アメリカ版「THE OFFICE」

イギリスで大ヒットし、アメリカでもカルト的な人気を得てゴールデン・グローブまで獲得してしまった大傑作コメディ「THE OFFICE」のアメリカ版リメイクが放送されたので鑑賞する。

オリジナルの「THE OFFICE」の何がスゴかったかというと、オフィスという小世界の平凡な日常を描きながらも些細なネタで爆笑させるという、現実とコメディの非常にデリケートな境界を渡ることに成功したことだろう。主人公が笑えないジョークを出した後の「気まずさ」を笑うというアクロバット的な笑いの新境地を開いただけでなく、俺のような日本のサラリーマンにも仕事場での「イタさ」を追体験させてくれるほどの鋭い現実描写がとにかく見事だったわけだ。主人公のデビッド・ブレントみたいに「政治的に正しくない」発言を連発する上司なんて、かつての職場に腐るほどいましたって。
そして笑いに加えて、サラリーマンなら皆が経験するであろう解雇に対する不安感やオフィスでの恋愛なども描き、あの大感動の最終回(本当に泣きましたよ)をもって締めくくることができた、とにかく奇跡のようなシリーズだったわけである。

そんな傑作をリメイクして、オリジナルに勝るとも劣らない作品を作るのは決して容易なことではないだろう。そして今回の第1エピソードを観る限り、残念ながらリメイクには成功してないようだ。話の内容はオリジナルの第1話とほぼ同じで、いくつかのジョーク(特にイギリス人じゃないと分からないようなやつ)が変更されている程度だったが、逆に話の流れやセリフがほとんど同じであるために「見覚えがあるんだけど何かが違う世界」を観ているような違和感を感じてしまう。前に「シンプソンズ」でバートを騙すためにシンプソン一家を役者が演じるというネタがあったけど、まさしく本作でもデビッドやティム、ドーンに相応するキャラクターを演じる役者たちが「ニセモノ」に見えてしまうのだ。オリジナルを観てない人には関係ない話だろうが。

主人公を演じるのはスティーブ・キャレル。前に「デイリーショー」に出てた人らしいが、ちょっと奇声を上げすぎというか、何かオリジナルのリッキー・ジャーヴェイスに比べて役を作ってるような感じがするのがいただけない。ティムやドーン役の役者たちもオリジナルには適わないかな。ガース役の人がイヤミなオタクといった雰囲気になってたのだけは良かったと思う。オリジナルはちょっとハンサムすぎる感があったので。

そしてストーリーで気になったことを2つ。ティムが彼女に気があることを承知しているとドーンが語るシーンがあるのだが、オリジナルだと何も知らないドーンの気を引こうとするティムの一途な行動が面白かったわけで、彼の好意を知りながらも婚約者といちゃつくドーンというのは単なるイヤな女ではないかと。あとラストはティムがデビッドにイタズラをしかけるシーンで終わるのだが、オリジナルでは彼とデビッドの間には奇妙な師弟関係があったし、とんでもない上司であってもデビッドを露骨にバカにするような部下はいなかったはずである。迷惑な上司に反抗せず、ひたすら耐える部下の描写が魅力だったわけで。どちらも些細なことだろうけど、オリジナルの完璧さに比べるとどうしても気になってしまう。

オリジナルの原案者であるリッキー・ジャーヴェイスとスティーブン・マーチャントも製作にある程度関わってるようだし、これからの発展に期待したい気はするのだけど、残念ながら来週からは「HOUSE」の裏番組になってしまうので俺はもう観ないだろう。さらばアメリカ版「THE OFFICE」。

Doctor Who leak suspect is sacked

ちょっと前に「ネット上への流出は故意のものではないか?」と書いた「ドクター・フー」の件だが、BBCは犯人を突き止めて解雇したようだ。BBCの内部の者の仕業かと思ったら、なんとここカナダの下請け業者の人間だったらしい。BBCとCBC(カナダの放送局)のつながりが強いことを考えると必ずしも意外なことではないが、業界人としては最低の行為だよなあ。おかげで流出防止への締め付けがさらに厳しくなって、周囲の人間が仕事をしにくくなるだけだろうに。俺もダウンロードした身なので偉そうなことは言えないが。

でも客観的に見ると、この一連の騒動がBBCおよび「ドクター・フー」にとって莫大な宣伝になったことは明らかなので、今後はこれを真似して本当に宣伝に使う放送局が出てくるかもしれない。もしかしたらこの解雇も宣伝の一環か?

「BATTLESTAR GALACTICA」

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タイトルから分かるように、70年代のSFシリーズ「宇宙空母ギャラクティカ」のリメイク作品(製作側は「リイマジネーション作品」と呼んでいる)。2003年にミニ・シリーズとして復活を果たし、その奥の深いテーマや緊迫感に満ちたプロットがSFファンの間で大きな話題になった。第1シーズンの放送は出資の関係でイギリスの方が早かったため、ネット上では大量の映像ファイルが北米へ「輸出」されたほどの人気を誇る。一時期はブライアン・シンガーによるリメイクの話もあったらしいが、このシリーズで総指揮を務めるのは「スタートレック:ディープ・スペース・ナイン」などのライターであったロナルド・D・ムーア。勝ち目のない戦いをしている人々の描写は、後期の「DS9」にちょっと似ていなくもない。

ストーリーは12の惑星に植民地を設けて暮らしていた人類が、ある日突然に彼らの造り出したロボットである「サイロン」たちによる核攻撃を受け、絶滅寸前の状態に陥ってしまう。そしてわずか5万人となった人類の生き残りたちは宇宙空母ギャラクティカに導かれながら、サイロンの追跡を逃れて伝説の惑星「地球」にたどり着くため、長く苦しい旅に出発するのだった…というもの。おおまかなストーリーはオリジナル・シリーズとあまり変わっていないらしいが、人間そっくりのサイロンが登場したりするなど(自分がサイロンだと自覚していないものもいる)、細かい変更が加えられているようだ。特にメイン・キャラクター2人が男性から女性になったのはファンの間でかなりの議論になったとか。

