アメリカの安楽死論議

現在アメリカでマイケル・ジャクソンの裁判やマーサ・スチュアートの帰還よりも話題になっているのが、15年前に心臓発作のため重度の脳障害に陥ったフロリダの女性、テリ・シャイボの生死の問題である。植物人間の状態のまま生きることを彼女は望まないはずだと考えた彼女の夫は、栄養補給装置を外すことによる安楽死の許可を裁判所から得たものの、これに彼女の両親が反発、しかもキリスト教右派の議員がイースター休みにもかかわらずどんどん介入してきたのだ。栄養補給装置がなければ1〜2週間で彼女は死ぬため、しまいにはブッシュまでが休暇を返上して(!)ホワイトハウスに戻り、彼女を生かし続ける条例に署名してしまった。しかしこれにフロリダ地裁が反発、彼女に栄養補給装置を再接続するかどうかが最高裁まで持ち越される展開になってしまった。

確かに医学倫理や宗教などが絡んだ非常に複雑な問題ではあるのだろうけど、個人の問題に政府がそこまで口を出すかよ、といった感じである。議員の方々は「命の尊重を…」なんて言ってるらしいが、しょせんは票稼ぎのためにやってることがミエミエで、アメリカ人の7割近くもそれを察知してるらしい。そもそもブッシュはテキサスで知的障害者を含む何人もの人間を死刑にしてるわけで、そんな奴に命の尊重を説かれてもピンとこないのだが。

そんななかで「デイリーショー」が「これでどの程度の病気にならないと政府が助けてくれないかが判明した。喘息や糖尿病の連中なんて政府にとってはクソくらえってわけさ」と相変わらず痛快にコメントしていた

とりあえず遺書は早めに書いとこうね、というのが今回の教訓でしょうか。

ダブリン上等!

「ダブリン上等!」(INTERMISSION)をDVDで観る。何の特典も付いてないDVDなんてこっち来てから初めて見た。

内容は、まあ、「トレインスポッティング」になろうとしてなれなかった多くの作品の1つといった感じでしょうか。なんかどの登場人物にも感情移入できないというか、奇をてらうあまり率直にストーリーを語ることができてない印象を受けてしまう。とりあえずパブ帰りの酔っぱらいが撮影したようなカメラの揺れはどうにかしてくれ。グラグラ揺れ過ぎだっての。あと覆面をしたまま話すシーンが多いのも問題だろう。暴力が日常茶飯事で、パブかクラブに行く以外何も娯楽がないダブリンの田舎っぽさはうまくとらえてると思うけど。

コルム・ミーニーやケリー・マクドナルド、コリン・ファレル、キリアン・マーフィーといったそれなりに豪華なキャストが出てて、ニール・ジョーダンが製作やってるんだからもうちょっと出来のいいものが欲しかった。

ドニー・ダーコ

大傑作映画「ドニー・ダーコ」のDVDをリチャード・ケリー監督とジェイク・ギレンホールのコメンタリーつきで観る。前に日本でレンタルしたやつにはコメンタリーが付いてなかったので。ただしこないだ発売されたディレクターズ・カットの方ではない。

コメンタリーでは普通に観ただけだとなかなか気づかない、各シーンや物体が象徴する意味をいろいろ解説してくれてるので助かる。これってオカルトっぽいSF作品だと思っていたのだけど、監督によるとSFだけでなく「聖なる介入」の物語でもあるそうだ。つまり乱れた時間軸を正して世界を破滅から救う役目を神(であれ何であれ)がドニーに与え、生者や死者を操りながら彼を導いていく、というのが話の趣旨らしい。なるほど。奥が深い。

この映画を観るたびに思うが、これだけの傑作をデビュー作で撮ってしまったリチャード・ケリー(俺より若い)の才能はハンパなものじゃない。次回作はまだか?

SPIKE LEE SPEAKS OUT IN TORONTO

映画監督のスパイク・リーの講演会が昨日トロントであったらしい。

講演会のことは事前に知っていたものの、42ドルという入場料に文字通りエクスプロイテーション的なものを感じたので行かなかった。しかし人の感想をネットで読む限り、講演の内容はずいぶん奥の深いものであったらしい。そして講演のあとにQ&Aの時間があったのだが、監督に自分を売り込もうとする連中がろくでもない質問ばかりしてたとか。日本にもいるよね、こういう人たち。

しかし映画とエクスプロイテーションの関係について「ボーイズ’ン・ザ・フッド」を例にした質問が挙げられたとき、何と「ボーイズ〜」の監督であるジョン・シングルトン(現在トロントで撮影中)が客席から突然現れて質問に答えたとか。カッコいいぞ、シングルトン。

