アメリカの安楽死論議  その2

真面目に考えるべき話であるのは分かってるけど、一連の騒動が面白すぎるのでまた書く。

テリ・シャイボが延命装置を外され徐々に死に向かっていくなか、延命装置の再装着を拒否した判事のもとには脅迫状が山のように送られ、おかげでボディーガードがつけられるようになったとか。さらには尊厳死を求めた彼女の夫を殺した奴に250万ドルの賞金をあたえるというメールを配布した男が逮捕されたらしい。人に尊厳死を与えるのはダメだけど、それを求めた奴を殺すのはオッケー、という理論が実に単純で微笑ましい。

また彼女の両親は彼女が発した(とされる)「アー」と「ワー」という声は「I want to live」という意味だと主張し、最後まで戦い抜く気でいるとか。「アー」と「ワー」。

植物状態の人間はどこまで意思があるのか、というのが今回の件の抱える大きな問題だけど、天下のフォックス・ニュースは(自称)超能力者を持ち出してきて「彼女には我々のしてることが理解できるんです…」なんて言わせていた。ここまでくると何でもありの世界だよな。「ミリオンダラー・ベイビー」(ちょっと似たテーマを持つ)が現在公開されていたらどんな反響を呼んでいたろう。

MILLIONS

ダニー・ボイル監督の最新作「MILLIONS」を観る。「トレインスポッティング」や「28日後」などのキワモノ的作品も撮っているボイルだが、今回の作品は非常にストレートで心暖まる家族向け映画になっている。

舞台となるのはイギリスのとある住宅地。母親を亡くし、父親とともに引っ越してきたアンソニーとダミアンの幼い兄弟はすぐに新しい家に夢中になる。そしてダミアンは家の裏にある線路の横に段ボールの家をつくり空想にふけるが、ある日突然そこに大金の入ったボストンバッグが降ってくる。親や警察に伝えればお金が没収されてしまうと考えた彼とアンソニーは大金を自分たちで使うことにするのだが、やがて英ポンドがユーロに切り替えられ、彼らのお金が使えなくなる日が近づいてくる…というのが大まかなストーリー。無垢な兄弟(特にダミアン)が大金を手にしたとき、彼らはどのようなことに使っていくのかという光景を、社会風刺などは殆ど絡めずに率直に描いていっている。ダミアンはキリスト教の聖人にやたら詳しいという設定だが特に宗教色が強いわけでもなく、むしろ彼の前に実際に登場する聖人たちが非常に人間くさく、話に笑いを沿えている。
続きを読む

DAVID BORING

今さらながらダニエル・クロウズの「DAVID BORING」を読む。オルタネイティヴ系のコミックによくあるアンニュイの物語かと思ってたら全然違った。むしろミステリー仕立ての内容になっており、主人公がいつのまにか不可解な出来事に巻き込まれていくさまや、父親の描いたコミックを通じて彼の考えていたことを探ろうとする描写などはポール・オースターの小説に非常に似ているものを感じた。映画的な作品だという批評もあるようだけど、必ずしも多くないページ数でシンプルなスタイルをとりつつ、何層ものストーリーを重ね合わせていく技法はコミックならでのものだろう。2000年に出版されたものだが、細菌テロに怯える人々の姿が描かれているのも興味深い。

文句があるとすれば、主人公がサエない若者なのに次々と仕事やガールフレンドを見つけてくことかな。あくまでも個人的な経験に照らし合わせた不満ですが。

アメリカ版「THE OFFICE」

イギリスで大ヒットし、アメリカでもカルト的な人気を得てゴールデン・グローブまで獲得してしまった大傑作コメディ「THE OFFICE」のアメリカ版リメイクが放送されたので鑑賞する。

