組みがよく分からんのだが)、ダイヤモンドを経由しなくても新刊を届けられるようになるそうな。

とはいえアメコミ業界は過去にも多くの危機に瀕してきたわけで、今回も何らかの形で生き残ることはできるでしょう。他の多くのビジネスと同様、コロナウィルスが収束したあとにビジネスモデルがどれだけ変わってるかを推測するのは難しいのだが、おそらく取次にあたってのダイヤモンド一強というモデルは崩れてくるのではないかと。ダイヤモンドも別に悪い会社じゃないけど、1つの会社に頼りすぎるのは経済的に健全ではないでしょ。

また多くのところで目にした意見は、いま紙で出版されているコミックのタイトルが多すぎるというもので、これは「商品」を大量に売り付けて(バリアント・カバーみたいなギミックで誘って)小売店から売上を得るダイヤモンドの姿勢を反映したものだけど、これをきっかけに紙のコミックは減ってデジタルに移行していくのではないだろうか。しかしその場合、コミック・ショップにやってくる新刊が減って、新たなカルチャーに触れるところではなく、アパレルとトイと昔のコミックが並ぶ、マイルハイの社長が言うような「ポップカルチャー再利用センター」になってしまうのではという一抹の不安を抱かずにはいられないのです。