「THE TERROR: INFAMY」鑑賞

本国では絶賛されたのに、日本ではアマゾンが全く宣伝してないからあまり知られてないAMCのホラー・アンソロジーのシーズン2。シーズン1はダン・シモンズの小説を原作にしていたが、今度はオリジナル脚本で、第二次大戦中の日記人収容所における怪異を扱っている。

舞台は1941年の南カリフォルニアの町。そこに住む日系移民の一世と二世は、日本とアメリカの緊張が深まり、人種差別やスパイ容疑の目に怯えながらも、漁師をしてひっそりと暮らしていた。2世であるチェスターは白人(ヒスパニック)の女性と関係をもって彼女を妊娠させてしまい、知人の日系人女性に堕胎薬の調合をお願いするが、その女性はその後謎の自殺を遂げる。他にも謎めいた怪奇な現象が日系人コミュニティで起きるなか、日本軍による真珠湾攻撃が起き、その結果チェスターの両親などは収容所に送られてしまうのだった…というあらすじ。

第1話ではまだそんなに多くのことは起きなくて、人ではなさそうな謎めいた女性が登場したり、移民とともに「バケモノ」が海を渡って町にやってきたのでは、と噂される程度。その一方では自殺した妻を虐待していた夫が盲目になったり、移民の漁船を焼こうとした白人が怪死を遂げたりと、意外とバケモノ(ユーレイ?)っていい奴じゃね?という描写もあるのですが、そこらへんの真相はこれから明かされていくのでしょう。

海外のレビューを見るとみんな言ってるのが「劇中の怪奇現象よりも、人種差別の描写のほうが怖い」みたいなこと。さらには現在メキシコとの国境で起きている、トランプ政権による移民の非人道的な扱いと重ね合わせて、80年近く前の話でありながらもそのタイムリーさに注目している人が多いみたい。まあ日本人として観ると、日系人が偏見を受けてネチネチと虐げられ、苦しめられる姿がとても感じが悪いものでした。あちらの黒人は黒人差別を扱った映画をこんな気分で観ているのかなあ、と実感したところです。とはいえ最近の慰安婦に関する騒動などを見ていると、自国の非道な歴史をきちんと描き出すアメリカの懐の深さには感心しますね。

スタッフも日系人が多数関わっているらしく、おかしな日本文化の描写などは殆どなし。まあカリフォルニアのコミュニティなので、日本のものとはちょっと違うわけだが。キャストも日本語を流暢に話す人が多く、まるで日本のドラマを観ているよう。チェスターだけが日本語がカタコト気味だったけど、まあ2世ということで。また冒頭の海の景色など映像が大変美しく、こうした撮影やセットの技術は日本のドラマを軽く凌いでいるだろう。

チェスター役は日系4世のデレク・ミオ。かなり悪役っぽい顔つきだけど主人公です。その母親を演じるのが「トーチウッド」の森尚子。俺が知る限りでは英語と日本語をもっとも流暢に話せる女優なので、これでアメリカでも人気が出て欲しいところです。あと日本人としては祐真キキが、いやみったらしい京都弁を話す女妖怪(たぶん)を演じています。そしてチェスターの祖父を演じるのが、自らも日系人収容所に入れられていたジョージ・タケイ。最近は収容所での体験を語り継ぐことにも力を入れている彼だが、この番組ではコンサルタントも務めて話に現実味をもたせている。

当時の日系人はみんな収容所送りになったのかと思っていたが、アメリカで生まれた人は市民権があるので収容されなかったの?こうしてチェスターは親たちと引き離され、愛国心を示すために軍隊に入るものの、そこでも差別を受けて…という展開が続くみたい。

ホラーという要素をどうとらえるにせよ、日系人の不遇をこうしてしっかりと扱った海外ドラマなんてそうあるものじゃありませんからね。日本のアマゾンでも近日中に提供開始になるらしいから、日本人なら観てみるべき作品かと。