オリジナルの「THE OFFICE」の何がスゴかったかというと、オフィスという小世界の平凡な日常を描きながらも些細なネタで爆笑させるという、現実とコメディの非常にデリケートな境界を渡ることに成功したことだろう。主人公が笑えないジョークを出した後の「気まずさ」を笑うというアクロバット的な笑いの新境地を開いただけでなく、俺のような日本のサラリーマンにも仕事場での「イタさ」を追体験させてくれるほどの鋭い現実描写がとにかく見事だったわけだ。主人公のデビッド・ブレントみたいに「政治的に正しくない」発言を連発する上司なんて、かつての職場に腐るほどいましたって。
そして笑いに加えて、サラリーマンなら皆が経験するであろう解雇に対する不安感やオフィスでの恋愛なども描き、あの大感動の最終回(本当に泣きましたよ)をもって締めくくることができた、とにかく奇跡のようなシリーズだったわけである。

そんな傑作をリメイクして、オリジナルに勝るとも劣らない作品を作るのは決して容易なことではないだろう。そして今回の第1エピソードを観る限り、残念ながらリメイクには成功してないようだ。話の内容はオリジナルの第1話とほぼ同じで、いくつかのジョーク(特にイギリス人じゃないと分からないようなやつ)が変更されている程度だったが、逆に話の流れやセリフがほとんど同じであるために「見覚えがあるんだけど何かが違う世界」を観ているような違和感を感じてしまう。前に「シンプソンズ」でバートを騙すためにシンプソン一家を役者が演じるというネタがあったけど、まさしく本作でもデビッドやティム、ドーンに相応するキャラクターを演じる役者たちが「ニセモノ」に見えてしまうのだ。オリジナルを観てない人には関係ない話だろうが。

主人公を演じるのはスティーブ・キャレル。前に「デイリーショー」に出てた人らしいが、ちょっと奇声を上げすぎというか、何かオリジナルのリッキー・ジャーヴェイスに比べて役を作ってるような感じがするのがいただけない。ティムやドーン役の役者たちもオリジナルには適わないかな。ガース役の人がイヤミなオタクといった雰囲気になってたのだけは良かったと思う。オリジナルはちょっとハンサムすぎる感があったので。

そしてストーリーで気になったことを2つ。ティムが彼女に気があることを承知しているとドーンが語るシーンがあるのだが、オリジナルだと何も知らないドーンの気を引こうとするティムの一途な行動が面白かったわけで、彼の好意を知りながらも婚約者といちゃつくドーンというのは単なるイヤな女ではないかと。あとラストはティムがデビッドにイタズラをしかけるシーンで終わるのだが、オリジナルでは彼とデビッドの間には奇妙な師弟関係があったし、とんでもない上司であってもデビッドを露骨にバカにするような部下はいなかったはずである。迷惑な上司に反抗せず、ひたすら耐える部下の描写が魅力だったわけで。どちらも些細なことだろうけど、オリジナルの完璧さに比べるとどうしても気になってしまう。

オリジナルの原案者であるリッキー・ジャーヴェイスとスティーブン・マーチャントも製作にある程度関わってるようだし、これからの発展に期待したい気はするのだけど、残念ながら来週からは「HOUSE」の裏番組になってしまうので俺はもう観ないだろう。さらばアメリカ版「THE OFFICE」。

Doctor Who leak suspect is sacked

ちょっと前に「ネット上への流出は故意のものではないか?」と書いた「ドクター・フー」の件だが、BBCは犯人を突き止めて解雇したようだ。BBCの内部の者の仕業かと思ったら、なんとここカナダの下請け業者の人間だったらしい。BBCとCBC(カナダの放送局)のつながりが強いことを考えると必ずしも意外なことではないが、業界人としては最低の行為だよなあ。おかげで流出防止への締め付けがさらに厳しくなって、周囲の人間が仕事をしにくくなるだけだろうに。俺もダウンロードした身なので偉そうなことは言えないが。

でも客観的に見ると、この一連の騒動がBBCおよび「ドクター・フー」にとって莫大な宣伝になったことは明らかなので、今後はこれを真似して本当に宣伝に使う放送局が出てくるかもしれない。もしかしたらこの解雇も宣伝の一環か?