トロント考

トロントにいられるのもあと2日ほどなので、とりあえず「まとめ」のようなものを書いてみる。意見のある人はコメント欄に記入するように。まずはトロントの感想を。 過去に住んだことのあるイギリスとかアイルランドに比べると、トロントは良くも悪くも非常に無味乾燥な土地である。近代的な観光名所はCNタワーくらいしかないし、歴史的な建造物なんてのはゼロに等しい。歴史の浅いトロントにおいては最古の建物といってもせいぜい18世紀後半に建てられたもので、16世紀もしくはぞれ以前の建物が数多く存在するケンブリッジやダブリンと比較すると非常にちゃちなものに感じられてしまう。そして通りには新しい店が建ち並び、街全体が1つの大きな商店街のようになっている。どこまで行ってもそれなりに店が並んでるのは便利であるものの、所沢プロペ通りが観光名所とは遠くかけ離れているのと同様の理由で、全体的にチープな雰囲気が漂ってるのは否めない。基本的にカナダには歴史の重みが感じられないのだ。

でも国の歴史が浅いというのはメリットもあるわけで、それがカナダにおいては「移民のしやすい国」という形で現れているのではないか。インディアンやイヌイットたちを除けば長らくこの国に住み着いている人たちがいないわけで、日本なんかに比べると住民同士のしがらみのようなものがごく僅かにしか感じられないのだ。今まで訪れた都市のなかでも、トロントはおそらくいちばん人種が混じり合っている所だと思う。ニューヨークなんかも人種のるつぼだけど、あそこは英語系とヒスパニック系が比較的明確に別れているのに対し、トロントは白人も黒人もアジア人も皆が英語を話して仲良く暮らしてるという印象が強い。チャイナタウンやコリアンタウン、インディアンタウンといった異国情緒に溢れた区域もあるものの、特に排他的にならずに他の人種の人たちとうまくやっているようだ。

そして他国でそれなりの人種差別を経験したことのある自分から見ると、これってものすごく素晴らしいことだと思う。異国から来た者にとっては、特定の人種だけで成り立ってるようなところよりも、いろんな人種が仲良く住んでるところのほうが気楽にとけ込み易いのは言うまでもない。そしてトロントは人種の多様化を積極的に支持しているようなところがあって、それには非常に共感が持てるのです。自分と異なる人間を変に排他的に扱うよりも、「ま、いいじゃないの」という感じで受け入れたほうが、いずれ自分のためにもなると思うんだがなあ。そして人種の多様化を受け入れていくうちに、思想や性的嗜好(同性愛とか)とかも受け入れるようになるようになり、いろんな人間がお互いの多様性を許容しながら暮らしていく、というのは国家の理想的な形だと思うんですが、どうでしょうか。

これに比べて日本は国民の統一性が重視されがちだから、ちょっと政府の方針に異議を唱えただけで「反日」だの「亡国」だの言う輩が存在するが、政府に反対意見を言っただけで国が潰れるようなら、イギリスなんて何度も潰れてますって。アラン・ムーアがかつて、「統一は力なり」という考えはいずれ「均一は力なり」に転じてファシズムにつながる、みたいなことを言ってたがその通りだと思う。アメリカだって現在は「俺の味方じゃない奴はみんな敵だ」みたいなことを大統領が言うようになったけど、かつてはトマス・ジェファーソンが「異議を申し立てることは、最大の愛国心の形式である」なんて言ってたんすよ。

もちろんカナダと日本は歴史から国土面積から人口から他国との関係に至るまで非常に多くのことが違うわけで単純に比較することはできないし、トロント以外の地方の人種の比率がどんなんだかも知らないけど、もうちょっと日本も(サブカルチャーとかじゃなくて)多様性を培ってもいいんじゃないの、と考える次第です。現在のところは移民する気はないので日本に帰るけど、もし日本での生活が本当に窮屈になったら、その際はトロントに移民することを選ぶだろう。それまでにカナダが排他的な国になっていないことを願うばかりである。