製作側の話によると、このシリーズは9/11テロをモデルに「大惨事を経験した人々」の描写をテーマにしているらしいが、確かに話は非常に重く、暗いものになっている。人々はサイロンに追われ続ける日々を過ごし、周囲の人間が隠れサイロンではないかと疑心暗鬼になっているのだ。ここには「スタートレック」に出てくるような明るい未来の姿は微塵もない。どのエピソードにもスリル満点のアクション・シーンがあるものの(特に戦闘機のドッグファイトの特撮は見事)、あくまでも人間ドラマに重きをおき、希望が打ち砕かれる寸前にいる人々の姿をリアルに描いたことが絶大な人気につながったのだろう。また多神教を信仰する人類に対し、唯一神の概念を持ち、謎めいたプランにしたがって行動するサイロンたちがストーリーに奥行きをあたえている。

主人公のアダマ艦長を演じるのは「ブレードランナー」などで有名なエドワード・ジェームス・オルモス。トレードマークの口ひげを剃り落し、従来のどちらかといえば陽気なイメージをかなぐり捨て、厳格で孤独な艦長の役を見事に演じ切っている。そして人類の生き残りの代表である大統領を演じるのは「ドニー・ダーコ」のメアリー・マクドネル。末期ガンに冒されていることをひた隠しにしながら、人類を導こうとする薄幸の女性である(この人はこんな役ばっか)。バンクーバーで撮影されていることもあり、他の出演者はカナダ人がずいぶん多いようだ。

とにかく話が暗いとはいえ、一度見ればその緻密さとリアルさが病みつきになるシリーズだが、個人的にはサイロンが強すぎるのが少し気に入らないかもしれない。ギャラクティカに隠れサイロンが何名も潜伏しているうえ、超自然的といえるくらいの能力を持っているのだが、人類を「観察」するという目的のために絶滅させていない(らしい)というのは、ギャラクティカが孤軍奮闘している意味がないかと。あと現在どのドラマでも大流行の「グラグラビジョン」(カメラがとにかく揺れる)を使ってリアルさを出そうとしてるのは分かるのだが、あれはちょっと揺れ過ぎでしょう。でもシリーズの圧倒的な出来に比べれば些細な不満である。

ちなみに第1シーズンの北米での放送開始と「スタートレック:エンタープライズ」の放送打ち切り決定はほぼ同時期に行われたのだが、「スタートレック」が不人気になり、「宇宙空母ギャラクティカ」の人気が再燃するなんて数年前には誰も予想できなかっただろう。

なおイギリス版と北米版はオープニングの曲が違っている。女性ボーカルを使ったイギリス版の方がずっとカッコいい。

アメリカの安楽死論議

現在アメリカでマイケル・ジャクソンの裁判やマーサ・スチュアートの帰還よりも話題になっているのが、15年前に心臓発作のため重度の脳障害に陥ったフロリダの女性、テリ・シャイボの生死の問題である。植物人間の状態のまま生きることを彼女は望まないはずだと考えた彼女の夫は、栄養補給装置を外すことによる安楽死の許可を裁判所から得たものの、これに彼女の両親が反発、しかもキリスト教右派の議員がイースター休みにもかかわらずどんどん介入してきたのだ。栄養補給装置がなければ1〜2週間で彼女は死ぬため、しまいにはブッシュまでが休暇を返上して(!)ホワイトハウスに戻り、彼女を生かし続ける条例に署名してしまった。しかしこれにフロリダ地裁が反発、彼女に栄養補給装置を再接続するかどうかが最高裁まで持ち越される展開になってしまった。

確かに医学倫理や宗教などが絡んだ非常に複雑な問題ではあるのだろうけど、個人の問題に政府がそこまで口を出すかよ、といった感じである。議員の方々は「命の尊重を…」なんて言ってるらしいが、しょせんは票稼ぎのためにやってることがミエミエで、アメリカ人の7割近くもそれを察知してるらしい。そもそもブッシュはテキサスで知的障害者を含む何人もの人間を死刑にしてるわけで、そんな奴に命の尊重を説かれてもピンとこないのだが。

そんななかで「デイリーショー」が「これでどの程度の病気にならないと政府が助けてくれないかが判明した。喘息や糖尿病の連中なんて政府にとってはクソくらえってわけさ」と相変わらず痛快にコメントしていた

とりあえず遺書は早めに書いとこうね、というのが今回の教訓でしょうか。

ダブリン上等!

「ダブリン上等!」(INTERMISSION)をDVDで観る。何の特典も付いてないDVDなんてこっち来てから初めて見た。

内容は、まあ、「トレインスポッティング」になろうとしてなれなかった多くの作品の1つといった感じでしょうか。なんかどの登場人物にも感情移入できないというか、奇をてらうあまり率直にストーリーを語ることができてない印象を受けてしまう。とりあえずパブ帰りの酔っぱらいが撮影したようなカメラの揺れはどうにかしてくれ。グラグラ揺れ過ぎだっての。あと覆面をしたまま話すシーンが多いのも問題だろう。暴力が日常茶飯事で、パブかクラブに行く以外何も娯楽がないダブリンの田舎っぽさはうまくとらえてると思うけど。

コルム・ミーニーやケリー・マクドナルド、コリン・ファレル、キリアン・マーフィーといったそれなりに豪華なキャストが出てて、ニール・ジョーダンが製作やってるんだからもうちょっと出来のいいものが欲しかった。