「PENNYWORTH」鑑賞

米EPIXの新番組。第1話を某ストリーミングサービスで提供してたのを視聴。最近は配信サービスが多過ぎて、どこで何が提供されてるのか探し当てるのが難儀だわぁ…。

上の画像のDCコミックスのロゴと「ペニーワース」という題名でピンと来る人もいるかもしれないが、バットマンことブルース・ウェインの忠実な執事であるアルフレッド・ペニーワースの若かりし頃の冒険を描いた作品。バットマンといばキャットウーマンとかバットガールとかロビンとか、いろいろスピンオフが作れそうなキャラクターはいるだろうが、まさかアルフレッドとはね!なおバットマンの前日譚である「ゴッサム」にもアルフレッドが出演しているけど、あちらとのつながりは特にないみたい。

アルフレッドはバットマンと同じくらい古くから登場しているキャラクターなので、年齢設定は微妙にぼやかされておりまして、このシリーズでも舞台となるロンドンは60年代っぽいようで上空に飛行船が飛んでいたり、路上で犯罪者が首枷にかけられていたりと、ちょっとパラレルワールドっぽい世界になっている。アルフレッドはロンドンのクラブの用心棒として働く元兵士という設定になっていて、コミックみたいな元舞台役者ではないみたい。彼はいずれ自分の警備会社を立ち上げるのが夢だが、妹を連れ返すためアメリカからクラブに来ていたトーマス・ウェインとたまたま知り合う。そして会計士であるウェインはイギリスの闇組織に資金が流入していることを知ったために組織から狙われ、アルフレッドもまたその騒ぎに巻き込まれていく…というようなあらすじ。

トーマス・ウェイン(ブルースの父な)に妹なんていたっけ?というのは置いておいて、今後はマーサ・ケイン(ブルースの母)も登場するらしいが、バットマンにゆかりのあるキャラクターはそれくらいじゃないかな。というかこの番組、バットマンと切り離して観たほうが面白いと思う。アクションがあるかといえばそんなに多いわけでもなく、1話の前半はロンドンの闇社会におけるやりとりが淡々と続くわけだが、マイケル・ケインの「狙撃者」みたいな60年代ギャング映画のオマージュとして見ればそれはそれで面白かったりする。舞台がロンドンで役者がみんなイギリス人ということもあり、アメリカのシリーズというよりもBBCの「フレミング」みたいな番組を観ている感じでした。

どうもイギリスの闇社会では2つの反目する組織がそれぞれ社会転覆を狙っているという設定のようで、トーマス・ウェインはそれを監視する目的でアメリカ政府に命じられて当面はロンドン在住になるみたい。第1話の時点ではアルフレッドは彼のために働くのを断ってるのだが、自身は口うるさい両親と一緒に自宅に住んでいる、というのが妙にリアルで面白いところでした。

アルフレッドを演じるのはジャック・バノン…って「フューリー」とかに出てた人なのか。髪型がかつてのジュード・ロウみたいで、それはつまり、今後は…まあいいや。あとは知った顔だと闇組織の中堅ボスとしてジェイソン・フレミングが出ています。第1話の監督はダニー・キャノン。「ゴッサム」の第1話の監督も彼だったよな。もともとはスタローン版「ジャッジ・ドレッド」を監督したりとコミックへの思い入れはある人なので、「CSI」とかからこっちの世界に戻ってきたのは嬉しいことです。

批評家にはそんなに評判が良くないようだけど、バットマンという要素を忘れれば結構楽しめる内容であった。番組のほうもあまりバットマンとのつながりを強調しないほうが良いかもしれない。

「The Standoff at Sparrow Creek」鑑賞

良い評判を聞いていた低予算映画。ヘンリー・ダナムなる人の初監督・脚本作品らしい。

アメリカのとある片田舎の夜。その土地の民兵組織のメンバーであるギャノンは、警察無線を聞いているうちに何者かが警察官の葬式において銃を乱射し、逃走していることを知る。自分たちの組織にあらぬ疑いが向けられることを危惧したギャノンは、組織のほかの6人のメンバーたちとアジトに集結する。そこでしばらく潜んでいようという計画だったが、保管していた銃が1つ無くなっていることが発覚し、彼らの中に銃撃犯がいる疑いが出てきてしまう。メンバーのうち誰が犯人であるかを突き止めるため、元警官でもあるギャノンは調査を始めるのだが…というあらすじ。