「MIX TAPE: THE ART OF CASSETTE CULTURE」

こないだ序文(短縮版)をちょっと訳してみた、サーストン・ムーアが編集した本「MIX TAPE: THE ART OF CASSETTE CULTURE」を書店にて立ち読みする。カセットテープを模したハードカバーの中にミックス・テープの写真とかコラージュがベタベタ載せてあって、写真の隙間に文章がちょろっと書かれているという、まるで日本のサブカルチャー誌のような俺のもっとも嫌悪するデザインになってるのには幻滅した。 でもマイク・ワットとかジム・オルークとか、相変わらずの面々がミックス・テープについていろいろ論じてるので一読する価値はあるかと。ディーン・ウェアハムおよびデーモン&ナオミ(要するに元ギャラクシー500の人たち)が寄稿してたのが個人的には良かったかな。でもやはり一番面白いのはムーアの序文だったりする。

MUSICAL BATON

バンクーバーのchilcoさんのところから、ブロガー向けの音楽チェーンレター「Musical Baton」が廻ってきたので、以下の5つの質問に答えさせていただきます: 1)コンピュータに入ってる音楽ファイルの容量:

415曲で2.34GB。あまり多くないですね。

2)今聴いている曲:

「RIDE INTO THE SUN」 Velvet Underground
(インストゥルメンタル版)

3)最後に買った CD:

「SHINY BEAST / BAT CHAIN PULLER」 Captain Beefheart
(CDというかiTMSでアルバムを購入)

4)よく聴く、または特別な思い入れのある 5 曲:

「KING INK」 The Birthday Party
ニック・ケイヴのベストな曲ではないものの、一応このブログの名の由来なので。


「FLOAT ON」 Modest Mouse
2004年のベスト・シングル。


「FOURTH OF JULY」 Galaxie 500
映画もそうですが、ダメ男の物語というのは他人事と思えないのです。


「(WHITE MAN ) IN HAMMERSMITH PALACE」 The Clash
熱意とやるせなさが同時に感じられるような曲。


「SEE THOSE EYES」 Altered Images
80年代初期のポップバンド。子供の頃からなぜか好きな曲です。

5)バトンを渡す5名様 :
人付き合いが悪いもので…。すいません。ちょっと思いつきません。

「HARVEY BIRDMAN, ATTORNEY AT LAW」

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カートゥーン・ネットワークの15分アニメ「HARVEY BIRDMAN, ATTORNEY AT LAW」のシーズン1をDVDで観る。 数年前にカートゥーン・ネットワークは深夜帯に日本のアニメや「フューチャラマ」や「FAMILY GUY」といった他局のアニメ、およびオリジナルのアニメで編成された「ADULT SWIM」という大人向け(エロに非ず)の番組枠を設けてみたわけだが、これが大ヒットしてジェイ・レノやデビッド・レターマンのトークショーに匹敵するくらいの視聴率を稼ぎだし、ちょっとした社会現象になってしまった。

「HARVEY BIRDMAN」はそのオリジナル・アニメの1つで、他にも「THE BRAK SHOW」「SPACE GHOST COAST TO COAST」「SEALAB 2021」などが製作されている。これらの作品の特徴はハンナ・バーベラの昔のマイナーなアニメを今風にアレンジして使っているところで、例えば「SEALAB 2021」は70年代のアニメ「SEALAB 2020」のパロディだし、「HARVEY BIRDMAN」も「BIRDMAN AND THE GALAXY TRIO」というアニメの主人公を流用しているが、内容とか設定はまったく別物。ヒーローだったはずの主人公ハーヴェイ・バードマンは現在なぜか法律事務所で弁護士として働いていて、才能はゼロに等しいものの、訴訟されたキャラクターたちのために裁判で熱弁をふるうのだった…というのが各エピソードの大まかなパターン。

とにかくギャグがシュール。ひたすらシュール。突然キャラクターが踊りだしたり、ビルから落ちたりするし、ストーリーと何の脈絡もなくピエロが現れて風船人形を作ってそのまま消えたりする。よく考えて作ってんだかどうか実に分からないアニメなのだ。しかもバードマンのところにやってくる顧客はハンナ・バーベラ作品の常連たちで、みんな変にパロディ化されているのが最高に笑える。例えばフレッド・フリントストーンはマフィアのボスだし、シャギーとスクービーはマリファナ所持の疑いで逮捕されるし、スーパーフレンズのアパッチ・チーフは熱いコーヒーを股間にこぼして「巨大化できなくなった!」と駆け込んでくるし…。日本でもCMとか同人誌なら「グレたタラちゃん」とか「風俗にハマったのび太」くらいのパロディはありそうだけど、実際にシリーズ化してしまうところがすごい。よくハンナ・バーベラも許可したよなあ。ちなみにあるエピソードに「SHOYU WEENIES」という日本人のポップグループが登場して、ちゃんと(カタコトの)日本語で吹替えがされてるんだけど、これって何か元ネタはあるんでしょうか。