新「ドクター・フー」評

放送前のBBCドラマがネットに流出して注目度アップ
前にも書いた新「ドクター・フー」の第1エピソードがネット上に流出した件だが、これはむしろBBCが宣伝のために意図的に流したのではないか、という噂がずいぶん出ているようだ。海賊版にしてはあまりにも映像や音声のクオリティが良すぎる、というのが主な根拠らしい。もちろんBBCはこの噂を否定しているけど、「ドクター・フー」のようなギーク連中にカルト人気を誇るシリーズならこのような宣伝方法は非常に効果があるのではないか。実際に相当な関心を呼んだようだし。

ということで早速ファイルを入手して鑑賞してみた(良い子は真似しないように)。噂どおりデータのクオリティは非常にいい。明らかに完成版、もしくは準完成版のマスターテープから関係者が流出させたものだろう。本当に宣伝のために流されたのかどうかは不明だが、それなりの手間をかけてエンコードしているのは間違いない。

ここで「ドクター・フー」を知らない人(不届き者め!)のために簡単な説明をしておくと、これはイギリスで1963年に始まった人気SFシリーズで、主人公の「ドクター」が時間と空間を自在に移動できる装置「ターディス」(外見は警察専用の電話ボックス、というのがミソ)に乗り込み、助手たちとともに悪い異星人などを撃退していく、といった内容のもの。日本の「ウルトラマン」やアメリカの「スター・トレック」に匹敵するような国民的SF番組だが、オヤジが主人公なので必ずしもアクションが売りではなく、むしろエキセントリックなドクターのとぼけた行動が番組の大きな魅力になっている。
ドクターは13の命を持つ異星人という設定なので、ドクターの役者が変わっても「彼は体を再生した」ということでシリーズが続けられてきたが、残念ながら1989年に7代目ドクターの段階で放送が終了してしまった。その後もアメリカの市場を狙ったパイロット版が1996年に製作されているが、不発に終わっている(俺は好きだが)。そして今回は名優クリストファー・エクレストンが9代目ドクターとなり、実に16年ぶりに新シリーズの放送が決まった次第である。

そして第1エピソードの肝心の内容は…。ウォーレン・エリスがレビューで「アメリカのSci-Fiチャンネルが放送を渋ったのもよく分かる。ストーリーがあまりにもイギリス的だからだ」と言ってたが、本当にその通りだった。舞台はロンドンだし、登場人物の台詞はみんなイギリス訛りで、特に主人公であるクリストファー・エクレストンはランカシャー訛りが炸裂しまくってる。「あなたが異星人なら、何で北部訛りがあるのよ」と劇中で言われて、「どの惑星にも北はあるだろ」と応えてたのには笑ったが。まあ「ドクター・フー」はロンドン塔や悪天候と同じくらいのイギリス名物なので個人的には全然構わないけど、アメリカの市場に食い込むにはキツいかな。
あとセットに金をかけてるわりには、特撮や役者の演技がショボいかと。まあここらへんは編集に手間をかければどうにかなりそうなので、もし今回流出した映像が完成版でないとすれば、より凝ったものを期待したいものだ。

そして脚本もかなりマズい。今回ドクターが対決するのはプラスチックを自在に操ることのできる異星からの存在で、彼はロンドン中のプラスチックを操って地球征服を狙うのだが…。もちょっとマシな敵は考えつかなかったのか?マネキンが動き出して人を襲ったり、ゴミバケツが人を喰うシーンは見ててかなり力が抜ける。まるでコメディの「レッド・ドワーフ」のようだ。まあ昔から子供向けのシリーズであったので、あまり高尚なストーリーを期待してはいけないんだろうけど、ダレークやサイバーメンといったかつての宿敵たちの復活が望まれる。

そして最大の問題は、ドクターの新しい助手となるローズがブスだということに尽きる。歴代のドクターには数多くの助手がついてきたが、今回のローズはかなり個人的には受け付けないです。ローズ役のビリー・パイパーはイギリスで有名なポップ歌手だということだが、ちょっと人選ミスでしょう。演技もヘタだし。
その代わりと言ってはなんだが、主人公のエクレストンはドクターのエキセントリックな雰囲気をうまく出していて楽しい。ドクターにしてはたまに弱気な表情を見せるところが気になるが、それはこれからの脚本次第ということで。ぜひ人気の復活してほしいシリーズである。

あと、テーマ曲がカッコ悪くなってないか?