舞台は夜のアジトだけで、女性も一切登場しないまま、ムサい男たちの腹の探り合いが繰り広げられる密室劇になっている。メンバーにはそれぞれアリバイがあり、彼らに対してギャノンが尋問をしていくのだが、メンバーのひとり(ギャノンのブラザーらしいのだが、実際の兄弟なのかはいまいち不明)は実は覆面警察官であり、ギャノンもそのことを知っていて、彼には他のメンバーから危害が加えられないよう苦心するというのが話にヒネリを加えている。

閉じこもった状況のなかで緊迫した状況が続き、外部の様子は警察無線を傍受することによってのみ知る、という展開はゾンビ映画に通じるものがあるな。最後のオチは、あとになって考えるとなんかしっくりこないところもあるけど、まあいいでしょう。

ギャノンを演じるのがジェームズ・バッジ・デールで、あとはパトリック・フィッシュラーとかクリス・マルケイなんかが出ています。デビュー作としてはどことなく設定が似てる「パルプ・フィクション」ほどに洗練された出来ではないけど、悪い作品ではないので、今後もこの監督のことはどこかで目にしていくんじゃないだろうか。

「Swamp Thing 」鑑賞

またちょっとVPNをゴニョゴニョして、DCコミックス(失礼、「DCエンターテイメント」ですな)の映像配信サービス「DC UNIVERSE」に加入してみたのであります。正直なところ価格の割にはラインナップは乏しいし、コミックの読み放題サービスもちょっと使い勝手が悪いような気がしますが、「タイタンズ」「DOOM PATROL」(まだ観てない)に続く第3のオリジナルシリーズとなるこれを視聴してみたら意外と面白いのでございます。

原作は植物と人間が融合したモンスターヒーローのスワンプシングを主人公にした一連のコミックで、かつてはウェス・クレイブンが「怪人スワンプシング」として映画化しているほか、TVシリーズ、さらにはアニメシリーズなども作られており、実はよく映像化されているキャラクターだったりする。

原案はレン・ウェインとバーニー・ライトソンというアメコミ界でも屈指のクリエイターたちだが、コミックが本当に有名になったのはアラン・ムーア御大が80年代初頭にライターに就いたときで、初っ端から「スワンプシングは人間と融合した植物ではなく、人間の記憶を持った植物な」と従来の設定をひっくり返し、それ以降はイギリスの魔術師ジョン・コンスタンティンが登場したり、世界の植物界を統治するパーラメント・オブ・ツリーズが出てきたり、さらにはスワンプシングが宇宙での冒険を繰り広げたりと、それはもう革新的なストーリーを繰り広げていたのであります。このコミックによってイギリスのライターたちがアメリカで活躍する機会が広がり、のちのヴァーティゴの立ち上げにつながったのは間違いないだろう。

んでこのTVシリーズのほうですが、賢明にもムーア御大のプロットは殆ど使わず、プロデューサーのジェームズ・ワンの映画を彷彿させるような、サザン・ゴシックのホラー作品に仕上がっている。

舞台は湿地帯に面したルイジアナの町マレー。そこでは植物に関連した謎の疫病が蔓延し、人々が病院に担ぎ込まれていた。マレー出身の医師であるアビー・アーケインは、疫病の原因を突き止めるために数年ぶりに故郷に戻り、そこでエキセントリックな植物学者のアレック・ホーランドと出会う。何者かが湿地に投棄している植物活性剤が疫病に関連していることを疑ったアレックは単身湿地に乗り込むが、何者かに撃たれて沼に沈んでしまう。そこで彼の体は活性剤と交わり、アレックはスワンプシングとして蘇るのだった…というあらすじ。

ただし話の主人公はあくまでもアビーであって、アレックことスワンプシングの登場はかなり抑えられている。アビーは過去に何らかの理由でマレーを離れており、いったい何があったのか?が徐々に明かされていくほか、湿地に関わる町の有力者の陰謀、さらには幽霊が出てきたりと、いろんな謎が絡み合っているのだが決して詰め込んだプロットにはならず、次はどうなるんだろうと思わせる内容になっている。