よっぽど予算が少ないのか、アニメのクオリティはとってもショボいのだけど、逆にそのチープさが話の内容とマッチして、実に何ともいえない雰囲気を醸し出している。そうかと思えば突然実写になって着ぐるみのバードマンが登場したりと、変なところで凝ってるのもナイス。「ADULT SWIM」の視聴者はラリッた学生が大半だという話を聞いたことがあるけど、確かにビール片手に何も考えずにダラーッと見るのには最適な、脱力感に溢れた怪作になっている。

あと「ADULT SWIM」のオリジナル・アニメには、ミートボールとミルクシェイクとフレンチフライが主人公の「AQUA TEEN HUNGER FORCE」があるけど、これはあまりにも内容がシュールすぎてついてけませんでした。こんなのが大ヒットしてるっていうんだから、アメリカのアニメ事情は侮りがたい。

「THE DAILY SHOW with Jon Stewart」

通称「真実を伝えるウソのニュース番組」。コメディ専門チャンネルの「コメディ・セントラル」で放送されているニュース番組…ということはつまりコメディ番組なのだけど、最新のニュースを分かりやすく説明したうえで痛烈に風刺するスタイルが人気を呼び「普通のニュース局よりもためになる」とまで言われるようになった番組。以前はクレイグ・キルボーンが司会をキャスターを務めていたが、1999年にジョン・スチュワートに代わってから人気がグングン上がっていくようになった。 番組の形式はまず最新のニュースをスチュワートが伝えることから始まり、話題の政治家や芸能人のクリップに彼が絶妙なツッコミを入れて徹底的に風刺していく。また他局のニュース報道もよくコケにして、特に極右で知られるフォックス・ニュースなんかは格好のえじきにされているようだ。それから世界各地の“特派員”たち(本当はスタジオのブルースクリーンの前にいるだけ)とのやりとりが行われ、ここでも政治や芸能、宗教といった幅広いネタが風刺されていく。政治家のウソやメディアの偽善に鋭くツッコミながらジョークを入れるスタイルは、観てて爆笑するとともに胸をスカッとさせてくれる。真面目なニュース局と異なり、あくまでもコメディという立場をとっている「デイリーショー」のほうが、変に信用性とか確実性にこだわらずに事の真相を突くことができるというのはちょっと皮肉。

番組の後半にはゲストが登場してスチュワートと談話するのだけど、このゲストが実に多様で、ハリウッドの芸能人をはじめポール・クルーグマンのような学者やコリン・パウエル、ジョン・ケリー、はてはビル・クリントンといった政治家たちまでがやって来て興味深い話を聞かせてくれる。ここで感心するのは、元来コメディアンであるスチュワートがきちんと政治や経済情勢について下調べをしてきて、ゲストの専門的な話にもちゃんとついていっているところ。彼の明晰さはかなりのものがあり、特にCNNの討論番組に出演して司会者2人と真っ当に議論したことは語り草になっている。俗っぽいニュース番組でおざなりの司会をやってる日本の漫才師たちとはケタが違うのだよ。

番組では民主党も共和党も関係なくコケにするものの、そのスタイルは明らかにリベラル寄り。これは観客も同様で、ブッシュ批判のジョークが決まると大きな歓声を上げたりする。日本ではいまだに「電波の公共性」なんて唱えて放送内容の公平さを求める人がいるけど、放送局なんて結局は視聴者よりもスポンサーや政治家の顔色しかうかがってないんだから、むしろどの局も政治色・スポンサー色をハッキリと打ち出し、視聴者に腹の内を見せたほうがいいんじゃないでしょうか。まあアメリカでも地上波ネットワークでは報道の縛りがキツいのかもしれないが。

この番組の面白さをうまく文章で説明できなくて申し訳ないが、このサイトに過去のクリップがいろいろ置かれているので、興味があれば観てみてください。

ちなみにテーマ曲「火のついた犬(DOG ON FIRE)」はボブ・モールドが作曲で演奏がゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツという、ちょっと意外な組み合わせによる軽快な曲になっている。