登場人物も多彩で、マット・ケーブルやジェイソン・ウッドリューといった原作でもお馴染みのキャラクターに加え、マダム・ザナドゥやファントム・ストレンジャーといった他のコミックのキャラクターも登場。かなりマイナーなブルー・デビル(の中の人)までもが登場したのは驚きました。アビーの叔父でスワンシングの宿敵であるアントン・アーケインが出てこないのが意外だが、いずれ登場するのかな。

役者はアビーを演じるのが「ゴッサム」のクリスタル・リード。有名どころでは有力者の妻をヴァージニア・マドセンが演じていたり、ジェニファー・ビールスとかが出演しています。「スター・トレック:ヴォイジャー」のティム・ラスもチョイ役で出ていたな。

製作ではゴタゴタがあったみたいで、当初1シーズン13話の予定が10話になり、さらに税金免除の見込みが間違ってた(正確な理由は不明)とかで開始直後に1シーズンでの打ち切りが決定されるなど不遇な目に遭っている。DCコミックスの虎の子作品「サンドマン」はNETFLIXに行ってしまったし、「DC UNIVERSE」自体がなんか不調なのでは?という声も出ているけど、数話みた限りではこの「SWAMP THING」かなり面白いので、今後も頑張ってDCコミックスの映像化に挑んで欲しいところです。

「MAD」休刊

1952年に始まった老舗ユーモア雑誌「MAD」がその歴史に幕を閉じるそうで。厳密にいうと発行元のDCからはまだ公式な発表が出てないし、過去の作品のリプリントは続けるて年末号にはちょっと新作を掲載するらしいが、まあ実質的な休刊とみなして良いでしょう。折りたたみマンガで知られる長年のアーティスト、アル・ジャフィー(98歳)は現役のまま「MAD」の終わりを見ることになった。

個人的には熱心な読者というわけでもなかったが、雑誌という形態から日本の洋書店でも比較的容易に見つけることができ、神保町のタトル商会とかでよく立ち読みしてました。DCのヴァーティゴで作品を出していたピーター・クーパーが名物連載「SPY VS. SPY」を引き継いだころで、セルジオ・アラゴネスなんかもよく寄稿していたな。創始者のハーヴェイ・カーツマンによる過去の作品も読んで、その奔放さに驚いたものです。

元々はホラー・コミックで知られるECコミックスから出版され、コミックス・コードと戦ったことで知られる出版人のウィリアム・ゲインズによって立ち上げられたコミック誌だったが、コミックス・コードの規制を避けるために「コミック」ではなく「雑誌」の形式をとって、カーツマンのもとウォリー・ウッドやウイル・エルダーといったアーティストを起用して人気を博していく。

これも個人的にはスケールが掴みづらいのだけど、「MAD」がベビーブーマーの世代に与えた影響ってものすごいものがあるようなのですね。ロバート・クラムやテリー・ギリアム、アート・スピーゲルマンといったアーティストたちだけでなく、「え、あなたも?」と思うような人たちがインタビューで「MAD」の影響を公言しているのを何度目にしたことか。権力やメディアを徹底的に風刺するそのスタイルが、当時のカウンターカルチャーに与えた影響は相当なものであるらしい。アメリカだけでなくイギリスではアラン・ムーアなどが「MAD」の大ファンだし、日本ではモンキー・パンチや赤塚不二夫などがその影響を公言している。さらに言うとジョーダン・ピールだって雑誌をベースにしたTV番組「MAD TV」の出身だぞ。個人的には「シンプソンズ」でのトリビュート(「もう僕はこの目を洗わない」)が好きですね:

最近でもトランプが民主党のピート・ブーテジェッジ市長を「アルフレッド・E・ノイマン」(MADのマスコットキャラクター)呼ばわりして、ブーテジェッジ(37歳)が「それ誰だっけ?」と返したやりとりがありましたが、もう若い世代は「MAD」とか読まないんだろうな。出版業界自体がアメリカでも落ち目なのか、DCはこないだヴァーティゴの終了も発表したし、いろいろ寂しいこってす。

「MAD」のライバル誌(たくさんあった)の1つ「CRACKED」が休刊してウェブメディアになってから意外と成功している(こないだスタッフ解雇してたけど)ように、雑誌以外の媒体で「MAD」の伝統を残すことはできないのだろうか。